第一話(1)
重い瞼を開けて、太陽の光を浴びる。
曖昧な意識が覚醒していく。
周囲を見回し、国を傾げる。
「今の、夢…? 誰だったんだろう? 見覚えがないなぁ」
記憶を遡るが、どの思い出も無い。
ため息を吐き、背伸びする。
窓を開ける。
鳥が驚いて空へ飛んでいき、巨大な建物の隙間に消えてゆく。
二つの塔から成る魔法学園都市エンドウォール。
私の憧れである聖地に居るという実感を噛み締める。
厳しかった試験を突破した日を思い馳せて、拳を握り締めて突き上げる。
「よぉーし! 今日から私の魔法学園の生活が始まるぅ! うぇーい!」
嬉しすぎて、大きい声が出てしまう。
「うっさいなぁー」
私の隣のペットが蠢き始めた。
しばらくもこもこしていた布団から、もっさりとした髪の少女が出た。
「あーし、気持ちよく寝たんだけどなぁ」
「ご、ごめん」
「で、どうしたの? 元気が無かった昨日とは違って、ウキウキだね?」
そう問われて、私は口角を吊り上げる。
「だって、幼い頃からの夢を叶える為にやってきたんだよ! もう嬉しくて!」
ぐいぐいともっさり髪の少女に迫る。
そんな私はウザられているけど、気にしていない。
その時、寮長の声が響き渡る。
『エル・フランア。今すぐ寮の入り口に来て下さい』
私は首を傾げながら、寮の入り口に向かう。
そこに待っていたのは二人。
規則に厳しい事で有名な寮長。
もう一人は夢に出てきた、眼鏡を掛けた男性。
私を視認した後、前置きもなく、寮長が告げる。
「エル・フランア。この時を以て、貴様をバルド・ブールアの独立部隊に配属してもらう!」
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こうして、エルの伝説が始まった。