主への手紙(という名の暴露)
〜偉大なる主へ〜
長い間、ありがとうございました。
貴女にそれを伝えたいです。
覚えていますか。
私たちが出会ったのは、まだ、貴女が幼い娘であった頃でした。あの頃の貴女は、気ばかりが強く実力の伴わない、世間知らずなだけの少女でしたね。私もまだ年若く、決して一人前とは言えませんでしたが。そんな私から見ても、貴女はひたすら愚かな箱入り娘でしかなかった。その時は思いもしませんでしたよ、貴女が、今のような人物になるなんて。
それからもう十年ですか。早いものです。
馬に乗れば三秒で頭から地面に落ちる。料理をすればすぐに爆発させ、紅茶を淹れれば唐辛子のような独創的な味に仕上げて。しまいには剣の訓練で味方をうっかり斬りつけ、よく流血騒ぎを起こしていましたね。
それでも、貴女はいつも諦めず、努力なさっていた。
私は、そんな貴女を、一番近くで見守ってきました。
だから分かります。これからも貴女は人々のために戦える女性であり続けるのだと。
貴女はもうお一人で行けるのでしょう。勇ましく強い心で、穏やかで優しい瞳で、未来を拓くことができるはずです。たとえ、三秒で馬から落ちることは変わらずとも、もうかつての情けないお嬢様ではないのですから。
では、この辺りで失礼致します。
良いお年をお迎え下さい。
〜懐かしい忠臣より〜
とある年の瀬、その国の女帝に届いたのが、この一通の手紙であった。
女帝の過去を知る者は少ない。それゆえ多くの憶測が飛び交った。特に侍女たちの間では、「昔の恋人からなのでは」と噂になり、その噂で盛り上がるあまり年の終わりの掃除を疎かにする者まで出てきた。が、そんな彼女らを女帝は咎めない。女帝は凛として「年頃の娘にはよくあること」と述べたそうだ。それによって女帝は「何と広い心の持ち主なのだろう」と、益々賞賛されることとなった。
その時のことを、後に、女帝はこう語っている。
「私はあの手紙に書かれた情けない内容が事実であると悟られたくなかった。それゆえ、侍女たちが『差出人の正体』に意識を向けていたことは、私にとっては好都合だったのよ」