(002)
マリアンナがエスペランサとしてアルトサスへ嫁ぐなら、マリアンナとしてそれを見送る者も必要になってくる。
(エスペランサにシルエラがついていないのも不自然か……)
切欠こそ、マリアンナが口にした「お強請り」だが。なるほどそれは面白そうだと一度は乗りかかった舟。
欲しがりな妹に「明日、王弟へ輿入れする伯爵令嬢」という立場をくれてやったエスペランサは、気心の知れた侍女を連れて妹の部屋へと立ち入った。
「簡単に荷物をまとめてくれ。できれば、マリアンナが自分でやったふうに」
「マリアンナさまがご自身で、ですか……やってみます」
あくまで手際よく、クローゼットから持ち出したマリアンナのトランクに雑然と荷物を詰め込むという器用なことをやってのける侍女を横目に、エスペランサは書き物机の抽斗をあさり、見つけた便箋の適当なものに「失恋したので修道女になります」というような内容を妹の字でつらつらと情感たっぷり、とりとめもなく書き綴った。
「どうだ、マリアンヌらしく書けているか?」
「……はい。そのように思います」
「よし」
インクを乾かした便箋は封筒に入れて机の上へ。
トランクを持たせた侍女と二人、誰に見咎められることもなく自分の部屋へと戻ったエスペランサは「伯爵令嬢エスペランサ・パクトゥーム」としての普段着から着替え、マリアンナの荷物が詰まったトランク片手にパクトゥーム伯爵家のタウンハウスを抜け出した。
「私はマリアンナ。シルエラ、次に私がお前を呼ぶまで、お前は私がエスペランサであることを思い出さない」
――翌日。結婚式場で花嫁と対面を果たした花婿が怒髪天を衝く勢いで激怒したことは言うまでもない。
アルトサス殿下が出会い頭に「パクトゥームはパクトゥームでも妹の方じゃねぇか!」となったのは多分愛とかそういう(適当)




