くーちゃん
拙い文ですが、最後までお付き合いください。
僕はくーちゃん。クマのぬいぐるみなんだ。そして、もう遊んでくれる子のいない寂しいぬいぐるみ。
僕が昔の持ち主の子と出会ったのは、かれこれ20年前。その子が5歳の頃だった。
パパとママから僕を受け取ったその子は嬉しそうに満面の笑みで、ぎゅ〜〜っと僕を抱きしめてくれたんだ。
それから僕らは、いつも一緒。一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に遊んで、一緒に笑って。
......そういえば、君はたくさんのプレゼントも僕にくれたよね。
最初のプレゼントが「くーちゃん」っていう名前。次に洋服。この服は裁縫上手のママに仕立ててもらったよね。
今も大切に着ているよ。
それから新しい友達もくれたよね。
たしか、ウサギのぬいぐるみの「みーちゃん」とネコのぬいぐるみの「にーちゃん」。
僕は嬉しかったんだ。2人とも、他の家にもらわれて行ったけど...。
そして、どんどんと月日が過ぎていって、君の興味は別のところにいってしまった。
わかってたよ?いつか君も、大人になるってこと。僕じゃない、人間の友だちと遊ぶようになるってこと。
だから、僕は君が遊びに部屋を出て行くのを静かに見送っていた。...ちょっぴり、寂しかったけどね。
君と僕が出会って20年。大人になった君は結婚してほとんど帰ってこなくなって、とうとう僕の存在はみんなから忘れられた。誰も僕に近づかないから僕、こんなにホコリまみれになっちゃった。
...静かだなぁ。嫌だなぁ。忘れられたくないよ...。
「ママ〜、今もある?ほらあのクマのぬいぐるみ。誕プレでくれた!」
...あぁ、あの子の声がする。大人の女性になった、あの子の声が。優しかったあの子の声。
ずっと、ずっと聞きたかった...。
ガチャッ、とドアが開かれ、僕のいる部屋に明かりが灯ってあの子とママが入ってきた。
「うわぁ懐かし〜!全然変わってな〜!」
「そりゃそうよ。だってあんたが出てってから一度も入ってないもの」
「さてと、どこかなぁ〜...?」
あの子は部屋を見回してる。
「ん...?あっ!あった!...って、ボロッ!」
そして、抱き上げられたのは僕だった。僕はびっくりして、あの子の顔を見つめる。
「懐かしいなぁ。えっと...そう、くーちゃん!」
あの子は、昔と何も変わらない笑顔を浮かべる。
「え〜あんた、そんなボロいのあの子にあげるのぉ?やめときなさいよ〜」
「え〜別に大丈夫だよ〜。洗えばいいんだし」
「まったく...しょうがないわね」
そして僕は実に14年振りに、あの子の部屋を出た。...と思ったら、すぐに狭くてまるい機械の中に放り込まれた。
蓋をされて、ピッピッ、て音がすると、どこからか水が出てきて僕は呑まれた。
うわぁぁ〜〜っ!目が回る〜...
かと思ったら、今度はぎゅーって僕の耳を挟まれて外に干された。濡れた体はみるみるうちに乾いた。
体が乾ききると、僕はやっと解放された。干された時は痛くて、耳がちぎれるかと思った。
「おぉ〜綺麗になった!」
...でも、あの子は嬉しそうだからいいや。
その次の日、僕は知らない家に連れてかれた。僕ももらわれていくのかな?
連れて行かれた部屋には小さなベッドが置かれてた。
「ほらまきちゃん、くまさんですよ〜?」
あの子は、ベッドの中に僕を入れてあやすような声で言う。
「うぅ〜、あー!」
隣には、赤ちゃんがいて、何か言っている。僕をじーっと見つめながら。
...どういうことなんだろう?
「くーちゃん、今日から娘のまきのこと、よろしくね?」
あぁ、そういうことか!この子...まきちゃんは、あの子の娘なんだ!
...僕、またあの子と居られるんだ。それから、僕と遊んでくれる子とも。
...嬉しい。欲しかったものがいっぺんに手に入った気分!
「あぁう、あぁー!」
まきちゃん、僕は君のぬいぐるみだよ。これからよろしくね。
ありがとうございました。
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