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昼寝をしていた鏡は勝喜からのメールで無理やり叩き起こされたようなものだった。
それはもう常時騒音を撒き散らしている壊れかけのラジオみたいに高らかに着信を告げまくっていた。
その騒音の原因は勝喜で、思いついたことを片っ端から呼吸をするがごとく送り続けていたからだ。
鏡が我慢できずに携帯に向かい合った頃には、受信ボックスに77通ものメールが溜まっていた。
何なの? 誰からよと見てみると全てが勝喜だった。
無視しようと思ったものの、これ以上、延々と送ってこられると堪ったもんじゃない。
もしかしたら、事件とか事故とかに巻き込まれたのかもしれない。
77通と言うメール受信に驚きもしない鏡は、いわゆる天然と呼ばれてもいいかもしれなかった。
内容はというと、とうとうあいつもおかしくなっちゃったのかな、というようなものだった。
内容がどうとかそういう問題以前にメールを77通も送りつけてくる馬鹿の相手をしてやる優しさを持ち合わせている鏡に賞賛を。
更に律儀にもそれを全部読んだと言うから恐れ入る。
メールは断片的で意味の分からない文章も多々あり、謎解きのような気分にさせられた。
あいつ、クイズでも私に出そうとしてるのかしら? ふと鏡は思った。
鏡は細切れの文章を再構築して、何とか意味を持たせることに成功した。
わざわざメモ帳を持ち出して文面を書き出し、どうにかこうにか読めるようにしたわけだ。
二時間強の時間をかけてまでやるところを見ると、ただの暇人なのかもしれない。
要約すると、「666=悪魔=勝喜」は「555=ヒトラーのナチ党の党員番号=???」に狙われており、
「777=スロット大当たり=清二」と共謀している可能性すらある。
「444本=長島茂雄の通産ホームラン」「333メートル=東京タワーの高さ」「2月22日=猫の日」「1月11日=犬の日」これも気になる。更にわけのわからない何者かが出現する可能性は捨てきれないとも。
この三桁のゾロ目に対する勝喜の決め付けは極めて恣意的だった。
鏡はウィキペディアで調べてみた所、たった一つの意味だけに還元できるものじゃないことを突き止めた。
888,999の立場はどうなるそれに?
一体どうしっちゃったんだろう。自分が悪魔だなんて。そりゃ周りの人と同じじゃいやだというという気持ちはわかるけど、自分が悪魔だ! 何て宣言する事は勝喜が想像するのと違う意味でびびっちゃう気がめちゃするんだけど。
以前から変わってるとは思っていたけど、更に頭をシェイクされっちゃったのかな。
かわいそうに、とまで思った。
半年ほど前、町で偶然あったときはそんなに飛んでるなんて見えなかったのに。
5年程の付き合いで色々楽しい経験をしたこともあってしてきっぱりとおかしいと断定することはさけたかった。
たまのメールもやり取りも「元気かー?」ってな感じで今日みたいに頭のおかしさをそこはかと醸し出していることなんて一度もなかったのに。これからもいい友達でいたかったのに。
なのに……。
鏡はメールにこう書いた。
「もう二度と送ってこないで。頭おかしいんじゃないの? 清一まで悪者にして。あんたがなに考えようと勝手だけど、
他人に迷惑を掛けるようなことはやめたら? 最低。さようなら」
メルアドも変えよう。何だって私なのそれにしたって。送る相手間違ってる。
引くってことぐらいすぐわかるでしょうに。ばっかみたい。さーて、シャワーシャワー。
彼女にとってメールの量は問題にならなかったようだった。世界は広い。
勝喜は鏡からのメールを受け取った時にはすでにメールを送る情熱を失っていた。
目下の一大事、「555=???」が一体誰なのかについて頭を悩ませていたのだ。
俺はヘマを犯したのかもしれない。
鏡だって可能性はあるのに自分の思いつきについ熱くなってメールを送りまくってしまった。
大概のアホだ。
俺は更に危険を推し進めたかもしれない。
まったくなんという不注意だ! 目も当てられないとはこのことだくそったれ!
あれ、そういやあいつ清一と面識なんてあったのか?
清一と鏡と俺で会ったことなんてあったけ?
思い出せない。
譫妄状態に勝喜は入り込んだようだった。
デジタル時計は4:44を表示したまま、挑戦的に清一に俺を見ろ! と自己自身を提示しているように見えた。