第6話ー僕の想い
2016年1月の事実上の第1週は、こんな感じで三が日が終わり次第、4人の教え子を懸命に教えることに費やす羽目になった。
仕方ないとはいえ、本当に忙しい。
本来の学業に加え、予備役士官養成課程における勉学と訓練(おかげで夏休み等、ほぼ無いと言っても間違いでない状況に置かれる。)をしないといけない。
家庭教師というアルバイトが無かったら、自分は体を壊す羽目になっていただろう。
他に自分が出来そうな時給3000円という仕事を、自分は思い付けない。
何故、時給3000円に僕がこだわるのか。
それは、僕が予備役士官養成課程を取りつつ、士官として勤める御礼奉公を避けるには、時給3000円のアルバイトが必須だからだ。
時給3000円あれば、週12時間で3万6000円のバイト代が手に入る。
そして、年に180万円程の収入が手に入る。
年200万円の奨学金に手を付けず、熨斗を付けて、僕が返そうと考えるのなら。
本来の学業に加え、予備役士官養成課程の受講を支障なく受け、僕がアルバイトをしようとするのなら、僕がアルバイト可能な時間は、大雑把に言って週12時間程。
何とか、卒業時に200万円程まで、奨学金の返済額を減らせれば、年20万円、月2万円に満たない返済で済むことなるのだ。
そういったことを、自分なりに勘案して、時給3000円という数字が出てきた。
とはいえ、東京帝国大学の現役学生とはいえ、時給3000円を稼ぐのはきつい。
こういった次第で、大学4年生で、なおかつ、来春に就職も決まった身でありながら、僕はバイトに励まざるを得なかった。
2016年1月第2日曜日、僕は完全なオフにして休みながら、思いを巡らせた。
今のまま行けば、教え子4人、澪、鈴、愛、ジャンヌ全員が、浦賀女学校に入れるだろう。
自分が、いきなり1年生のクラス担任になることは無い筈で、あいつらの担任教師はせずに済むはずだ。
浦賀女学校の教師として、採用が決まった際に、そう採用担当の教頭から言われた。
1年間、学年全体付きの教師として働いて、適性を見た後、クラス担任をしてもらいますと。
それにしても、と僕は更に考えた。
今年は、ヴェルダン戦から100年が経つこともあり、いろいろ特別行事が企画されている。
僕のご先祖様にしても、100周忌を特に開くと、僕や澪の祖父は言っていた。
考えてみれば、日本の国益に、直接は関係しそうもない所に派兵して、大量の日本人の命が失われた初めての戦いが、ヴェルダンだった。
そして、今でも、直接、日本の国益に関係なくとも、間接的に日本の国益に関係がある、国連が主導する世界平和の為にという美名の下で、毎年、多くの日本人の若者の命が散らされている。
そして、国連の平和維持活動で死んだ若者は、自発的に志願し、散っていった、ということで一切の批判が世間ではタブー視されている。
実際には経済的事情から、志願する若者が圧倒的だというのに。
僕は、ため息を吐くような思いがしてならなかった。
暗くなった自分の想いを切り替えようと、教え子4人の顔を僕は思い起こした。
その時、あらためて僕は思った。
4人は、お互いに全員は知らないのか。
澪と愛は、全く面識がなく、鈴とジャンヌも、全く面識がない。
澪は、鈴と遠縁の親戚で、ジャンヌは小学校の同級生だ。
鈴は、愛と小学校の同級生で、澪と遠縁の親戚だ。
愛は、ジャンヌと友人で、鈴は小学校の同級生だ。
ジャンヌは、澪と小学校の同級生で、愛と友人だ。
ということは、全員が浦賀女学校の入試に受かれば、ということにはなるが、浦賀女学校の入学式が、4人全員が顔を会わせる初めての機会と言うことになる。
4人は、どんな顔をするだろう。
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