第5話ーダブー家
「ああ、愛ちゃん。よく知っているわよ。同じ小学校だったら、なお、良かったけど。住んでいるこのマンションでは、違う学区になるのよね。お父さんに「北白川」に連れていかれた際に、たまたま会ってから、友達付き合いしているの」
ジャンヌ・ダヴーは、きれいな日本語を話す。
家庭教師として、勉強が一段落した後、村山愛の話を振ると、ジャンヌは気さくに答えた。
フランス人の父と日本人の母との間に生まれた、日仏ハーフの筈だが、本人曰く、父方には日本人の血が微かに流れており、実は日本人の血が濃いのだという。
だが、外見は完全にそれを裏切っている。
見事な金髪碧眼に、将来、見事な巨乳モデルになれるのが約束されたような小学生離れした抜群のスタイルの持ち主。
初めてジャンヌの家庭教師として、僕がここに来た時には、失礼ながら、思わず、本当に小学生の家庭教師を頼まれたのか、と思ったくらいだ。
従妹の岸澪と同じ小学校の同級生なのだが、澪がため息を吐きながら、一度、言ったことがある。
「ジャンヌねえ。あいつ、見事な大人用のブラしているのよね。悔しくって、悔しくって」
そりゃ、小学生用では追いつかないだろう。
澪曰く、ジャンヌは校内でも怖ろしい程の噂の持ち主らしい。
「横須賀の市街を歩いている際に、女学校生と間違われて、誘われた」
「同級生の4歳上の姉が、面白がって、自分の制服を着て、街中を歩かせたら、その学校の教師が本物と間違えて注意してきた」
だから、僕がジャンヌの家庭教師を頼まれたと聞いた時には、澪は、目に殺意を持ちながら、言ったくらいだ。
「いい、絶対にジャンヌに手を出してはダメよ。あの子は、私の同級生なのよ。もし、少しでもそんな噂を聞いたら、私は赦さないからね」
「分かったよ」
そんなことを露知らずに、ジャンヌに会わなくて本当に良かった。
もし、知らずに会って、僕がジャンヌに色目を使っていた、何て噂が、澪の耳に入ったら、僕は澪に刺されていた。
ちなみにこの体型は、完全に父方譲りらしい。
実際、ジャンヌの母は、どう見ても清楚な日本美人体型で、ジャンヌのような肉感美人体型ではない。
なお、頭の方はというと。
「社会以外は、完璧と言っていいから、今日も社会を重点で教えるからな」
「仕方ないでしょう。私は小学5年生の秋に編入学した身だもの」
ジャンヌは、そう言った。
僕の中では、鈴に次いで、二番目に教えやすい教え子だ。
正に才色兼備と言っていいと思う。
だが、問題は、色が、文字通り、色気の面に強く出ていることだ。
ジャンヌの父は、フランス海兵隊士官で、日本の海兵隊との交流の一環として来た際に、ジャンヌの母と知り合い、結婚して妻をフランスに連れ帰った。
そして、2回目の日本駐在任務を、ジャンヌの父は今、勤めている。
彼は、大事な愛娘を、私立の女学校に入れることで、身の安全を確保しようと考え(僕がジャンヌの父でも、同じように考えると思う。)、家庭教師探しを、海兵隊の知り合いに頼み、回りまわって、僕が家庭教師を務めることになった。
「岸澪に言われたわ。先生に手を出さないでって。本当にお兄ちゃん子ね」
「そんな風に言わないでくれ。何か違う意味に聞こえて仕方がない」
家庭教師としての仕事が終わって、いつも通りの勉強後のひと時を過ごしている時に、ジャンヌが笑いながら言った。
「そういえば、父方にも日本人の血が入っていると聞いたけど、話せない話なの」
「うーん。お父さんも詳しい話は知らないみたいなの。お母さんを口説く際に、自分は日本人の血が流れていると口説いたのは間違いないみたいなのだけど」
僕の問いかけに、ジャンヌは言葉を濁した。
本当に知らないのだろうか?
これで、主人公の教え子の紹介は終わりです。
ご感想をお待ちしています。