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第4話ー村山家

「先生、この間、偲ぶ会をやっていたの。また、誰か亡くなったのかな」

「そうだな」

 勉強が終わった後の一休み、「北白川」の賄い飯を夕食として共に食べているひと時、村山愛は少し沈んだ声で言い、自分も答えた。


 料亭「北白川」、海兵隊士官の間の符丁では、「ノース」で通じる名料亭だ。

 もっとも、この「北白川」、意外と歴史が新しい。

 横須賀の料亭でも、「小松」や「魚勝」は明治以来の伝統を誇るが、「北白川」は大正末の創業になる。

 村山愛は、この料亭の跡取り娘だ。


 愛の祖母の祖母は、仲居等として、別の料亭で働いていた(らしい)。

 そして、下積みの末に料亭を開業したのだが、そこに佐官時代から足しげく通われたのが、後に第二次世界大戦で欧州に赴かれる北白川宮提督だった。

 更に、余程気に入られたのか、自分の名前を料亭に与えられた。

 そういったいわれから、海兵隊士官の御用達といえる存在に「北白川」はなった。


 だが、愛によると、「北白川」の名を賜ったのは、別の理由だという。

「大人になったら、本当の理由を教えてあげる、と言われているの。料亭の女将だけが、知っていればいい秘密だって。曾祖母の父が何故、空欄なのか、と関連がある気がするの」

「ふーん」

 その話を聞いた時、僕は、特になんとも思わなかった。

 子どもめいた秘密話だと思っただけだった。


 話を元に戻す。


「平和維持活動で、また誰か亡くなったのだろうな」

「先生も、海兵隊の予備役士官養成課程を受講していると言うことは、本来は8年程、御礼奉公をされることになるのでしょう」

「まあね。その前に、熨斗を付けて、奨学金を返すつもりだから、御礼奉公はしないけどね」

「その方がいいでしょうね。先生は戦場に向かれていないと思いますから。村山家の勘ですけど」

「ありがとう」

 愛は、本人の主張によればだが、村山家の人間は代々、勘が鋭いという。

 その代り、女性しか生まれないらしい。

 だから、代々、婿養子を取って後を継がせてきた。

 愛も一人娘で、他に兄弟姉妹はいない。

 あながち嘘でもないのだろう。

 実際、「北白川」は、母から娘へと代々、受け継がれており、跡を取った息子は誰もいない筈だ。


「そういえば、土方鈴は、特に問題ないかな。一応、親戚になるので気になるのだが。あいつは、自分に関しては口が堅いから」

「ああ、大丈夫。彼女に手を出すのは誰もいないから。その代り、皆、敬遠しているけど」

「だろうな」


「海兵隊一家」という言葉があるように、海兵隊の身内、結束意識は強い。

 その最上層を占める土方伯爵家に手を出すと、下手をすると海兵隊全部を敵に回す。

 愛と鈴は、同じ小学校の同級生で、その小学校は海兵隊員の子弟が多く通っている。

 鈴は、そういった者に護られている、と愛は、暗に言っている。

 愛は、その性格のせいか、人の出入りの多い料亭の一人娘のせいか、多くの情報を握っており、小学校内では情報通として知られているらしい。


「それにしても、浦賀女学校に、何で入ろう、と思ったんだ」

「うん。大好きな先生が就職するから」

 思わず、どきっ、とするようなことを、愛は、さらっと言った。

 勘弁してくれ、大学4年生と小学6年生では、こちらがロリコンだ。

 明日、教えるジャンヌなら、外見上はそうは見えないが、愛は、どう見ても小学6年生、下手をすると小学4年生に見える、やや童顔気味な顔と体型の持ち主なのだ。


「冗談よ。客商売の娘の話を真に受けないの。本当は、家の近くで有数の名門進学校だからよ」

「驚かすなよ」

 僕は思わず、ほっとした。

「明日は、ジャンヌを教えるのでしょう」

「愛、ジャンヌを知っているのか」

「彼女はとても目立つからね」

 愛は気になる視線を私に向けた。 

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