第2話ー土方家1
主人公の教え子の2人目の紹介になります。
「これで、今日は終わりにするか」
「はい、お茶でも飲みましょう」
鈴は、教えるのに本当に手間が掛からない。
僕にとって、楽な教え子だった。
鈴は、僕のご先祖様が遺した遺児の妻以外、要するに愛人が産んだ子の末裔になる。
細かく言うと、僕や澪の曽祖父の異母姉の曾孫という関係だ。
はっきり言って、僕のご先祖様の下半身はだらしなかったと、僕自身、思わなくもない。
ヴェルダンで死ななかったら、どんな修羅場を引き起こしていたことか。
もっとも、愛人側にも言い分はある。
そもそも当人同士の約束では、愛人側が婚約者だったのだ。
子ども同士の約束とはいえ、20歳近くになっての約束だ。
海兵隊士官になって、それなりの収入が得られるようになったら、正式に求婚する、とご先祖様は愛人の両親にまで言っていたらしい。
愛人の両親も良縁だ、と歓迎していた。
そして、海兵隊士官になるために海軍兵学校にご先祖様は入学した。
ちなみにご先祖様は、会津藩士の血を承けており、それもあって、海兵隊士官を目指したらしい。
斎藤一提督や柴五郎提督にあこがれたのだろう。
更に、同郷と言うことで、柴提督と面識ができ、ご先祖様は可愛がられた。
順調に海兵隊士官の道を歩むかに見えていたご先祖様に影が差したのが、第一次世界大戦の勃発だった。
それはすぐに終わる戦争の筈だったのだが、日本にまで欧州への派兵要請が来る有様となった。
相次ぐ激戦の為に、欧州では兵が足りなくなっていたのだ。
それに応じて、日本は海兵隊を欧州に派兵したが、すぐに日本自身も兵の不足に苦しむことになった。
そのために、海軍兵学校の期間短縮、兵学校生が卒業次第、欧州へ赴くという非常事態となった。
当然、ご先祖様も欧州に赴くことになる。
そこから先が、土方家に伝わる話と、岸家に伝わる話では、微妙に異なる。
岸家、要するにご先祖様の正妻側の主張によると、柴提督の縁から、そのお供をして、ご先祖様が、岸三郎提督の家を訪問した。
そして、ご先祖様が、岸提督の次女である正妻を見初め、正妻側も満更ではないのに気づいた柴提督が、岸提督に働きかけて、二人を婚約させたというのだ。
これだと、当事者双方が好き合って、ということになる。
そして、愛人に婚約破棄を伝えたという流れになる。
一方、土方家、要するにご先祖様の愛人側の主張によると、ご先祖様が、まだ独身のまま戦死しかねないのを気遣った柴提督が、岸提督に話をし、岸提督の次女をご先祖様と結婚させるという話をした、ということになっている。
これだと、当事者双方の意向は、当初、全く無視されていたことになる。
そして、柴提督からこの縁談を打診されたご先祖様は、柴提督からの言葉と言うことで、これは断れないと観念して、愛人に婚約破棄を伝えたという流れになる。
どちらにしても、ご先祖様は、当初の事実上の婚約者だった愛人に別れを告げるのだが、それでは済まなかったのが、愛人側だった。
私の好きな人が、もうすぐ戦場に赴き、多分、死ぬ。
そして、その人の墓で共に寄り添うのは、自分ではない。
愛人は、頭に血が上ってしまった。
僕は首をひねる話なのだが、ともかく僕が聞いた話だと、その際に、誰か立会人でもいればよかったのかもしれないが、ご先祖様が愛人に別れ話を告げる際には、2人きりで会っていたらしい。
ともかく別れ話で、最後は共に激昂して、大騒動となった。
土方家に伝わる話だと、せめて、お互いの初めてだけでも、という愛人側の懇願に負けて、ご先祖様は情を交わした後、別れた。
だが、これは皮肉な結果を生み、愛人はそれによって妊娠し、娘を生んだのだ。
(岸家に伝わる話だと、以前からそう言う関係だったになるが)
長くなったので分けます。
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