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エピローグ・下

 いつもより、かなり長めになりました。

 分けようか、とも考えたのですが、結局、これで投稿することにしました。

 新兵教育を僕が行う場に行ってみると、1人、金髪が目に入った。

 全く、と僕は舌打ちしたくなった。

 古い、と言われそうだが、海兵隊は髪染め厳禁が基本である。

 後で注意せねば、と思ってよく見ると、何か見覚えがある。

 誰だろう、と思って、更に注意深く見て、ようやく気付いた。


 ジャンヌだ。

 まさか、彼女がこの場に居るとは想定外だった。

 ということは、メンバー全員の顔を、僕は慌ててざっと見る。

 澪、鈴、愛全員が、この場に居た。


 どういうことだ。

 だが、教官が新兵個人を依怙贔屓することは許されない。

 取りあえず、通常の新兵教育初日の日程を終え、初日故に、特別に許可するという名目で、全員の外出許可を与えた。

 新兵教育の合間に、他の者の目を掠めて、澪を通じて、4人に外出許可後、速やかに「北白川」に集まるように秘密裏に連絡した。


「北白川」は、それなりの歴史があることもあり、基本的に事前要予約の料亭だ。

 更に海兵隊内の暗黙の了解もあり、海兵隊で利用するのは士官のみである。

 取りあえず、秘密裡に僕達5人が逢うのには、絶好の場所と言える。

 本来なら急に行ってもどうにもならないが、僕達には、愛がいる。

 それに食事をするわけでは無く、あくまでも話をするだけだ。

 都合よく空いていた一室に、僕達5人は集まった。


 僕が仲居さんに案内されて、一室に入ると4人が既に来ていた。

 仲居さんが足音を立てながら、去っていくと、すぐに僕は4人に問いただした。

「一体、どういうことだ」


「だって、早く傍に行きたかったから」

 澪が、まず言った。

「お祖父さまに泣きついて、裏で動いてもらったの」

 鈴が悪びれもせずに言った。

「迷惑だった?」

 愛が当惑したように言った。

「あのなあ」

 僕は頭を抱え込みたくなった。


 言っては何だが、海兵隊に入るにしても、兵として入ることは無いだろうに。

 彼女達の頭なら、海軍兵学校は難しくても、どこかの大学の予備役士官養成課程は容易に入れる。

 後は、ある意味、僕と同様に士官になればいい。

 それなのに、彼女達は兵として入ってきた。

 それだけ早く、僕の下に来たかった、というわけか。


 あれ?

 何で、ジャンヌがここに居る?

 ジャンヌはフランス人では無かったか?

 僕が疑問を覚えて、ずっと沈黙を保っていたジャンヌを、じろりと見ると、ジャンヌはちろりと舌を出しながら言った。

「日本国籍を選択しました。だから、何も問題はありません」

 大有りだよ、この確信犯。


 確かにジャンヌは、金髪碧眼なので忘れがちだが、日本人の母を持っている。

 だから、母の血筋から、日本国籍を持っていて当たり前だ。

 それに国籍法上、17歳までは日仏の二重国籍でも何の問題も無い。

 18歳になったので、日本国籍を選択したと言う訳か。


「全く海兵隊に入って、ジャンヌがいない間に、自分の物にしようと思ったのに」

「そうそう、海兵隊にジャンヌが入隊するとは思わなかったわ」

「まあまあ、彼女にはいろいろとフランスでお世話になったのだから」

 澪、鈴、愛が口々に言った。

 僕は溜め息を内心で吐いた。

 全く彼女達は。


「こうなった以上、仕方ない。海兵隊員として、通常通り、指導していくからな、文句を言うなよ」

「分かっています」

 4人は口を揃えて言った。

「ところで、浮気はしていない?」

 澪の問いかけに、僕は言い返した。

「してないよ」


 全く4人もの例の御守りを持っているお蔭で、周囲の女性の海兵隊員の目が冷たくて叶わないのだ。

 かといって、捨てるわけにもいかない。

 あれは大事な縁起物だからだ。


「良かった。浮気封じにも効果覿面だったみたいね」

 4人が顔を合わせながら、言った。

 こういう時だけは一致団結するな、彼女達は。


 もっとも。


「それにしても、ジャンヌだけ、前世の年老いた姿の写真を彼に見せていないのは、どうかと思うわ」

「いい女は年を取らないの」

「ただ単に写真を隠滅しただけでしょう」

 彼女達の間で、別の口喧嘩が始まった。


 実は、前世の彼女達の写真だが。

 澪は、言うまでも無く直系の僕にとっても直系の子孫になるので、当然、年老いた写真を僕は見ている。

 鈴も、以前からの親戚関係があるので、僕は目にしている。

 愛は、「北白川」の初代女将として、料亭に写真が飾られていたので、僕は目にしている。

 鈴も愛も年老いた姿の写真を、僕は目にしているのだ。


 だが、ジャンヌだけは、僕は目にしていない。

 だから、澪、鈴、愛は、ジャンヌに、僕に示すために、前世の年老いた姿の写真を出せと迫ったのだが、ジャンヌは既に無くしていると言い張り、彼女達の追及をかわしきったらしい。

 うん、僕も年老いたジャンヌの姿が写った写真を見たくはない。

 彼女とは共に歳を重ねていきたいからだ。

 他の3人にそう言った瞬間に、僕は3人全員に刺されるだろうが。


 これから、どうなるのだろう。

 何れは、彼女達の1人を、僕は選んで結婚して、現世の人生を歩むのだろう。

 それにしても、僕はまだ28歳だし、彼女達に至っては18歳だ。

 少しは考える時間があると想おう。

 最もその前に全員が海兵隊の一員として、国連平和維持隊の任務に赴き、その上で何とか生き残っていく必要があるのだろうが。


 僕はそう考えを巡らせて、彼女達の顔を見た。

 彼女達も揃って僕の顔を見返してきた。

 そうだな、皆で、将来はゆっくり考え、取りあえず生き残ることを考えようか。

 僕は、そう考えながら、微笑んだ。

 彼女達も微笑み返し、僕と考えを共有したようだ。


 僕達は連れだって駐屯地へ帰った。

 さて、まずは、皆で明日からの訓練を共に頑張ろう。

 何事も目先の事から片付けて行こう。

 僕は、そう考え、彼女達も僕の後をついて歩みながら、そう考えているようだった。 

 これで完結します。


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