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第20話ー旅立ち・上

「それでは、フランスでのことを頼む」

「私に任せて」

 ジャンヌが朗らかに言った。

 ジャンヌの後ろでは、澪、鈴、愛が、何とも言えない目で、僕とジャンヌを睨んでいた。


 ジャンヌは、あの僕達が真実を打ち明けた日に、土方伯爵達に、ある提案をした。


「このまま、私達4人が日本に居ても、いいことは一つもないと思うので、4人揃って、フランスに留学するというのはどうでしょうか」

 ジャンヌは、土方伯爵たち、周りの大人に言った。


「確かに、それはいい考えかもしれないな」

 暫く沈黙した後、土方伯爵は、肚を固めたらしく、そう言った。

 周りの大人達も、多くが肯いている。


「私と両親も積極的に協力しますから。但し、条件があります」

 ジャンヌは、それを受けて言った。

「何かね」

 土方伯爵が、ジャンヌに尋ねた。


「前世での全ての事を無しにして、白紙にするということです」

 ジャンヌの答えに、澪が叫んだ。

「ちょっと待ってよ。彼は、私の夫よ」

「それを言ったら、私は彼の元婚約者だけど。私も白紙には、戻したくはない」

 鈴も口を挟んだ。


 後で澪、鈴、それぞれに僕が聞いた話だが。

 二人とも前世では70歳代まで長命して亡くなったこともあり、12歳の現世の想いよりも、前世での想いの方に、どうしても引っ張られてしまうらしい。

(ちなみに、愛やジャンヌも、その傾向があるとのことだ。)

 それに、澪、鈴は共に、僕が亡くなった直後の第一次バトルだけでは無く、前世で鈴が産んだ娘が土方伯爵家に嫁ぐ際に、結果的にだが、第二次バトルを繰り広げてもいる。

 それもあって、あの時に、そう言ってしまったとのことだ。


「だって、前世の事を持ち出されては、私は圧倒的に不利ですから。私が、他の3人のフランス留学に協力する見返りとしては、当然の要求では」

 ジャンヌは、そう言い張った。

 確かに前世が娼婦のジャンヌとしては、当然に聞こえてくる。

 澪と鈴が沈黙していると、愛が口を挟んだ。

「私もジャンヌに味方する」

 この裏切り者、という目で、澪と鈴は、愛を睨んだ。


「だって、私も前世の事を持ち出されると不利だもの。私だって、芸者だしね。それに、鈴、私を売女呼ばわりしたのを、忘れたとは言わせないわよ」

「あれは、あの時、興奮していたからで」

 愛の言葉に、鈴は慌てて弁解しだした。

 こんなふうに慌てふためく、鈴を見るのは、僕は初めてだ。


 土方伯爵達、周囲の大人は、僕達をじっと見つめていた。

 彼女達4人の行動を見据えた末、土方伯爵があらためて、僕に言った。

「どうやら4人を、フランス留学させるべきだと思うのだが、君は協力する用意があるかね。前世での因縁も考えるならば、当然、協力してくれると思うが」

「それは、協力したいと思いますが」

 僕はそう答えた。


 前世での因縁と言う点なら、僕は割り切れる自信がある。

 何しろ、20代半ばで前世では亡くなっており、現世ではそれに近いくらい生きているのだ。

 前世での事は、前世での事だ。

 そして、彼女達は、現世での教え子でもある。

 誰とは言わないが、現世より前世の方が因縁があると言えるのは1人だけだ。

 だが、土方伯爵の口ぶりが気になってしょうがない。

 あれは、何かを企んでいる口ぶりだ。


「そうか、そうか。それなら、こうするというのはどうかな」

 土方伯爵が、あらためて僕達に提案した。

 

 ジャンヌの提案を、基本的に受け入れてはいるが、特に僕にとって厳しい提案になる。

 澪、鈴、愛、ジャンヌは真っ青になった。

「それは許してあげて、お祖父様」

 鈴が、懇願した。

「また、私に同じ苦悩を味わせるつもり」

 澪が叫び、愛も同調して肯いた。

 ジャンヌも、自分が蒔いた種のために、沈黙し体を震わせてしまった。

 そして、僕は受け入れた。

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