第19話ー真実を話す時・下
「それと似たようなことなら、私も言えます」
今度は、愛が声を上げて、更に言葉を継いだ。
「お母さん。「北白川」の名の本当の由来だけど、北白川宮殿下が、料亭の味を気に入ったからでは無く、初代の女将に対するお詫びの気持ちから与えたのよね。本当は初代女将が産んだ子、二代目女将は、ある海兵隊士官の隠し子なのが分かったけど、いろいろな事情から、それを明かすわけにはいかない、と北白川宮殿下は考えられた。それで、北白川宮殿下と初代女将が話し合って、真実は伏せることにした。だって、岸三郎提督の家で、家督相続する実孫の養子に、他にも腹違いの姉がいたなんて大醜聞だった」
「そんなの初耳よ。北白川宮殿下が何らかのお詫びの気持ちから名を下さったのは、本当だけど」
愛の母親、「北白川」の女将が声を上げた。
だが、岸家と土方家の面々は、深刻な顔になった。
「確かに、ありえる話だ」
土方伯爵が言った。
「北白川の名の由来については、北白川宮殿下が、料亭の味を気に入ったからだけでは無く、他に理由があったから、というのは半ば公然の話として、海兵隊の中で噂になっていた。北白川の名が下賜された時期を考えあわせると、初代女将と北白川宮殿下がそういった話をされていてもおかしくは無い」
「いっそのこと、ここにいる5人のDNA鑑定をしたら、本当に全員の血縁関係があるかどうか、明確に分かるような気がするけど。そうしたら、子孫に全員が生まれ変わってきた、というのが、はっきりすると思うわ」
澪が渋い顔をしながら言った。
本音としては、前世のご先祖様の正妻として、夫がそんなに自分以外との間に、子どもを儲けていたというのを認めたくないのだろう。
だが、自分も含めて、この状況を打開するとなると、そう言わざるを得ない、と腹を括ったのだろう。
「澪の言うことは一理ありますね。どうやら、ここにいる5人全員がそうみたいですから」
精一杯、日頃の上品な口ぶりを保とうとしながら、鈴も同意した。
鈴にしても、本来は自分こそがご先祖様の婚約者であり、不当に婚約を破棄されてしまったという前世からの想いがある。
だからこそ、本音としては、最大の恋敵の澪に同調するのは腹立たしいのだろう。
しかし、現状を自分も含めて好転させるとなると、それしかない。
更に言うと、自分が暴発して、澪や愛を昏倒させる程の暴力を振るってしまい、それによって、僕の立場をもっと悪くしたという負い目もあるのだろう。
「ふむ。5人全員が、DNA鑑定等を受けるか」
土方伯爵が考え込みながら言った。
「確かに、一理あるな。どちらにしても、ある程度、日時が経って、落ち着くまで、登校するわけにはいかないだろうからな」
それもそうだ。
「ついでに、わしは気が進まないが、全員が処女検査も受けておくべきかもしれんな」
その土方伯爵の言葉を聞いて、僕の後ろで4人の少女が顔を一瞬見合わせた後、4人全員が揃って肯く気配があった。
本音としては極めて恥ずかしいが、僕の潔白証明の為に止むを得ないと判断したのだろう。
それに、自分達が勝手に暴走した果ての事でもある。
「それにしても、今後の事が難題だな。おそらく、お前は浦賀女学校を辞めねばならないだろうし、鈴や他の3人も、浦賀女学校に通い続けることができるかどうか」
土方伯爵が嘆くように言った。
確かに、それもまた難題だ。
僕は、良くて自主退職せざるを得まい。
僕が開き直って浦賀女学校に勤め続けようとしたら、女学校の生徒やその父兄から、辞めさせてほしいという運動が起きるだろう。
4人の少女も、周囲からどれほど責められることか。
「一つ、提案があります」
ジャンヌが声を張り上げ、僕達は注目した。
次話は、少し時間が飛ぶ予定です。
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