第12話ー尋問
有り難いことに教頭先生直々に、僕は事情を聞かれることになった。
「さて、何か言いたいことはあるかね」
「ともかく4人と、これまでに家庭教師と教え子以上の関係になった事は、一度たりともありません」
教頭先生の尋問に、僕は懸命に弁解した。
本当は、現世では、という注釈を付けるべきだろう。
前世では、4人全員と子まで生した深い仲なのだから。
もっとも、今、この場で言っても、誰も信じてくれないし、状況はますます悪化する。
「それでは、4人全員が嘘を言っているというのかね。しかも、揃って」
教頭先生の口調は極めて冷たかった。
何と言えば、納得してくれるだろう、僕は頭を抱え込んだ。
「まあ、今更、君が何を言っても無駄でしょうが。君達のあの光景を、地元、横須賀ケーブルテレビが流してしまいましたからね」
「はっ?」
教頭先生の半ば独り言に、僕は慌てた。
あの光景が、ケーブルテレビとはいえ、テレビで流れたというのか。
「全くもう少し節度を持って流してくれると思ったのですが。今後は、横須賀ケーブルテレビ局について、入学式や卒業式への立入りを禁止しないといけないようです」
教頭先生の半ば独り言は続いていたが、僕の頭の中を、その言葉は素通りしていた。
逆に、僕の脳みそはフル回転を始めた。
これは、どうにもならない、詰んだか。
テレビ等、メディアで情報が流れたら、一般にそれは独り歩きを始めてしまう。
事情を知らない第三者が、あの光景をテレビで見たら、どう見ても4人の教え子に手を出して、肉体関係まで結んだ鬼畜家庭教師の出来上がりだ。
全くの冤罪で、嘘の情報なのに、それを晴らす手段が無い。
言葉は悪いが、4人共が処女なのは、産婦人科で検診をしてもらえば、多分、証明してもらえるはずだ。
今頃は、4人共、正気に返っている、というか、前世の記憶と現世の記憶を区別して、あの事は過去の前世の事だと割り切っている筈だ。
というか、今後の事を考えると、そうなってもらわないと困る(澪と鈴が、そう割り切れるのかは(特に直接の関係について)、あの光景からして、甚だ疑問があるが。)。
だから、あの光景はおふざけ、冗談から始まったことが、思わぬことになった、で何とかならないか、と(超楽観的かつ希望的観測だと自分でも思うが、)少し考えていたのだが、テレビで流れてしまっては、その情報が独り歩きを始めてしまう。
「ともかく、自分は潔白だ、とあくまでも訴えると言う訳かね」
教頭先生は、僕に冷たく問いかけた。
「言うまでもありません」
僕は即答した。
これは、僕だけでなく、今後の彼女達の為にも、必要不可欠だ。
あの光景だと、どう見ても合意の上で、4人は僕と関係を結んだように思われる。
つまり、彼女達は、単純な被害者ではなくなってしまい、更に二次被害が出ることになりかねない。
「分かった」
教頭先生は、そうは言ったが、全く僕を信用していないのが、態度から丸分かりだ。
「追って、正式な文書を郵送するが、取りあえず、調査の上で事情が判明するまで、君に対して、無期限の自宅謹慎を命ずる。他の生徒や父兄がひどく動揺しているからね」
教頭先生は、そう僕に言い渡した。
「分かりました」
取りあえず、僕はそう答えたが、良くて自発的退職、悪くすると懲戒免職になるのは、どうにも避けられそうにない。
全く僕の何が悪かったというのだろう。
前世で彼女達4人を遺して戦死した報いなのか。
祖国の為に死んだのに、こんな仕打ちを何故に受けねばならないのだろう。
僕は、思わず俄か哲学者になったような気分になった。
そして、この職を失ったら、更にメディアでこの事が大々的に流れたら、僕、それに彼女達はどうなるだろうのだろう。
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