第11話ー修羅場
教頭先生が慌てて僕達を呼ぶ声が、僕の耳に入り、他の4人の耳にも入った筈だが、僕と同様に、前世の記憶が一斉に甦ったらしい他の4人にとってはそれどころではなかったらしい。
特に、澪と鈴との間が酷かった。
「この泥棒猫」
「どっちが泥棒猫よ」
澪と鈴が、キャットファイトを始めた。
幾ら何でも止めないといけない、と考えたのだろう、愛とジャンヌが慌てて仲裁に入ろうとしたが、鈴の次の一言が、更に油を注いだ。
「売女共は黙れ」
「私は芸は売っても、体を売った覚えはない」
愛が激昂し、事実上、澪に加勢して、キャットファイトはより加熱した。
ちなみに、ジャンヌは肩を落とし、俯いてしまった。
事実、ジャンヌの前世から言うと、鈴の言う通りなのだから、ある意味では仕方ない。
だが、これは、ますます周囲の注目を集めることになった。
数名の先生が、僕の周りに駆け付けようと動き出した。
だが、少し遅かった。
さすが、土方歳三の直系の末裔と言うべきなのだろうか。
伯爵家の令嬢の筈が、実戦、喧嘩となると、鈴は人が変わってしまった。
2対1にもかかわらず、鈴は、すぐに澪と愛を叩きのめし、気を失わせてしまった。
一撃必殺とは、このことか。
うん、澪と愛の目がすぐに覚めるといいが。
どころではない。
鈴の目が完全に据わって、僕を見つめている。
「本当のところを聞かせて。あの時の事。それから、後の事全て」
鈴が妙に落ち着いた声で、僕に問い糺してきた。
正直に話すべきなのだろうが、そんなことをしたら、僕は、明日の朝日どころか、今日の夕日も見られない気がしてきた。
ジャンヌが、慌てて鈴と僕の間に入り、少しでも時間を稼ごうとするが、蟷螂の斧なのが明らかだ。
「そう、そういうわけね」
鈴は、勝手に納得し、僕とジャンヌに襲い掛かろうという体勢を執った。
勝手に納得しないでくれ。
僕の弁明を聞いてくれ。
そう叫びたいが、恐怖の余り、声が出ない。
おかしい、仮にも海兵隊の予備役軍人養成課程を修了していて、軍人としての格闘技訓練も一通り受け、武術等の心得の無い一般男性との1対1なら、まず勝てる筈の僕が、小学校を卒業したての女の子の筈の鈴が発する気合の前に気圧されている。
ジャンヌに至っては、完全に体全体を振るわせており、僕を護らねば、という健気な想いから何とか立っている有様だ。
更に、10人近くの先生が駆け付けてきた。
その時、僕自身が興奮していたので、記憶に自信が全く無いのだが。
僕の記憶に間違いがなければ、鈴は本当に強かった。
柔道なり、合気道なり、空手なりの生身の武道の段持ちの女性教師数人相手に、興奮していたとはいえ、鈴1人で立ち向かったのだ。
小学校卒業したての鈴と、教師との体格差は、僕の見たてでは、平均で5割は差があった。
最後は3人掛かりで抑え込まれたが、それまでに2人の教師をノックアウト状態に鈴は追い込んでいた。
男性教師が対応すれば、違ったのかもしれないが、小学校を卒業したての女の子(?)を、男性教師が抑え込むというのは、幾ら何でも問題だろう。
あれが、女の子と言えるのならば、だが。
鈴にますます怒られそうだが、化物、いや、戦女神の化身としか、あの時の鈴は、僕には思えなかった。
澪と愛は、教師に担いで運ばれ、鈴は、3人掛かりで抑え込まれて運ばれ、僕とジャンヌは、大人しく教頭先生の指示に従い自分の足で移動して、という感じで、とりあえず別室にそれぞれ移動した。
個別に話を聞くべきと言う校長先生の発案で、僕達5人は、それぞればらばらに1人、1人で事情聴取を受けることになった。
だが、どう話せば、周囲に納得してもらえるだろう、僕は悩んだ。
どう考えても納得させられそうにない。
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