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プロローグ

 あらすじから想像できると思いますが、拙作の「サムライー日本海兵隊史」シリーズの世界を流用しています。

 そのため、その世界の登場人物も、かげを見せてはいますが、読まなくても分かる話になる予定です。


「鈴木貫太郎師団長からのお言葉があった。この戦に勝って、ヴェルダンの地を去ろう、と。自分も同じ想いだ。このヴェルダンの地でどれだけ多くの海兵隊員の、日本人の血が流れたことか。遺体を回収できず、遺髪さえ、祖国日本に帰れなかった者さえいる。そういった者の想いを晴らすためにも、この戦に勝とう」

 臨時で海兵連隊長を務めている米内光政中佐からの訓示があった。

 この地下壕でどれだけの時を耐えた事か。

 今、日仏連合軍の攻撃前の大砲撃が行われている。

 更に日本海軍航空隊も加わり、独軍に対する空からの攻撃も行われている。

 それが終わり次第、自分達はあの地獄へと突撃して行くことになる。


「勝って、この地を去りましょう」

 海兵で一期下の高木惣吉少尉が声を掛けてきた。

「そうだな」

 いわゆるフラグを立てる会話になるかもしれない。

 だが、言っても言わなくても死ぬ時は死ぬ。

 自分はそう思うし、高木少尉も同じ考えだ。

「陸軍のように、突撃の際に天皇陛下万歳、と言うべきかな」

「海兵隊員は言う必要はないでしょう。林元帥も言わないでしょう」

「確かにな」

 高木少尉と自分は、笑いを交わした。


 海兵隊のトップ、林忠崇元帥が、戊辰戦争時にはいわゆる錦の御旗に銃弾を容赦なく放ったのは、海兵隊員の間では有名な逸話だ。

 そんなトップをいただく海兵隊が、日本の直接の国益が掛かっていない、ここフランスのヴェルダン要塞攻防戦で、祖国日本のために、数万人という大量の死傷者を出しているのは、皮肉以外の何物でもない。

「さて、原隊に戻って、小隊長として突撃して行きましょうか」

 高木少尉が言い、自分も肯いた。

 どちらからともなく、敬礼を交わす。

 その後は、お互い無言のまま、背を向け、原隊に向かう。


「米内連隊長を介して、鈴木師団長から、お言葉があった。この戦に勝って、この地を去ろう。自分も同感だ。この戦に勝とう。そして、この地から去ろう」

 小隊全員を集めて、自分から訓示を行う。

 どこまで、部下に感銘を与えられたろうか。


 そんなことを思いつつ、自分の心の片隅で、妻を始め、情を交わした4人の女性の顔が代わる代わる浮かんできた。

 彼女たちと生きて、再会できるだろうか。

 多分、再会できない気がする。

 それなら、彼女達と来世で再会したいものだ。

 来世があるならばだが。

 自分は内心でそう思った。


 砲声が徐々に遠ざかりつつある。

 突撃の時間が来たようだ。

「総員、着剣して突撃せよ」

 自分は部下に号令を下し、自ら先頭に立って、突撃を開始した。


 また、この夢を見た。

 自分の母方の祖父の祖父。

 自分が、ご先祖様、と言うあの人が実際に体験したような夢だ。


 大学に入って、ヴェルダン要塞攻防戦に関する映画を見て以来、自分は、この夢を見るようになった。

 もう何度、見たのか、自分では思いだせなくなってしまった。


 ご先祖様は、1916年10月に名誉の戦死を遂げた。

 戦死した後、遺された妻だけでは無く、それ以外の女性(当初、ご先祖様は、その女性と結婚するつもりだったという。)も、ご先祖様の子を妊娠出産して、えらい修羅場が起きたのは、我が家の半伝説として伝わっているところだ。


 だが、夢の中では、ご先祖様は2人ではなく、4人と関係を持ったような話になっている。

 自分は、この時に深く考えておくべきだったのかもしれない。

 後々、このご先祖様のツケを思い切り支払う羽目に、自分はなるのだから。


 しかし、この時の自分は、これは、単なる夢の中の話と思い込んでいた。

 もっとも、自分と似た経験を、100人がしたら、その内99人は単なる夢だと思い込むだろうから、ある程度は、仕方のない話かもしれない。

 でも、もっと真剣に自分は考えておくべきだった。 

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