夢見た場所と現実と・・・3
喉が渇いた。可笑しな話だ。目の前には水がある筈なのに。
腹の減り具合は・・・ああ、わかる筈もないか。何日食わず、何日飲まず・・・
「ああああああああぁぁぁぁあああぁぁああぁあああああ!」
まだこんな声は出るのに。体は動きゃしない。
挙げ句の果てにはつい最近の夢まで見る始末。鮮明に、極彩に。
命が消えてしまうかもしれない。そんな現実があるのは分かっていたんだ。だけど・・・こんな、こんな、こんな死に方だけは嫌だ。
嫌なんだよ。本当に誰か・・・誰か
「頼むよ。助けてくれよ・・・頼むから、頼むからぁ」
何も無い。ここには何も無い。あるのは・・・
流れる海と・・・盾と・・・槍と・・・一対の剣だけだった。
翌日の事だった。先輩団員は昨日は気が落ち込んだだろうけどこれでも食って元気だしてくれ。
そう言って朝食を新人団員全員にご馳走してくれた。
昨日はあの後にすぐ解散になり考え込む1日だった。それは皆同じであり今朝の朝礼ではどことなく雰囲気が暗かった。それを察して先輩団員は俺達と一緒に食事をしてくれ、談話に花を咲かせ。雰囲気を元に近づけてくれた。
気をきかせてくれてるのは皆分かっていたから俺達もそれに乗っかった形ではあったのだが、案外心の持ちようとは良く言ったもので食事が終わった頃には皆笑顔が戻っていた。
あの光景から少しの猶予を持たせる為か、エスロット関連の仕事、及び閲覧や訓練は一週間の期間が開けられた。配慮とは言ったものの事務仕事やその他訓練は開始。ある程度は訓練校では習っていたが・・・いざやってみるとやり方が習った通りなだけで勝手が違う。注意されながらではあるが・・・訓練校で苦手であった事務仕事も当然やらなければならない。先輩の1人は俺も苦手だと言いながらもテキパキとこなし、挙げ句の果てにはこちらを手伝って貰う始末。思わず自分が情けなくなる。ちゃんと訓練校ではやってたつもりだったんだけどな・・・まぁ当然と言えば当然なんだが・・・
そんな日々を続けた一週間後。俺達は今度は無傷の真新しいエスロットの前にいた。
「ほわぁ〜」
エスロットだ。本物だ。目の前に!あの!エスロットがある!
見上げる女の子のからはキラキラとした目と思わず出た吐息。皆同じ気持ちである。
あの光景を見た場所に案内した先輩団員が俺達に言う。
「やっぱみんな同じような顔するよな。毎年思うけどさ。ほら、今から乗るんだろ?それともこの感動をたっぷり味わってから明日乗る事にするか?」
「今日!今乗ります!」
明日⁉︎冗談!そんなに待てるか!
「今でお願いします!」
「先輩早く乗らせて下さい!」
「生殺しはもういいです!」
各自が言葉にしたそれは同じ答えで先輩団員はそれに笑って答えた。
「あはは、冗談冗談。それじゃあシュミレーターと実践機は違うと念頭に置いて各自・・・ああ、わかったわかった。そんな目で見るな。まぁ・・・乗りゃわかるか。そんじゃ各自!エスロットの足元にあるテーブルにネームプレートを置いてある。そのネームプレートが置いてあるエスロットが当分のお前らの鎧だ!速かに行動開始!」
各自が待ち切れず思わず走り出した。もちろん俺も。走りながら流し目でネームプレートを探す・・・あった!一番奥の機体だ!
ネームプレートは首から下げれるチョーカーのような物だった。自分の名前、血液型、それが書かれている長方形の金属プレート。
それに金属ワイヤーが繋がっている。
思わずそれを手に強く握り締める。
「各自自分のネームプレートを見つけたな?ではそれを首に下げろ。これからは機体に乗る時には必ずそれを首に下げろ。これは命令だ。それが無きゃエスロットは動かんからな。では訓練校で習ってきたのと同じ乗り方だ。補助はしないぞ。全員・・・搭乗開始!」
「搭乗開始!」
復唱してエスロットの後方に回り込む。エスロット背中部分にある金属プレートを外し中に設置されているレバーを回しながら押し込んだ。
背中の金属プレートはエスロットの中でも硬い材質で作られている。搭乗方法は複数あるが緊急用以外はこの乗り方が正しい乗り方になる。
エスロットの全長は3m程だ。装備により誤差は当然あり中には特殊機体と呼ばれ10mを超える物もあるらしい。まぁ今は関係ないな。
金属プレートを外した先にあるレバーは押し込みと回転を同時に行いレバーを握りこむ操作をしなければ動かない。これはエスロットは戦闘を行う物であり片方向や単純操作で搭乗可能であった昔は戦闘による衝撃で戦闘時に離脱誤作動する事などが稀にあった為にこのような操作になったらしい。
人間同士の戦争では執拗に背中は狙われたとか・・・
何はともあれエスロットはその操作により脚部が膝上と膝下が2段階で前後に割れ地面を支えるように四方に割れ胴体部分の地面まで近づける。そこから背中のパーツが両側に広がり頭部部分は人間で言う所の鎖骨部分から前側にスライド。エスロット内部に人が立てるように全パーツが展開した。その場に立つ。さぁここからだ。
脚部の展開により下がった腕部。その内側に手袋状の物が見える。そこに両手を入れそのまた奥にあるレバーが感触で確認出来た。
それを引く!
各部位に内蔵されているジュエルが始動を始める。微かな振動と光り。憧れていた光景だ。
最初は地面を支えるようにしていた脚部の膝上部分が足に吸いつくように稼働し俺の足全体をすっぽりと埋めるように展開した。エスロットは内部を見れば人が搭乗する部分は脚部は膝上から腕部は肘内側から少し内部寄りになる。つまりは全体像から見れば立った人間を中心に脚部や腕部を継ぎ足した形になるのだ。これが鎧と言われる要因の一つである。それから膝下のパーツが戻り始める。つまりは俺そのものを押し上げ俺の視界を高くする。
胴体部分が身体に合わせ閉じ腕部は先ほどまで触っていたレバーが離れ手袋部分から同じ素材のもので肘までをこちらも包むように密着させる。吸いつくような感覚だ。そしてスライドしていた頭部の後頭部部分が開き、スライドして俺の頭部を覆った。最後に後頭部部分が閉じ真っ暗な視界の中にある主視レンズのモニターが浮かび上がった。
ジュエル始動による振動が更に増す。それと同時に感じていた重量感から解放された。これはジュエルがエネルギーとして稼働しアシストを開始したからだ。各部位、関節に使われているジュエルが内部の人の動きをトレースする事が可能になった証拠だ。
視界に入った先輩を注視する。
「よし、全員無事搭乗出来たな。おめでとう!」
その言葉に打ち震える。感動だ。憧れていたエスロットにやっと乗る事が出来た。
「 「ありがとうございます!」」
口にした言葉に本当に感謝を乗せた。
「さて、それじゃあ歩く事にも違和感はあるだろうが・・・とりあえず外に行こうか。訓練開始だ!」
「「はい!よろしくお願いします!」」
いよいよだ。いよいよ始まる。
頭の中にひしゃげたエスロットが思い浮かぶ。
覚悟は出来た。そうだ。あの日の夜、俺はなりたいと思った。考えて考えて・・・これから守っていくんだ。沢山の物を。あのエスロットの惨状すら俺は守れるように。多くを守り闘い抜くと・・・俺は・・・。
「さぁ、行くぞ・・・タツ・シライト」
自分にそう声をかけて最初の一歩を踏み出した。
そこから・・・俺の意識は途切れた。