夢見た場所と現実と
あの精鋭部隊の激励から次の日は母と食事、その後は入団の手続きや準備をしてはや三週間。俺はとある島の施設の建物の中を歩いていた。光成年13025年4月。俺の実家のあるジホン島の隣にある島、ノースレッグ島。そこで俺はこれから働くことになる。同期となる8名の新人団員と共に職場の中を案内されていた。
この島ノースレッグ島はフーガ国、天層圏4層7番島になる。俺が訓練していたグライエシュラ島とはおよそ飛行艇で8時間ほどの位置にある。このノースレッグ島は住民生活区域と同じ島内にありあの激励されたハンネ湖のあるハンネ島と同じだ。フーガ国はその殆どの島にエスロット、又は強素体をもつ人間の防衛施設が配置されている、ここもその一つだ。
入団式は昨日の午前中に執り行われ午後には俺たち団員の生活区域を案内や荷物の整理などの時間であり本格的な施設の移動は今回が初となる。昨日は施設入口、式典会場、そこまでの道のりぐらいしか見て回れなかった。本当は色々な所を早々と見て回りたかったが防衛施設勤務となるとどうしても生活は泊まり込みになるためその周辺の食事処などの場所を知らなければいけなかったので仕方がなかった。
その翌日である今日、上司の団員が新人8名を一日案内してくれる手はずだ。正直昨日は寝付けたかった、興奮が収まらん。
見て回り目に映るものの多くが目新しいものが多い。指令会議室、周辺視察所、武器庫など。おおよそ防衛に関係するものはその一つの分野にしても大量の種類、数がありそこには専門の人間が勤務している。
武器庫などでは武器の修復や修理も行っているようで今回それも遠目ながらに見学できた。修復していたのはメインに使われるランスだったのだが通常ランスは型に鉄等を溶かし入れ作成される、そこから焼き入れなどで強度を増し、ジュエルをコーティングさせ、それに専用の法術を刻み完成する。
今回の修復は訓練中ようの劣化したランスの補修作業だった。ランスの先端はどうしても刺突の為に補足する必要性がある、もちろんその部分はほかの部分に比べて強固には作られているが訓練用でもあったため劣化し、先端が欠けたようだった。
作業員はそれに高温で溶かしたジュエルを盛りつけ急激に冷やし削り上げて補修していた。ジュエルは高エネルギーを持つものほど熱や耐久性に優れている。ジュエル源集底にあるジュエル結晶体は人の手によってこのように溶かすなどの作業はできないが俺たちが使っているジュエルに関していえばこのような作業も可能である。ジュエルはこうして使えば他の素材などよりも適合性が高く補修でどうしても弱くなる部分の耐久性を本来の耐久性に限りなく近いものに治せるらしい。その点に関しては俺もはじめてしった。
泊まり込みでの仕事なのでもちろん食堂もある。このノースレッグ島にも人々は生活しているのでもちろん食堂自体は島中にあるのだがここの食堂はすごかった。なにせ格安である。エスロット部隊は国の機関であり国の所有物に当たる。なのでエスロットに関わる必要経費は国民の税金で賄われている。そのため国がある程度の負担をしてくれる仕組みになっている。食事もそれに含まれるのであろう。
様々な場所を見て回りただでさえ高ぶっていたものが余計に高まる。団員の先輩もそれがわかっていたのか目的の場所に近づくにつれてニヤニヤとしていた。ああ、待ち遠しいのが顔に出ていたかと思い一度深呼吸して周りを見渡す。すると俺と同じような顔をした人が7人。ああ、これはわかりやすい。顔がもう早くしろと言わんばかりだ。鼻息荒いやつまでいる。
「それじゃあ次はみんなのお目当てを見に行こうか」
ニヤリとしたままの顔のまま先輩団員がそう言う。
「「「はい!」」」
俺も含めて今日一番の大声だった。思わず先輩団員は耳をふさいでいた。
「おおっ、元気だねぇ、ただもう少し音量小さくな、他の団員もいる」
ニコリと笑いながら言うその言葉に新人全員がハっとした。いかん、はしゃぎ過ぎた。
周りからはクスクスと笑う声が複数聞こえる。ここは廊下だ、そりゃあ人が当然いるよな。思わず俯く俺たちに温かく見守るような視線が向けられているような気がして・・・更に俯いてしまう。ああ、恥ずかしい!
*****
俯きなが先輩団員について行った先。4階建ての建物から一度外に出て目の前にあるこの敷地内で一番大きい建物に向かって歩いていく。今歩いている場所は離陸場の端っこだ。先日激励をしてくれた精鋭部隊の事がふと頭を過る。あの人たちもこういう場所から空に・・・
感慨深い思いが胸を満たす。これからその一員になるのだ俺も。駆け出しの一人でまだ誰にも見向きも、憧れさえ抱かせられないだろう。それでも、俺はこれからその一員になって守るのだ。人を。大切なものを。
「やっと、ここまで来たんだな」
建物の前にたどり着いた時、目の前にある扉を見つめて隣にいた男の新人団員のその言葉が聞こえた。その瞬間思わず涙が零れそうになった。今その言葉はずるい。本当にずるい。周りの新人団員も同じことを思っただろう。みんな再び俯いた。そんなとき先輩団員が。
「ここまで来たのは感慨深いよな、俺もそうだった。けどな、ここからが始まりだ。勘違いするな。ここから全部が始まるんだ。守るための戦いも、喜びも・・・そんで悲しみも。だから目に焼き付けておけよ」
そう言って扉に手をかける。
「涙でかすんでるなら拭って前を見ろ。これがお前たちの団員としての最初の風景だ。もう一度言う。目に焼き付けろ」
酷かもしれんがな。そんな声が聞こえた。
いや、聞こえた気がする。正直後になってそういっていた気がするだけだ。曖昧なのだ。目の前の光景が鮮烈過ぎて。本当に曖昧になった。
そこにはひしゃげ、散らしたかのような血がべっとりとこべりついたエスロットがいた。