少年の・・・3
訓練施設がある島から2つ隣にある島。天層圏4層4番島に飛行艇で一時間程。ガヤガヤと賑わう湖の傍に数件並んだ食事処にある一件のテラスに俺たちは集まっていた。
この湖。ハンネ湖はこの島全体の貯水槽でもある。湖の中心にある埋立地に建てられた施設から島全体に生活水が行き渡るように地下に配管を行い送水をする施設だ。最初はその為だけの施設であったが数十年前にそれだけじゃ勿体ないと住民からの話しが上がり夜にはイルミネーション輝く観光スポットになった。それが功を制し湖近くには飲食店やホテルなどが立ち並び今では天層圏4層目の目玉スポットになっていた。
そんな人が賑わうこの街とも言える湖の畔。何故ここを選んだのかと言われれば・・・この場所。天気さえ良ければ訓練施設がある島から光が見えるのである。
小さな光ではあるのだが見えた時はそりゃあもう。輝く街を思い浮かべ歯軋りを鳴らした日々もある。ちなみにサバイバルした島からは4つほど離れた位置にある。訓練施設からみれば反対側だ。出来ればあそこには近づきたくない。そう今回の幹事をした仲間から聞いた。ああ、お前餓死寸前だったっけ。痩せたいと言う女子にはうってつけ!そうはしゃいでいたのが響いて痩せるには痩せたが最早痩せすぎの領域以前に生命維持がヤバそうな顔をしていたのを覚えている。
ちなみに何とかサバイバルを終了して数週間後には目標にしていた体重に辿りついたらしいが(痩せ過ぎて食べて体重を増やした)本人曰く。痩せるには痩せたが・・・胸の脂肪が何故か戻らない。ヤバかった時期から胸だけが増えない。何故だ。とうわ言のように言っていた。男はみんな総スルー。怖すぎてその会話が始まった瞬間に音をたてずに教室からいなくなった。視線が合えば次の対人訓練では執拗に狙われる。複数戦ならもっと悲惨である。リンチだ。人数によってはあれはマジで殺される。
女子については私もだと目をマジにしながら言う奴が少数。それに慰めで混ざる奴らが半数。残りはもう少し食べたら戻るから。肉付き少しはあった方が可愛いらしいよ、男にとって、ねえ?そう思うよね?男子?測り方で違いは出るのよこういうのは、ほら、1cmアップ。さらにね。こうして寄せればーなどのアドバイスやらなにやらがいた。
何にせよみんな仲が良かったな。本当にあぶれた奴なんて1人もいなかった。そうしなきゃ辛い訓練を乗り越えなれなかった。
ただ。その後の身体測定はヤバかったな。今回の幹事を慰めで胸が縮んだ派に混ざった女子がなんとバストアップ。横で昨年と比較が出来る紙を盗み見た幹事キレる。キレたそのあまりの言葉に慰め派女子もキレる。口論始まる。男子教室の隅に固まる。小動物の如きに固まる。大型肉食獣の喧嘩を檻から逃げられない状態で見ている小動物状態。訓練始まる。攻城戦。男子攻城。女子防衛。2人防衛から飛び出す。勝敗は狩った数だと無線から2人の会話が聞こえてくる。男子逃げる。狩られる。攻守の立場逆転。女教官爆笑。男教官2人、訓練内容と違うと女教官に話しをしたが一睨みと「女の気持ちがわからんから独り身なんだよ」の言葉に消沈して女教官に訓練を任せ退場。訓練続行。酷かった。俺は頭を下げながら女子の陣営に匿って貰った。匿った女子全員に3日間食後のデザート奢りで命を守った。そしてあまりの量に俺の財布が悲鳴を上げた。俺の体重は減った。半月はひもじかった。だから体重は減った。俺の。
いやぁ、懐かしいな。本当に。これが懐かしい過去で本当に良かった。今度また同じようなことが偶然にでも起きてしまったら俺はキレる。問答無用で真っ先に俺がキレる自信がある。だって本当にさ!辛かったんだよ!なんだよ何も塗ってないパンを10日間の食料にした事があるか!あの辛さが嘘だったなんて俺は信じない!お金は確かに減ってたんだ!何度財布のがま口を開いたとー
「なに思い詰めた顔してるの?」
ハッと顔を上げればコユビがグラスを2つ手に持ち隣の空いた椅子に座る。いかん。酔ってたのかな。なんだ訓練過程はもう終了したんだよな。同じようなことが起きることは無いんだ。そう、もうないのだ。
「いや、ちょっと思い出しててさ」
差し出されたグラスを受け取る。空いたグラスをコユビはさり気なく横に置いて邪魔にならない所に置いてくれた。出来る子だなぁこの子は。
「思い出してってアイちゃん達の事?」
「うん。それもある」
嘘だ。ない。けどそういう事にしておく。酷い目で見られそうだから。
誤魔化すようにグラスに口をつけた。うん。ジュースだわ。酔ってないわ俺。まだ18歳までそりゃ飲めないよな。未成年だし。
「けどなんでまた俺のボタンなんか欲しがったんだかあいつら」
とりあえず思った事を口にした。賑やかな空気に酔っているんだ俺は、そうに違いない。多分。
「それだけ実力があるって事なんでしょ」
眩しい笑顔を向けてくるコユビ。いやいやそれは無いだろう。良くて中の上だし俺。操作だけ。
「なんで不服そうなの?操作制はタツ君飛び抜けてたじゃない」
その言葉に思わず吹き出しそうになって噎せた。
「ゲホ!・・・飛びぬけてって・・・それこそ良く言ってもコユビ達と変わらないぐらいだろ?良く言っても・・・」
その言葉に今度はコユビが噎せた。え?なんで?
「コホ!・・・コホ!なんでってタツ君本気でコホ!コホ!」
「ああ、とりあえずすまん。ごめん」
コユビの背中を摩る。
「ありがとう、もう大丈夫」
治ったコユビは深呼吸してこちらを睨んでくる。勢い良く振り向いたせいか髪がふわりと舞った。
「タツ君、本気で今の言葉いったの?」
睨む視線に思わず上半身が引いてしまう。
「本気もなにも実際そうだろ?現に卒業訓練なんて真ん中より少し上ぐらいの順位だったんだ。何処が飛びぬけてるんだよ」
卒業決定前の訓練最後の総仕上げ。総当たり戦の模擬戦をやった。一週間の期間手を抜いたり相手をなめていた事なんか無い。これだけは断言出来る。
「それはみんなタツ君を意識して対策してたもの当然よ!みんな躍起になってたんだから!あたしだって!」
顔が近い!机を強く叩いて抗議してくるコユビ。料理が一瞬浮いたぞ。
「なっなんで俺を意識するんだよ。俺よりコユビに対策たてたりした方がいいだろ。それか実力近いやつらに確実に勝てるようにとかさ」
それを聞いたコユビは驚いた顔をして浮いた腰を下ろしてまた椅子に座った。
「本気でわかってなかったんだ・・・」
わからん。面と向かって話しているのに話しが全くわからない。
「なになに?なんの話し?あんまり机を強く叩いちゃだめだよコユビ」
浮いたような言葉でコユビの肩を叩いてその驚いている顔を覗き込む女子。リィユ。金髪の髪が頭の上でお団子になっていてそこから垂れるポニーテールが最初から印象的だった。あとスタイルが妙に良い。背は低いが。まぁスタイルで言うとクラスの女子はみんないいんだろうけどな。鍛える訓練もあったし。けどそうだ。リィユに聞けば更に確信が持てるな。何せこいつは戦闘訓練では常にトップだった。食らい付けはするものの勝った事は数えた事しかないし。俺よりは確実に上だ。
「リィユ、お前からもコユビに言ってやってくれよ。俺はそんなに強くも上手くも無いって」
「んん?どゆこと?詳しく聞かせてよ」
ふわふわとした口調から説明を求められた。ああ、そうか。事の発端から話さなきゃ伝わらないか。そう思ってボタンの話を含めて内容を伝えた。
「な〜るほどね、そりゃタツ君が間違ってるよ、あはは〜」
腰に手を当てて何故か偉そうに言うリィユ。なんでだよ。ええ?なんでなの?
本気でわからない顔をしてたんだろうか。リィユは頷いた後こう口にしてきた。
「中期生時代。教官が連れてきた実戦部隊の団員と戦った事は覚えてる?」
そりゃ覚えている。勝ったのが嬉しかったからな。何とかもぎ取ったんだ。後でシュミレーターぶっ壊してめちゃくちゃ怒られたけど。
「うん。私らは初期生から中期生になっていよいよ卒業予備生になる前にやった訓練だったよね」
いやぁ、懐かしい。そう言ってまたも頷くリィユ。なんだろう。頷くのは癖なんだろうか。
「あの訓練でね。本当の意味で勝ったのはタツ君だけだったって知ってた?」
は?
「いやいや、おかしいだろ。あの訓練の課題クリア条件は現役団員に勝つ事だったろ?シュミレーターでハンデ設定したの覚えてるぞ俺。その隊員に勝ったから俺たちは卒業予備生なって、今日卒業したんだろ?」
そうだ。現役団員達に過多なハンデを背負ってもらい本気でぶつかっていった。訓練施設は全てシュミレーターによって訓練を受けている。実戦機であるエスロットを本当に乗りこなすには団員にならなければならない。訓練施設は実戦機を持って訓練してはならないのは国で決まっている事だ。事故防止もそうだがエスロットは作成に多大なる資金、そしてなによりジュエルが必要になる。ジュエルの特殊法術をするにあたっても、もちろん資金が必要だ。だから訓練生はシュミレーターで訓練をするのだ。団員になってからの実戦機とシュミレーターとの多少の違いが訓練生の最初の壁と言われている。しかし、それはこの訓練の場合は隊員達にも言える事だった。慣れた筈の実戦機からシュミレーターへ。それまでも想定したハンデだった。
「うん。そうだね。私らみんな勝ったよね。けど壊したのはタツだけで・・・次の日タツ君授業中に怒られにシュミレーターの所まで行ったよね?」
ああ、そうだ。こっ酷く怒られた。無茶な操作。数ある訓練備品。お前はまだまだうんぬんかんぬん。本当に、俺だけ壊して恥ずかしくって、そこから更に訓練漬けになった。おいていかれると思ったんだ。だからなんとかギリギリ追いついてきたんだ。みんなに。
「私達はね、あの時タツ君が怒られてる間にタツ君の訓練映像を教官に見せられてたんだよ」
そのコユビの言葉に、お前らもこんな風にシュミレーターを壊すなよ的な事を言う教官が目に浮かんだ。いや、けど、違うのか?話しの流れから言って・・・
「いやぁ〜衝撃的だったよね。団員さんの最後の言葉なんか本当にもう。聞いてる私ら全員悔しくなったよ」
そうだそうだと周りの奴らも言い始める。なんだよみんな聞いてんのかよ。
「なんて言ったんだよ。団員さん」
にししと笑うリィユ。表情がコロコロ変わるなこいつは。けど今はそんなのどうだって良かった。
「くそっ!やられた!訓練生のガキ如きに!だってさ」
その言葉を信じられない自分がいた。
「いやいや、嘘だろ?な?あれか、俺がここに来る前遅れたからみんなそうやってー」
「私ら悔しかったよ・・・なんでハンデ背負ってる同じ人間にそんな言葉すら吐かせられないのかってね」
目が本気を物語っていた。
「そうだ。お前にだけは負けられないって思った」
「負けてたまるかって思ったよ。俺も」
「追い抜く目標の1つだよ。私は今でも」
「私だって!すぐ追いつくから覚悟しなさいよ!」
「そうだ!馬鹿!」
「スケベ!変態!」
「将来剥げろ!」
後半!後半いらねぇよ!
「ふふふ。みんなね。あの映像でね。強くなったんだよ。今でも覚えてるよ。映像の最初は調子が良いってなんとなくみんな分かったよ。毎日訓練してたからかな」
コユビが笑いながらそう言う。
「そうそう。それから〜・・・どんどん調子が上がって行ってさ、もうセーフティで止まる寸前だと思った所から更に上がるんだもん。面食らったよねぇ」
そこからリィユがその言葉を繋ぎ・・・
「あれなぁ、覚えてるわ。最初スピード限界まで行ってー」
「次はパワー限界だな。後さ、あれ機体の操作性途中から一気に上がらなかったか?あの一回ぶっ飛ばされた瞬間あたりから」
「わかる。着地右の片手と片足でしたやつだよね!」
「そうそれ!あれやばかったよな!団員対処しきれてなかったって言ってたしな」
「あれはハンデあったら無理でしょ、正直着地してからあんな低空滑走できる気しないわよ本当に。まぁ、今は出来るようになったけど」
「10回に1回は失敗するけどな」
「うるさい!いいじゃん!かっこ良かったんだもんあれ!」
「まぁ、俺が一番好きな所はあれかな、ラストの着地からのクイックダッシュ。あれはヤバかった」
「僕もあれ好きだな〜痺れたよね」
「あれ着地のセーフティと加速始動一気にやらないと無理よね。まぁ、あれでのせいでシュミレーターのセーフティごと壊れたんだけど、正直実戦機なら出来るようにしてあるんだろうけど怖くて出来ないわよ。着地沈むみ込む前に加速してたもん。あれ普通やったら機体地面に向けて加速か着地したはいいけど明後日の方向に飛ぶわよあれ」
「うん。やって私の所に飛んできたもんね。あっ私本当にびっくりして思わず泣きそうに、泣きそうにぃ」
「ああ!ごめんって!本当に!だから、ねっ?泣かないでよぉ!」
「青天井なんてして周りから爆笑されたらそりゃ・・・なぁ」
「言ってやんなよ、本当に恥ずかしいぞあれは」
「はい、そこ!傷口抉らない!」
周りがガヤガヤと騒ぎ始めた事に対して俺は呆然としていた。
「映像みながらね。団員の隊長さんとタツ君と訓練した団員さんが来て言ってたよ。自分は途中から手を抜くのを止めたって、みんなもこの男に負けず劣らず上を目指せって、まだまだ所属団にはこれが序の口なんだから君達は今のこの映像の彼を超えるチャンスなんていくらでもあるって」
コユビがそう俺の居なかった思い出を語ってくれた。
「ちなみに隊長さんに質問したら正規団員はこれぐらいならみんな出来るって言ってたよ。後ね、教官がこれは良い見本になる、後輩達にも見せるかって小言で呟いてよ。タッちゃん」
ああ、だからか。だからその後にあいつら俺が訓練してた所に来て指導してくれだのなんだの言ったのか。それでボタンも・・・ああ、何となくわかった。何か恐縮だな。本当に。それからみんなに対策されて勝てるもんも勝ててない訓練が多いにあるのが尚更。
それにしても・・・正規団員はもっと上か。そうか、そりゃそうだろうなぁ。まだまだ先は長いな。ってなんだその呼び名は。
「私だけ所属遠くだからさぁ〜いいじゃんいいじゃん!みんなに会えなくなるのが寂しいんだよぉ」
なんだと言う前から背中に抱きついてくるリィユ。あの・・・当たってんだけどもふくよかなのが!
「あ、そっかリィユは2層目の8番に行くんだっけ?じゃあ私とは近いかもしれないね」
「あっ!そうなの!コユビがいるなら寂しくないかも〜!」
「あはは、ありがとう。そう言ってくれるなら私もあっちで寂しくないかも」
すぐにコユビに抱きつき変えたリィユ。ああ、びっくりした。
なんとなく安堵した後周りを見渡す。すると
「うおおおぉ!」
「おらああぁぁあ!」
などの声を先程映像の話をしていた奴らが叫んでいる。棒読みで。っというか恥ずかしいな。なんか俺はただみんなに追いつきたくて、追い抜きたくて必死にやってただけなのに。こんなにも評価されていたんだと知ると何か物凄い恥ずかしい。っていうか訓練生では上手い方に入ってたんだな。操作性。もっと頑張んないと。
「なっ、なぁ、何叫んでるんだ?それ・・・」
恥ずかしさからしどろもどろになる口。ああ、くそっ、何か話しかけ辛い。
「ん?いやなに、真似だよ真似」
「そうそう真似真似、結構似てると思ってる、私は」
それを聞いた何人かが腹を抱えて笑う。なんでだ?
「誰の真似なんだ?俺も知ってる?」
知ってたらそんなに面白いのか。誰だ。笑える叫び声の奴なんて周りにいたかな?
「むふふ〜、それはもうかっちょいいやつなんだよ。」
リィユの言葉にみんな頷く。ますますわからん。誰だ!気になる!
「あら〜まだタッちゃんだけわかってないみたいだね。じゃあみんな教えてあげようか」
妙に似合うウィンクからリィユせーのと声をかけー
「「「タツ・シライト」」」
俺は真っ赤な顔を隠すようにトイレに駆け込んだ。
なんだよ!映像って音声ついてんのかよ!
後ろから爆笑する声が聞こえるが振り返りはしなかった。