鯛の昆布締めと調合師と猫族のキキ
「はぁーー。」
「どうしたのキキ、そんなに大きなため息ついて以来中に珍しいこともあるもんだね。何か悩み事でもあるの?」
久しぶりにパーティーを組み。ドレッグ町近くの森で、実入りのよい貴重な薬草採取の依頼をしていた。
調合師仲間で兄弟弟子のニッカとキキの2人は、いつも元気いっぱいの猫族のキキが、珍しく大きなため息をつき。何か悩んでる様子にニッカが心配して声をかける。
「う~ん、悩みて言うかニャ………他の人が聞いたら笑われちゃうかも知れニャいんだけど………」
「何みずくさいこと言ってるんだよ、キキ!
一体何時からの付き合いだと思ってるの?正直に言いな。何か力になれるかも知れないでしょう。」
口は悪いが根は優しいニッカがキキに聞くと、ぽつりぽつりとキキが喋り出す。
「実は…本当につまらない事ニャんだけど…………
この前、馴染みの猫族の老夫婦がやっていた食堂がニャ。
お爺さんの腰の持病がいよいよ悪化しちゃって、故郷の猫族の里に帰るからと閉店しちゃったんだニャ。
ドレッグ町 唯一の猫族の厳しい目を合格した下処理がちゃんとしてあり。生臭くない海や川の魚料理が食べられる店だったから、あの店が無くニャってしまい。
他の食堂の魚料理は、塩辛いか生臭くて食べれたもんじゃニャいから、美味しい魚料理が食べれニャくて、悩んでるだニャ。」
悲しそうな顔で悩みを打ち明ける。
そんなキキの話を聞いたニッカは、何やらテキパキと薬草採取依頼分で集めた薬草を袋に詰め。使用した道具などを片付け。
「キキ 大丈夫、僕に任せな!
今から急いでギルドに依頼達成して、美味しい魚料理を食べさせてくれるお店に連れてってあげるよ。
だからほら、ちゃっちゃとキキも片付けて、町に帰るよ!」
自信満々に言うと、2人は町への帰り道を急ぐのであった。
◆◆◆◆◆
「ニッカ、だいぶ町外れに来たけど、こんな所に本当にお店あるのかニャ?」
人の気配があまりしない町外れの細道を歩いていたキキは、心配してニッカに問いかける。
「大丈夫、大丈夫。僕も最初アルトに教えてもらった時は、キキみたいに心配したけど、ちゃんとお店もあったし。たどり着いたんだよ!
それに本当に美味しいんだよ!だから心配しなの!
ほら、話していたら、もう少しでお店に着くよ。後ちょっとだから頑張って!」
ニッカが言うように。それから少しして、目の前に見た事もない造りのお店が現れ。ニッカに連れられるまま、キキは店内へと入店する。
カラコロ~ン♪
「「いらっしゃいませ(ニャ。)」」
扉についたベルの音に反応して、店内にいた小麦色のバンダナとエプロン姿の甘い顔立ちの少年と猫族の男の子が迎えてくれる。
「ニッカ!いらっしゃいませニャ。横はお友達かニャ?
はじめまして、僕は朝倉亭 看板息子の猫族のシイニャ。
隣にいるのが副店長の刀弥ニャ。それから奥の厨房にいるのが亭主の弓弦ニャ。仲良くしてニャ。」
「はじめまして、シイ君は猫族なんだね。僕もシイと同じ猫族で、キキというんだ。よろしくね。」
お互いに自己紹介をしながら、同じ猫族同士。気が合うのかニャニャ言いながら話始めるのであった。
◆◆◆◆◆
そうして、あれからゆうに20分以上の時間が過ぎ。
今だ、入り口付近でキキとシイの立ち話しが盛り上がっているなか。
苦笑いの刀弥に促され。ニッカ達は、4人用の広々したテーブル席に案内してもらい。
刀弥が持って来てくれた氷水入りの木のコップ、水差し、おしぼり、メニュー表を受け取る。
刀弥から受け取ったメニュー表を眺めながら、ニッカがキキに何を食べるか質問すると。
今まだ、シイとの『今まで食べて、一番美味しかった魚料理』の話に夢中なキキが『魚料理でニッカにお任せするニャ。』とお願いされ。
悩んだニッカは、主菜を主人オススメの魚料理に決め。他も魚介系でまとめて注文する。
その後 基本食いしん坊の3人は、ニッカも話に加わり。
3人仲良く美味しかった料理の話で盛り上がっていると、お盆いっぱいに料理をのせた弓弦と刀弥がやって来て。
「キキさん、はじめまして。僕がこの朝倉亭 亭主 弓弦になります。どうぞ、よろしくお願いします。
それでは、お腹も空いてると思いますので、ニッカとキキさんがご注文した料理の確認をさせて頂きますね。
まずお2人がご注文した主菜の
・鯛の昆布締め
ニッカの小鉢 3品が
・蓮根と海老しんじょのあんかけ
・大根と手羽先の煮物
・海藻サラダ
キキさんの小鉢 3品が
・蓮根と海老しんじょのあんかけ
・アサリと芽ひじきの五目煮
・ホタルイカとワケギの酢味噌あえ
汁物が
・根菜と鰯のつみれ汁
ご飯と味噌汁はおかわり自由なのでお気軽にお声かけ下さい。
それから主菜の鯛の昆布締めは、なん切れか残していただき。こちらのだし汁をかけますとお茶漬けになり。美味しいですよ。
他に単品注文の
・鰈の煮付け
・イカのクリームコロッケ
・野菜天ぷらの盛り合わせ
になります。
こちらに取り分け皿の小皿を置いておきますね。
デザートの
・スフレチーズケーキ
は、食後にお持ちします。
後、この茶碗蒸し 良かったら食べて下さい。シイの相手をしてくれたお礼です。
ではでは、長々すいません。ごゆっくり どうぞ。」
2人に料理の確認しながらテーブルに料理を並べた弓弦と刀弥は、お辞儀をして。シイを連れて店の奥に戻って行く。
「うわ~!本当にニッカの言うとおり美味しそうで、いい匂いの料理ばかりニャ。」
「ね、そうでしょう!それより早く食べようよ。僕 お腹すいた~!」
2人は ホカホカの白い湯気上がる美味しそうな料理を前にして、さっそく食べ始める。
◆◆◆◆◆
「ふぅ~、美味しかったニャ。ニッカ、ご馳走してくれてありがとニャ。
しかし、魚を生で食べるなんて初めてだニャ。朝倉亭限定でしか食べれないらしいから、また食べに行きたいニャ。」
「僕も朝倉亭の近くに引っ越してからは、安くて美味しい事もあって毎日食べに来てるけど、生の魚料理を食べたのは初めてだよ。けど、意外に美味しくてびっくりした。また食べたいね。」
ご飯を食べ終え。ほどよく重くなったお腹に満足げな2人は、食べた料理の感想などを話し。弓弦が帰り際お土産にくれた焼き菓子を手に朝倉亭近くのニッカとアルサの家に向かう。
「けど、本当に良いのかニャ?」
「うん。大丈夫だよ。キキとアルサは、元から顔見知りだし。かなり大きな家だから、アルサと2人でもてあましてたんだ。
それにこの前も、アルサと2人で話してて、誰か友達に良い人がいたら部屋を貸して、一緒に住んだ方が家事とか分担できて良いよねて言ってたんだから。」
すっかり朝倉亭の魚料理の虜になったキキは、店近くに住み。連日朝倉亭で食事するニッカを羨ましがり。
街中の借宿を引き払い。店近くに引っ越すと料理の途中に決意をかため。ニッカに話すと、話を聞いたニッカが、自分達の持ち家に暮らさないかともちかけたのだ。
「ほら、たぶん今日はアルサ休みで家にいるって言ってたから、弓弦に貰った焼き菓子持って話に行くよ。」
ニッカに急かされ、アルサがいる家へと急ぐキキ達であった。
こうして、無事にアルサとニッカの家に住む事が決まった。魚大好き猫族のキキが、朝倉亭の常連客として仲間入りするのであった。