牡蠣の宇部煮風と騎士のサイモン
「あーぁ、なんだか肩がカタカタいう気がしますね。やっはり年のせいでしょうか、連日のデスクワークは肩が懲ります。」
職場の席で最後の書類チェックを終えた。高齢ながらガッチリした体格にパリッとした、シワ一つない軍服を着用し。
年と共に白くなった白髪頭をオールバックに撫で付け。同じく口元に白い髭をたくわえたサイモンが、ここ数日のデスクワークで凝った肩をコキコキならしながら、しみじみ呟く。
「ふぅ~。まったく、あの方があんなに書類を溜め込むから、部下の私が迷惑を被ると何度もお伝えしたのに。
またこんなに溜め込んで、あの方は何を考えているのやら…………………はぁ~、それにしても本当に疲れましたねぇ。
……こんな疲れた時は、英気を養うために弓弦の所で美味しいものでも食べますか。」
机の上の書類を片付け。サイモンはコートを羽織ると、いそいそと職場を後にする。
◆◆◆◆◆
チリ~ン、チリ~ン
「いらしゃいませニャ!
あっ、サイモンおじちゃんだニャン!久しぶりだニャンね。お仕事忙しかったニャか?
なかなかサイモンおじちゃん店に来なかったから、ちゃんご飯食べてるか心配してたニャよ。」
だいぶ前に今回のような無理なデスクワークが災いし。連日の書類作業の疲れで立ちくらみをおこし。道端で倒れ。そこを猫族のシイに助けられ経験があるサイモンは、シイの言葉に苦笑いをしながら
「心配かけたみたいだね、シイ。ありがとう。
そうだね。今回も少しばかり仕事が忙しくてね。なかなか朝倉亭に来れなかったんだよ。」
「そうだったのかニャ。仕事ならしょうがないニャ。
あっ!けどそれニャなら、シモンじいじは毎日食べに来てたニャンに、どうしてなのかニャ?
シモンじいじとサイモンおじちゃん同じ所で働いてるニャンよね?」
サイモンの上司で、サイモンに仕事を押し付けた張本人でもある。
本来なら日々の食事も満足に食べられず。あまりの忙しさに仕事部屋からも一歩も出られず。
味気ない非常食の硬いビスケットと眠気覚ましの珈琲の日々をおくっていたサイモン同様。忙しく書類整理をしなければいけないはずのシモンのおこないに。
サイモンは静かな怒りの炎を心に秘めながら、静かな微笑みを浮かべ。良い情報をくれたシイにお礼の言葉をのべる。
「へぇ~、シモン様は毎日こちらに食事にいらしていたのですか……。
(ボソボソ/私がくそ忙しく、味気ないビスケットと苦い珈琲で、襲いくる眠気と空腹に戦いながら、シモン様が溜め込んだ大量の書類を片付けてあげてる間にねぇ~。)
それは良い事を聞きました。シイ、教えてくれてありがとうございます。
帰ったらシモン様とよ~~く話し合わなければいけませんね。」
「本当かニャ。何か良く解らないけど、サイモンおじちゃんの役にたてたみたいで良かったニャ!」
サイモンとシイの2人が、今だ店の入口付近で話している事に気付いた刀弥が2人に声をかけ。サイモンは、いつもの指定席へと案内されるのであった。
◆◆◆◆◆
「サイモンさん、お待たせしました。こちらメニュー表、おしぼり、お冷やになります。」
席に案内してくれた刀弥が、メニュー表とホカホカと白い湯気をあげるおしぼり、檸檬が浮かんだ水差しとお冷やが入ったコップをサイモンの前に置いてくれる。
「あぁ、ありがとう。
ところで刀弥君。すまんないのだが今日のメニューに、前に弓弦君が教えてくれた。骨をケアするメニューとやらは、有るだろうか?」
前にシイに助けられた時、直ぐに魔法で直してもらったのだが、倒れたさいに腕を骨折し。
その時 弓弦から、サイモンのように長年の騎士の鍛練で鍛えられた立派な体でも、年をとると共に骨も元気を失い。年々、脆くなり。
ちょっとした転倒などで骨が折れ、骨折などが多くなり。それが原因で、体力がガクッと衰える事や。
いかに普段の生活や食事等で、骨に重要なカルシウム、カルシウムの吸収を助けるビタミンD,骨を強くするビタミンKとやら効率良くとる大切さを教えてもらい。
初めて聞くカルシウムやらビタミンD、Kなの言葉に驚きながらも。
まだまだ自身より3つ年上のかなり世間知らずのシモンをサポートしなくてはいけないため。
それから弓弦に教えてもらった食材などを意識して、健康に気を使い。食べるようしているのだ。
「はい。今日のメニューですと、主菜の牡蠣を使ったメニューや副菜の小松菜とチーズを使ったグラタンなどがありますよ。」
刀弥から教えてもらい。刀弥とも話し合いながら、サイモンはその日のメニューを決める。
◆◆◆◆◆
「サイモンさん、お久しぶりです。」
「あぁ、弓弦君。こんにちは。」
朝倉亭・亭主の弓弦がサイモンに挨拶をするなか。弓弦は、ワゴンにのったサイモン注文の品の料理をテーブルに並べる始める。
「お待たせしました。サイモンさん注文の
主菜の
・牡蠣の宇部煮風
小鉢3品が
・高野豆腐と海老とほうれん草の卵とじ
・ササミと大葉、チーズの春巻き
・小松菜とホタテの酢の物
お漬物がバイキングコーナーから1品お持ちしまして
・山芋のわさび合え
汁物が
・たっぷり野菜のすまし汁
ご飯と汁物、お漬物5種類は、バイキングコーナーにお代わりがありますので、お腹いっぱいになるまで食べて帰って下さいね。
デザートが
・デコポンヨーグルトムース
になります。
デザートは、食後にお持ちしますね。
それからコレなんですけど。この前サイモンさんが、また食べたいとおっしゃっていたので
賄い料理で申し訳ないんですが、甘辛く煮た干し椎茸に衣をつけて揚げた。
・干し椎茸の天ぷら
になります。
では、長々と失礼しました。ごゆっくり、どうぞ。」
料理を並べ、説明を終えた弓弦は、一度ペコリと頭を下げると厨房の方へ戻って行く。
そんな弓弦の後ろ姿を見送りながら、待ちきれない様子のサイモンは、目の前に並べられた料理を前に、満面の笑みで深呼吸をする。
「う~ん♪良い匂いです。それにいつお店に来ても弓弦君が作る料理は、初めて出会う料理ばかりですし。
盛り付けにもこっていて、見た目も美しく。美味しそうな料理ばかりで、どれから食べるか迷いますね。」
悩みつつ。まずは、メインの牡蠣の宇部煮風から食べ始める。
「……うん!これは何でしょう。何かの貝類の身だと思うのですが、プリプリしていて、口に入れた瞬間、とろけるように柔らかく。クリーミーな味わいやエキスがじゅわっと口中に広がりますね。
う~ん♪こんなに美味しいと、ついつい手がのびてしまいます。………はぁ~、一気に食べすぎて、残り3個ですか。大事に食べなくては。」
器の中の残りの牡蠣の数を確認しながら、次の料理を食べ始め。
「どれどれ、次は弓弦君が好意でくれた『干し椎茸の天ぷら』を熱々の美味しいうちに食べましょうか。
…………うん、うん、これこれ。このカリッと揚げられた干し椎茸の甘辛くジューシーな味わいが、実に美味しいです。
しかも味がついてるから、そのまま食べれますし、最高です。
これが賄いでしか食べれないなんて、もったいないですね。」
前に来店したさいにシイからおそわけで貰って以来、その甘辛くジューシーな美味しさにハマった『干し椎茸の天ぷら』を食べながら、サイモンは幸せそうにデザートまで食す。
◆◆◆◆◆
「「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」」
「サイモンおじちゃん、また来てニャ!待ってるニャよ!」
弓弦や刀弥、シイ達3人に見送られながら、会計を済ませたサイモンは白い息を吐き。片手に大きな袋を持ちながら、寒空の下、家路への道を歩く。
「はぁ~。それにしても、まだまだ夜は冷えますね。
しかし今回の料理も、どれもこれも美味しかったです。
シイ達も言ってくれた事ですし、また近いうちに朝倉亭へとご飯を食べに行かなくてはいけませんね。楽しみです。
それにしても弓弦達は優しすぎます。こんな老いぼれの私の事を気遣ってくれ。
仕事が忙しいからと、毎回こうして2~3日分の食事や焼き菓子を土産に持たせてくれるんですから、感謝してもしきれませんね。」
片手に持ったお土産を大事そうに抱え直し。嬉しそうに微笑むと歩みを早めるのであった。
「あっ!そうでした。仕事を人に押し付け、自分だけ美味しいものを食べていたシモン様への罰はどうしましょうかね………。」




