ハンバーガーと司祭のコウロと孤児院
その日も朝早くから元司祭のコウロは、子供達と日課でもある畑仕事を終え。孤児院の一室にある自分の仕事部屋で、副業でもある翻訳の仕事をしていた。
すると部屋の扉がノックされ、孤児院の子供の1人、タクマがコウロを呼びに来くれる。
「先生、弓弦達が来たよ。」
「あぁ、もうそんな時間でしたか。ついつい書き物をしていますと時間がたつのを忘れてしまいますね。タクマ、わざわざ呼びに来てくれて、ありがとうございます。」
コウロは呼びに来てくれたタクマにお礼を言い。弓弦達の待つ中庭へと小走りに歩いて行き。
何やらお店屋さんのようにカラフルにデコレーションされた屋台で料理している弓弦達に遅れた事を謝罪する。
「3人ともお待たせしてしまって、申し訳ありません。」
「いえいえ、お仕事をなさっていたのでしょう。タクマ達が教えてくれました。こちらこそ、お仕事中に申し訳ありません。」
弓弦が頭を下げるので、慌ててコウロが頭をあげるように駆け寄ると、弓弦が苦笑いしながら
「あっ、何かすいません。ついついコウロさんをみると故郷でお世話になってた神父様を思い出してしまって、シャッキとしなければと身構えてしまうんです。」
「そう言えば、前にそんな事おしゃってましたね。」
「えぇ、だからたまに態度がおかしくなる時があるかも知れませんが、気にしないで下さい。
あっ、そうだ!ちょうどこちらもいろいろと準備を終え。ハンバーグも焼き上がったところなんですよ。」
苦笑いしたままの弓弦が、かなり強引に話を変え。
前に一度コウロ達が食べさせて貰った事がある。大きな鉄板で焼かれた焼き目の美味しそうなハンバーグを見せてくれる。
「うわーハンバーグですか、美味しそうですね。
前に一度ハンバーグを食べさせてもらいましたが、小さい子供から歯の弱いお年寄りまで幅広く食べられ。ハンバーグとは、実に考えられた素敵な料理になりますね。」
ついつい美味しそうなハンバーグを見て、コウロの顔に笑みがこぼれるなか、テキパキと手を動かし。ハンバーグを焼き上げている弓弦が
「ちょうどハンバーグも焼き上がった事ですし。
このハンバーグを使ってハンバーガーを仕上げちゃいますね。」
「えっ?ハンバーグではないのですか。」
「はい。前に一度ハンバーグを食べてもらったので、今度はちょっと思考を変えまして」
焼き上がったハンバーグを同じ鉄板脇で焼いていたバンズの上に置き。ハンバーグの上にチーズ、水にさらして辛味をとった粗みじん切りの玉葱。
すりおろした人参やトマトピューレ等で手作りしたトマトソースをたっぷりかけ。
更に輪切りのトマトをのせるとバンズで蓋をし。食べやすいように袋に入れ。大量のハンバーガーを作り上げ。
何やら可愛らしい服装のお手伝いをしてくれている猫族のシイが、コウロに袋に入ったハンバーガーを手渡してくれ。
「先生、ハンバーガー美味しいニャんよ!
それに今日は、弓弦の故郷で言うところの『こどもの日』だニャン♪
だからこどもの日限定の弓弦のハンバーガー店の『ハンバーガー』や『ポテトフライ』、『オニオンリング』
刀弥のアイスクリーム店の『バニラ味』、『チョコ味』、『ストロベリー味』の三種類のアイスクリームや『オレンジジュース』、『リンゴジュース』が食べ放題の飲み放題なのニャン♪
年に一度のこどもの日ニャから、みんな遠慮せずにお腹いっぱい食べるニャンよ!」
コウロの周りにいる孤児院の子供達に聞こえるようにシイが大声で話し。周りにいる子供達に出来立て熱々のハンバーガーをドンドン手渡していく。
「えっー!この美味しいハンバーガーだけじゃなく。
ポテトフライやオニオンリング、オレンジジュース、アイスクリームて言う食べ物も食べていいの!」
「うわー美味しそう!こどもの日てスゴいんだね!」
「僕、刀弥兄ちゃんの所でアイスクリーム貰ってこよう~♪」
「やったー!今日は新しい洋服もノート、鉛筆も貰えて
こんなに美味しい物がお腹いっぱい食べれるなんて、なんて幸せな日なんだろう。」
「本当だよね!まるで、どこかの国のお姫様になったみたい!」
ハンバーガーを受け取り喜ぶ子や弓弦達からの食べ物以外のプレゼントを受け取り喜ぶ子など、中庭のあちらこちらで子供達が嬉しい悲鳴をあげ。
『美味しい、美味しい』や『嬉しい』等の声にコウロがつい耳を傾けていると
「あれ?先生まだハンバーガー食べてニャかたのかニャ?
弓弦の料理は冷めても美味しいニャンが、出来立て熱々の方が美味しいニャンよ♪」
シイに声をかけられ。コウロもシイから受け取ったハンバーガーを食べ始める。
「うゎ!パンがカリッとしていながらもふあふあモチモチとした食感で美味しいです。
それにパンに挟まれているハンバーグも肉汁溢れるジューシーさで、チーズも良く合い。
そこに濃厚な味わいながらサッパリした味深いトマトソースが合い。すごく美味しいです!
う~ん、これはあまりの美味しさに一口食べたら止まらなくなる美味しさですね。」
ハンバーグとはまた違ったハンバーガーの美味しさに、コウロはこんな美味しい食べ物を子供達と一緒に食べれる事に感動すると共に感謝の気持ちでいっぱいになる。
◆◆◆◆◆
と言うのも、コウロが自分の身銭を使ってまで営なんでいる教会や孤児院に弓弦達が来てるかと言うと。
半年前に猫族のシイが日課の散歩をしていると、朝倉亭近くの細道でコウロが行き倒れているのを見つけ。
驚いて尻尾をボンとふくらませながら、慌てて弓弦や刀弥を呼び。朝倉亭に運び込み(連れてきて)。
弓弦のチートを使い。治療するとコウロの病名は、倒れた時の打撲と軽度の疲労、栄養失調と解り。
無理に起こすのは良くないと、コウロが目を覚ますのを待つ。
その後、目覚めたコウロにお粥をごちそうしたりしながら、あまりのコウロの痩せかたや顔色の悪さに、何か力になれればと倒れた訳などの話を聞く。
しかしコウロは迷惑をかけられないと遠慮や警戒してか、なかなか訳を話してくれず。
優しい言葉をかけたり、根気よく話しかけ。何とか力になれないかと話しかけていると、コウロが突然ポロポロと涙をこぼし。倒れた訳を話してくれる。
実はコウロは、町外れにある教会の神父になり。
今までコウロの先輩にあたる仲の良かった元貴族で、教会幹部の先輩のご好意で、細々とであるが。
教会本部からコウロのいる教会や教会が運営している孤児院への維持費が毎月送金されており。
他にも参拝してくれる町の信者からのお布施を加え。
何とか節約や自給自足の生活のなか、教会と孤児院を維持してきたのたが。
その先輩が実家からの強い要望で、実家が領地する町に新しく建てた教会の司教として行く事になり。
その後 何やら教会の上層部の方で、派閥争いのコダゴタがあったらしく。維持費の送金が遅れる事がたびたび起こるようになり。
何事かと心配してると、ついには送金が全く届かなくなってしまい。本部の教会に問い合わせしてみても、何の返答も無く。
不安な日々を過ごしていると。
ある日突然、本部の教会から1通の手紙が届き。コウロのいる教会は、うちの教会とは関係ありませんとの手紙の内容が書かれており。
意味が解らず、再三に渡り問い合わせてしも意味がなく。
そうしていると町の中心部に新しく綺麗な教会が建ったらしく。
古ぼけ、中心部から遠い町外れの教会に訪れてくれる参拝者も日に日に減っていき。
孤児院にいる子供達への食事さえままならなくなってしまい。
コウロは自分の食べる分を子供達に回したり。他にも自分の貯金を切り崩したり。
違う国の言葉が解るため、外国から仕入れた本を翻訳したりとギルドで簡単な翻訳の依頼を受けては、子供達の食費や生活費、教会や孤児院の維持費に当て、何とか日々の生活を乗り切っていた。
コウロの話を聞いた弓弦は、それならばと自分が孤児院の維持費を出す代わりに、そんな話の筋が通らない事を言う教会とは縁を切り。
自分自身が信じる神に祈る教会と孤児院を運営すればと良いと持ちかけてからの付き合いになり。
弓弦からの提案に悩みながらも孤児院の子供達を助ける為に話を受ける決断をしたコウロは、弓弦に了解の返事をしたのであった。
◆◆◆◆◆
それからの弓弦達の動きは早く。その日のうちに弓弦のチートを使い。古ぼけてあちらこちらにヒビや傷がある教会、孤児院を綺麗で使いやすい建物へと修理してしまい。
更には教会隣の空き地や教会、孤児院の立つ土地をいつの間にか弓弦名義の所有地へと買い取ってしまい。誰からも文句を言われないように名義を変え。
孤児院の子供達や近所の人達が交流を持て、教会へとも気軽に行けるようにとのびのびと遊べ。のんびりできる公園なる憩いの場を作り上げる。
他にも毎週のように孤児院にやって来ては、子供達やコウロに見た事の無いような美味しい焼き菓子や食べ物を食べさせてくれ。
孤児院の子供達の将来の助けになればと勉強を教えてくれたり。
知り合いの冒険者の人達を連れて来てくれては、子供達へと指導してくれるように頼んでくれた。
そんな、辛く厳しかった日々とはガラリと変わった毎日に
「はぁ~。あの辛く厳しかった日々が幻のように思えるほどに、今は子供達の笑顔溢れ。幸せの日々に、改めて感謝の祈りを捧げなければなりませんね。」
あの日弓弦達に出会えた事や子供達の笑顔溢れる毎日に感謝しながら、弓弦達の手伝いをしに歩き出すのであった。




