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豚の角煮と冒険者アルサ



王都の隣の隣のそこそこ賑わっているドレッグ町の町外れにある。細道の奥に、そのお店は来る客を選ぶかのごとくひっそりと建っていた。


その日 冒険者で獣人・狼族のアルサは、ここ連日のギルドからの森での指名依頼の仕事を終え。

連日の冷たく味気無い携帯食とはおさらばと、暖かい飯にありつけるとウキウキしながら、町への道を急いでいた。


しかし、依頼達成の暁には腹一杯旨い飯を食うぞ!と張り切って町に帰ってみれば。

安くて旨いボリューム満点の馴染みの食堂が、王都からやって来た。酒に酔った馬鹿な冒険者共が食堂内で大暴れの喧嘩をして、店を派手に壊したらしく。店の修理のために2~3日店が開店出来ないとの事を知り。

あまりの事に、しばらくその場に呆然と立ち尽くす。


そうして、なんとか少し立ち直ったアルサは、自慢の耳と尻尾が力なくしおれていくのを感じながら

別の店へと行くために、トボトボと(あゆ)み始める。


「あ~ぁ腹減った!!何処か別の店で食うにしてもよぉ~!

熊族のおやっさんがやってるあの店より、旨くてボリューム満点で、食材の下処理をしっかり念入りにやってる。

あの店レベルの店は、この町に他には、なかなかないからなぁ~。

チェッ、ちくしょう!せっかく依頼成功したのに、踏んだり蹴ったりだぜ!」


仕事で鍛えた筋肉質のソフトマッチョの見た目より、体格に比例しないほどのかなり食べる大食いで。

獣人特有の嗅覚で、下処理や味にはうるさいアルサは、ブツクサ文句を言いながら、寒空の下しょんぼりと歩いて行く。



◆◆◆◆◆



どこの店で食べるか等を考えながら、無意識に歩いていたアルサがハッと気が付くと。

いつもはめったに立ち寄らない町外れまで歩いて来てしまっていた。


「何処だココ……。はぁ~何かかなり町外れまでに来てしまったなぁ………。

ここら辺には食べ物屋は無いから、元来た道を引き返すか………。はぁ~何やってんだろう、今日の俺………。」


更に凹みながら、来た道を戻ろうとしたアルサの鼻に、どこからともなく、今までに嗅いだことのない。

肉が何かで煮込まれている。美味しそうな匂いが、ただよってきた。


その匂いに導かれるように、しおれて元気のなくなっていたアルサの耳と尻尾に力が戻り。

アルサの足が一人でに、この町に24年住んでいて、初めて見た細道に吸い込まれていくのであった。



カランコロ~ン♪



「いらしゃいませニャ。おや、うちの店は初めてのお客様ですかニャ?

お客様!あなたは、僕の次にスーパーラッキーニャ。

なんたって、この店に見事選ばれた名誉ある人だからニャ!

しかもうちの店は安い!旨い!ボリューム満点!ご飯と味噌汁、大盛り無料の良心的な食べ物屋・朝倉亭なのだからニャー♪」


アルサが匂いにつられて入り込んだ。細道の奥にひっそりたたずんである。

一軒の綺麗な白壁の店の扉を無意識に開けたとたん、扉近くに立っていた。5才位の身なりの良い猫族の男の子が、ニャーニャーとマシンガントークで話しかけてくる。


あまりのマシンガントークに、アルサが呆気にとられていると。いつの間にか猫族の男の子に導かれるまま、お店のカウンター席に座らされていた。


席につき。まだ少し呆然としながらも、暖炉も無いのに店全体が温かく。落ち着いた色合いの装飾に、木目調が美しい店内をキョロキョロと見渡していると。

さっきの男の子がカウンター奥の厨房らしき部屋に


弓弦(ゆづる)お客様だニャ!」


呼び掛けながら奥の部屋に消えて行く。


すると厨房奥から、小麦色のバンダナとエプロンをした10代後半にみえる。

ここら辺では珍しい黒髪黒目の小柄な少年が、丸いお盆に縦長に丸まった物と見慣れた木のとって付きコップ、木の水差しを持って現れる。


「シイ、教えてくれてありがとう。」


猫族の男の子にお礼を言い。アルサの前に、おしぼりと言う手をふく暖かい布、水が入ったとって付きの木のコップ、水差しを置いてくれ。


「いらしゃいませ、ようこそ朝倉亭へ。

お客様は、うちの店は初めてですよね。なら申し訳ないのですが、少しお時間を頂き。当店のサービス等紹介させていただいて、よろしいでしょうか?」


店の亭主から聞かれ。よく解らないままに、アルサは頷く。


「ありがとうございます。

ではまず始めに、当店こちらのお水は無料になります。

水差しの水が無くなり。お代わりのさいには、お声をかけ頂きましたら、新しい水をお持ちしますので、ご自由にお飲み下さいませ。


次に基本当店のメニューは、こちらの銀貨5枚の日替わり定食になり。

10種類の主菜メインから1つ、お客様がお好きなメニューをお選びいただきます。

そしてご飯と汁物は大盛り、お代わり自由になり。いくら食べられましても追加料金無しの無料になります。


本日の日替わり定食主菜メイン


◆肉①『豚の角煮~大根・煮玉子・菜の花草付き~』

じっくり1日半煮込んで味の染み込んだ、厚切りのとろっとろ豚バラ肉5切れ。

角煮ダレ色に染まった厚切りの半月大根3切れ、角煮のつけ汁に1日漬け込んだ半熟のゆで玉子が2つ付き。

茹でた菜の花と練り辛子が添えております。


◆肉②『ハンバーグ・トマトチーズソースかけ~ポテトフライ・いんげんのソテー・コーン付き~』

熱々鉄板の肉汁溢れる焼きたてハンバーグに。

オリーブオイルで炒めたみじん切り玉葱、水煮トマトを加え。

煮たて火を止めたところに、溶けるチーズと塩コショウで味を整えたトマトチーズソースをかけ。

揚げたてのポテトフライ、いんげんのソテー、コーンバターを添えております。


◆肉③『ジャンボチキンチーズカツ・フライソース~千切りキャベツ・トマト・レモン付き~』

一枚の下処理して叩いて広がった大きなむね肉に、二種類の溶けるチーズとクリームチーズを挟み。衣をつけ、きつね色になるまでカラリと揚げ。

こんもり盛り付けた大葉入りの千切りキャベツ、トマトのくし切り2切れ、レモン1切れ、自家製のタルタルソースを添えております。


◆魚①『金目鯛の煮付け~ごぼう・豆腐・菜の花添え~』

下処理をしっかりした。丸々した金目鯛一匹を当店自慢の煮汁で ふっくらと煮て。

お同じ煮汁で煮て味の染み込んだごぼうと豆腐。別茹でした菜の花添えております。


◆魚②『鰈の南蛮漬け~香味野菜・大根おろし・レモン添え~』

下処理をしっかりした肉厚な鰈丸々一匹に切り込みを入れ。片栗粉をまぶし、カラリと揚げ。

揚げたてのところに当店自家製の南蛮酢にジュッとつけ。すぐに味をしみ込ませ。

南蛮酢に漬け込んだ千切りセロリ・白葱・人参と大根おろし・レモンを添えております。


◆魚介類①『牡蠣フライ・ナッツソース~千切りキャベツ・トマト・パセリ・レモン付き~』

下処理をしっかりした牡蠣に粉チーズをプラスした衣をまぶし。カラリと揚げ。

こんもりと盛り付けられた大葉入りの千切りキャベツ・くし切りトマト2切れ・レモン・パセリを盛り付け。

ソースにみじん切りしたピーナッツ・玉葱・パセリを加え。隠し味にカレー粉等を加えて味付けした。特製のソースを添えております。


◆お野菜①『ひりょうず~大根おろし・レモン塩・天つゆ付き~』

自家製がんもどきになります。

水切りした木綿豆腐と長芋に下煮したごぼう・人参・芽ヒジキ・銀杏を加え。形を整え、カラリと揚げ。

大根おろし・小口切りした白葱・レモン塩・天つゆを添えております。


◆お野菜②『4種の大根』

こちらは、ベジタリアンなお客様用になっており。

◎1品目の『大根ステーキ』

下ゆでした輪切り大根を胡麻油で炒め。当店自家製の甘辛ダレでひと煮立ちさせ。削りたての鰹節をたっぷりとかけたております。


◎2品目の『年輪巻き』

厚めにかつらむきして、さっと湯道しした大根に。下処理して広げた油揚げをのせ、巻いていき。

当店自家製のだし汁で煮ております。


◎3品目の『大根と干し豆腐のパリパリサラダ風』

千切りした生の大根と、少し厚めに千切りした干し豆腐・貝割れを和えたものに、カリカリに揚げたワンタンの皮をのせ。

当店自家製の醤油ベースのドレッシングを添えております。


◎4品目『大根葉とめかぶの辛子和え』

さっと湯がいて小口切りにした大根葉と、めかぶを少量の練り辛子で和えております。


◆玉子①『ジャンボ玉子焼き・甘辛鶏そぼろと白葱入り~大根おろし付き~』

当店特性の甘辛タレで味付けした鶏そぼろと、小口切りのシャキシャキした白葱を加え。

卵7個を贅沢に使って焼いた。ボリューム満点のジャンボ玉子焼きに大根おろしを添えております。。


◆汁物①『野菜ごろごろ牛すじカレー

一口ヒレカツ2つ・ウィンナー2本・温泉卵1玉・ミニサラダ・マッシュポテト・福神漬け・らっきょう付き』

しっかり下処理した牛すじとじゃが芋・人参・玉葱の具材ゴロゴロカレーに。

一口ヒレカツと焼きウィンナー、温泉卵、青野菜のミニサダ、マッシュポテト、福神漬け、らっきょうを添えております。



それに今日のお味噌汁の味噌が、味噌が麦味噌になり。

具材が大根、油揚げ、小葱になっております。



小鉢が毎日日替わりの5種類のなかから、お客様がお好きな3品をお選び頂いております。


◆『レバーの煮物』

しっかり下処理した新鮮レバーを生姜をきかせて甘辛く煮て。ご飯にもお酒のつまみにもあう一品になっております。


◆『白菜とツナのコールスロー・柚子風味』

柚子風味と昆布茶が味のアクセントになり。粗びき胡椒がピリッときいた和風サラダになっております。


◆『小松菜と桜えびの煮浸し』

桜えびの風味と小松菜のシャキシャキとした食感が癖になる一品になっております。


◆『しめじと三つ葉のおろし酢』

蒸し焼きにしたしめじと焼いて細かくさいた鶏のささみに、さっと茹でた三つ葉を大根おろし入りのおろし酢で和えた食がすすむ一品になっております。


◆『葱塩豆腐』

白葱に塩をふって甘みをだし、胡麻油とブラックペッパーと混ぜ合わせた葱塩をのせた。お酒にピッタリな冷奴になっております。



箸休めのお漬物が

『キャベツとラディッシュの刻み漬け』になっております。



そして当店庭で採れた果実などを使った自家製デザートは、5種類のなかから1品お選び頂くようになっております。


本日の日替わりデザートが

◆『焼きオレンジ』

こんがり焼けたブラウンシュガーと仕上げにふったブランデーがきいた大人のデザートになっております。


◆『黒砂糖のカステラ』

黒砂糖の風味が味わえるしっとりとしたカステラになっております。


◆『コーヒーアーモンドクッキー』

コーヒー風味になり。卵が入らないためサクサクとした香ばしい食感のクッキーになっております。


◆『ミルクプリン・自家製苺ソース添え』

なめらかなミルクプリンに自家製の苺ソースを添えております。


◆『八朔マーマレード入りパウンドケーキ』

八朔で作った自家製のマーマレードジャムをたっぷり加えた。風味豊かなパウンドケーキになっております。


主菜メインだけの単品注文が、銀貨3枚からでき。

デザートだけの単品注文は、銀貨1枚から出来るようになっております。


レジ脇のお持ち帰り用のお菓子の詰め合わせは、1袋・銀貨1枚になっております。


アルコール類は、ビールがジョッキ一杯銀貨2枚

焼酎 冷・熱どちらもコップ1杯銀貨1枚になっております。


ではでは、長々とお時間を頂戴頂き失礼いたしました。

最後に私が、この店の亭主 弓弦(ゆづる)と申します。最初に接客いたしましたのが、当店の従業員 猫族のシイになります。

メニューがお決まりになりましたら、どちらでもよいのでお呼び下さいませ。」


見た目に似合わずハキハキして、聞き取りやすく。聞いていて心地好い話し声で喋りきった店の亭主は、厨房の方に戻って行くのであった。



◆◆◆◆◆



そして不思議なことに、話を聞いてる間。初めて聞く料理や食材の名前ばかりだったのに。

アルサは、その料理たちを理解でき、思い浮かべられたのだった。


実はそれ!朝倉亭・亭主 弓弦が店全体にかけた魔法になり。

初めてお店に来店されたお客様に、先程のように最初に事細(ことこま)やかに料理の説明をすると、次回からそのお客様は勿論の事。

一緒に来店されたお連れのお客様達にも、説明無しに異世界の料理や食材を理解する事が出来るようになり。

店の中だけで、お箸が自由自在に使えるようになるのだ。



◆◆◆◆◆



そんなこんなで亭主が立ち去り。

初めて入った店なので、値段等を気にしていたアルサは、馴染みの食堂よりも安い事にホッとして、今まで意識しなかった水を一口飲み、また驚く。


なんと氷が入ってキンキンに冷えているのだ。

普通 生ぬるい水一杯で、銅貨1枚とられ。氷入りなど、下手したら銀貨1枚とる店も存在するのだ。

そこを先程の説明では、お代わり自由の無料など

従業員で猫族のシイが言うように、本当に良心的な、すごい店だなと考えつつ。

今だドキドキしている心を落ち着かせながら、何を食べるか悩み始める。


「う~ん………う~ん……メニューを見てると、あれもこれも旨そうなんだよなぁー。……う~ん……どれを食うべきか、本当に悩むなぁー。」


店に入った直後は、店へと誘われた匂いの料理を食べようと思っていたアルサも。

他の美味しそうな料理たちを聞いて、お腹が空いてるのも忘れ。しばらく悩みに悩み。

断腸の思いで、最初に決めていた角煮定食と諦めきれなかった玉子焼きを単品で頼み。

何やら角煮に合いそうな熱燗もコップ一杯頼む。もちろんご飯と味噌汁は、大盛りで!




そうして、定食が来る間。程よい熱さの熱燗と選んだ小鉢3種類を運んできてくれた。

猫族のシイと楽しく話ながら、小鉢をつまんでいると、待ちに待った白い湯気の上がる大盛り定食が運ばれて来る。


「うわー、旨そう!」


満面の笑みになったアルサは、ちゃっかりアルサの横に座り。

弓弦から自家製苺ソースのかかったミルクプリンを貰い。笑顔全快のシイと顔を見合わせ。

湯気が立ち込め。力を入れなくてもホロホロと箸できれる。柔らかく食べごたえある分厚い角煮や、よく味がしみ込んだ大根。一口食べると半熟の黄身が溢れる玉子。

しゃきしゃきとした食感が残る菜の花などを熱々の白米とかき込み始める。



◆◆◆◆◆



カランコロ~ン♪


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」


「アルサ、明日も食べに来るニャ!」


帰る時にはかなり仲良くなった。猫族のシイと亭主の弓弦に見送られながら、お代わりを繰り返し、腹一杯ご飯を食べ。

腹のそこから暖まった機嫌なアルサは、まだまだ寒い2月の冬空の夕方の道をかろやかな足取りで、古巣の宿への道を歩いく。


「あーぁ旨かった!!

いちじはどうなるかと思っていたが、旨い飯をお腹一杯食えたし。

はじめて熱燗という温かな酒を飲んでみたが、いつも飲むエールと全然違って旨かったぜ!今度はビールという酒も飲んでみたいなぁ~。

それにしても、いつもはエール一杯と飯を腹一杯食うと銀貨20から25枚かかるのに。

あの朝倉亭だと、たった銀貨10枚で腹一杯になれ。本当に得だし、大満足出来たぜ!

……だがしかし、宿からは大分遠くて少し不便だなぁ………いや、待てよ。

確かあの辺りに、5年間 買手がつかずに格安で売り出し中の中古の一軒家があったよな。

それに町外れだから手入れが大変だと誰かが話していたような?……よし!明日早速ギルドで詳しい情報を聞いてみるか!」


ブツブツこれからのことを考えながら、アルサの1日は過ぎていくのであった。




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