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第八話  ギーエン侵攻

 季節は春から夏を経て、暑さが増した夏も深まる頃。ロキの一件をからくも乗り切ったエリオットとリュ−ンは少し微妙な立場に立たされていた。あの一件以来、エリオットは狩りに行っていない。城中どころか城下町でもなぜ突然エリオットが狩りに行かなくなったのか不思議に思い、皆色々と噂していた。

「ゴズウッドから来たあの態度のでかい王子のせいではないかな?」「うむ。あのロキとかいう王子が帰ってからエリオットさまは狩りへ行かなくなった。何かあったのだろう」「ああ、噂で聞いたんだが、どうもエリオットさまはゴズウッドの王子と剣術の仕合をして負けたらしい。それが関係しているのかもな」「しかし、エリオットさまは剣術は元々得意じゃぁない。弓は天下一品だけどな」「いやいや、どうもそれが違うらしい。エリオットさまが狩りで得物を仕留めていたというのはウソで、実際は守護兵のリューンがやっていたっていう話がある」「なんだと!それは本当か!」「ああ、それでエリオットさまはあのロキ王子との狩りの勝負をやらなかったって話だ」

 などと、色々と噂話があちこちでされるようになっていた。

 この噂は当然エリオットとリューンの耳にも届いていた。

 エリオットの部屋でリューンは申し訳無さそうな顔をしていた。自分のせいでエリオットが余り喜べない噂となって人々から話のネタにされている。

「恐らくあのロキ王子が腹いせに城の者達に流したのでしょう。エリオットさま。本当に申し訳ありませんでした」

 この件でこの守護兵は何度自分に頭を下げた事だろう。

 エリオットは怒りもせず、

「もう良い。過ぎたことだ。人の噂も七十五日。それまで知らん振りしてればいい」

 リューンは最近のエリオットの変貌振りに驚いていた。ロキとの一件以来、大人びた対応でリューンに接するのである。それは、エリオットがリューンに対して如何なる事が起ろうとも、決して揺れ動かない信頼を寄せているからなのであった。この男は例え自分のことを犠牲にしてでも、きっとオレにとって為になるように行動するだろう。エリオットは最近常日頃からそう考えるようになっていた。

 そんな折、ここアースガルド大陸の北一帯を勢力下に置く北の大国ギーエンから、このホーリーウォールの城に早馬の使者がやってきた。ギーエンは最近隣接する諸諸侯を攻め込んで次々とその勢力に納めて来ていた。ギーエンの国王であるモーフィス・ソグドは一代で今の広大な領土を勝ち得た英知溢れる好傑で、稀代の英雄である。

 しかし、そのモーフィスと若き頃から渡り合ってきていたジーヴェルの国王ジークムントはそのモーフィスを毛嫌いしていた。モーフィスは確かに稀に見る有能な王だが、その実は狡猾で残忍。若い時にそのモーフィスの苛烈な性格を見、その野心を知ったジークムントは、今現在このモーフィスこそがこのアースガルドの悪臣であると確信している。

 そのモーフィスからの使者の携えた書状は次のような内容であった。

 親愛なる友人ジークムント・ハイルどの。この暑き日々をどうお過ごしか。体調など崩してないよう祈るばかりである。さて、貴殿はこの程ゴズウッドと同盟を結んだと耳にしたが、それは何ゆえのことであろう。いや、貴殿はアダル王と手を結び我輩の国に攻め込み我輩を捕らえ天下に逆賊と言わしめて我輩の首を切り落としこのアースガルド全土に晒すつもりであろう。このような策略を見過ごすことは出来ぬ。故にゴズウッドとの同盟を早々に破棄して我輩の国ギーエンと同盟を結ぼう。もしこの申し出を断るのならばこちらの敵と見なして貴国へと攻め込むのもやむなしと思っている。では良い返事を待っている。どうか懸命な判断をすることを望む。君の古き友人 モーフィスより

 と、いう内容であった。

 ジークムントは自身の側で仕える従者が読んだその書状の内容を聞いて一笑に伏した。

 使者には「貴国との同盟要請には応えられない」と告げ、さっさと追い帰した。

 これを受けて2週間後、ギーエン側から大軍が出陣し、ジーヴェル領へと進軍して来るとの情報が忍びの者から伝えられた。その兵士数10万。目指す方向はジーヴェルの王都ホーリーウォールだが、この城に着くまでは敵軍は一歩手前のジーヴェルの対ギーエン最前線基地であるタートルウォークの城を突破しなければならない。このタートルウォーク城の兵力は8万。ジークムントは迫るギーエン軍より兵士数が少ないことを心配して万全をきす為に、ホーリーウォールの総兵力である18万の内7万人をタートルウォークに援軍として向かわせた。

 このタートルウォーク城は広い湿原のきわに建てられており、この城の周囲はぬかるんだ湿地である。この為人馬の移動に支障が出て非常にゆっくりとしか先に進めない。この事からこの城とこの地にタートルウォーク、つまり亀の歩みという名が付いた。

 タートルウォーク城城主であるマクシム・ゲクランは昔からジークムントに使える生え抜きの将で、数々の戦場を戦い抜いてきた歴戦の武人である。歳は51歳。鍛え抜かれた肉体はいまだ健在で、今でも自分が先頭をきって敵軍に突撃しかねない豪胆なお人である。

 それに対して向って来るギーエン軍10万の総大将はウォーレス・アルフォード。このウォーレスはギーエンの重鎮で、モーフィスの腹心である。歳は48歳。自らが剣を取って戦う事は余り得意ではないが、常に冷静に状況を把握して作戦を立て迅速に軍を動かす事に長けている。

 年齢こそ近いがこの対照的な両雄がここタートルウォークの湿地帯でついに激突した。

 真夏の太陽の焦がすような陽射しがいくさで高ぶる兵達の心をさらに熱くした。





ついにいくさが始まりました。今回の紹介はジーヴェルの国王ジークムントです。ジークムント・ハイル。48歳。男。ジーヴェル国の建国者であり、現在の国王。国民の9割が自分が作った宗教の信者であるため、国民には非常に優しく寛容である。いつも温厚で大人物の風体で、実際部下からも慕われている。部下の助言を良く聞き、皆と良く話し合ってから行動を起す。ギーエンの国王であるモーフィスの野心に敵愾心を抱いており、彼を倒す事こそがこのアースガルドの平和に繋がると考えている。

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