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第七話  知恵比べ

 エリオットとリューンは困り果てていた。

 ロキの父親でゴズウッドの王アダルは既にこのホーリーウォールの城を出て、遥か南にある自国へと向かった。しかし、やはりあの傍若無人な王子ロキはいまだここに残っている。

 エリオットとリューンは思った。奴の目的は明らかに自分達の失墜であろう。

 奴はもう気づいている。今までのエリオットの狩りでの成果が、リューンによって捏造されていたことを。そして恐らく奴は一緒に狩りに行って、そのことを白日の下に曝け出し、エリオットを笑い者にする気であろう。そしてエリオットと一蓮托生のリューンでさえも、そのウソの片棒を担いだとして国中の民から糾弾させるつもりなのであろう。

 あの男には同盟を結んだばかりの相手国の王子に対しての親しみや遠慮というものは無いのか?そんなエリオットの苛立ちにリューンが答えた。

「あのような人物は他のなによりも自分のプライドを優先する類の輩です。ここはいっそのこと、あの男の願いを叶えて供に狩りに行き、彼に勝たせて気分を良くしてあげたらどうでしょう。さすればあの男もすぐにでも意気揚揚とゴズウッドへと帰って行くでしょう」

エリオットはポンと手を叩いて、目を剥き出して、

「それは名案だ。つまり奴はオレ達の不正を見るまでもなく、ただ狩りでの勝利だけを土産にして国へと帰って行くということだな」

「はい。ですから、失礼ですが、エリオットさまは普通に狩りをしていればおのずとロキ王子が得物を射止めることで勝負はつきます。エリオットさまは普通に振舞って、何の策略も無く、ただロキ王子に負ければいいのです。それによって、我々にとってのこの一連の厄介な出来事は穏便に片付きます」

「確かにそうだ…。ただ今の言い分は少しカチンと来たがな」

「あっ。失礼しました」

 と、リューンは頭をちょこんと下げた。

 エリオットは嬉しそうに笑って、

「良い。本当のことだからな」

「恐れ入ります」と、リューンは恐縮した。

 しかし、そうは言ったもののリューンは内心この計画ではまだまだ穴のある策であると思った。

 自分達が守るべきものは、何よりもエリオットの狩りが自分の手によるものである事を誰にも知られてはならないという事である。その他の事はこの際大目に見る。その一点だけは他の何を犠牲にしても隠し通せねばならない。では、その為に今自分達に出来る事はエリオットが形だけでもいいから弓をそれらしく扱えるように訓練する事である。弓術の基礎的な形さえ出来れば得物を射止めるまでの技量などいらない。ただ単にロキの目を何とかぎりぎりに騙せればいいのだ。しかし、実はそれが難しい。ロキ程の腕前ならそんな付け焼刃の弓術など簡単に見破られるであろう。そこでリューンは全く違う案を思いついた。それは――。

 次の日の昼――ロキがエリオットの部屋に風邪の直り具合を見にやって来た。

 エリオット達は「来たか」と思い、なるべく友好的な姿勢で対応する。

「これはロキどの。今日はオレに何用かな?」

「風邪は治ったようだな。それでは狩りに行こうではないか?」

「ああ、その事か…」と、エリオットの表情は優れない。

 ロキは内心(おやおや?)と思ったが平静を努め、

「どうされた。狩りに行くのが嫌なのですかな?」

 と、エリオットの心中を計ってニヤつく。

(どんな口実があろうとも必ず引っ張り出す。逃がしはしない)

 ロキは頭が回る上、一度決めたことは何があってもやり抜く、意思の強さを兼ね備えたもののふなのであった。

「誠に持って申し訳ないのだが、オレは暫くは狩りには行けぬ」

 ロキはへっと吐き捨て、

「なぜ行けない?何か狩りに行きたくない理由でもあるのか?」

 エリオットはいかにも落胆したという様子で、

「実は、今朝険しい山の中を馬で走り、狩りをしている夢を見たのだが、いざ弓を引いて得物を射らんとしたその時に馬から落ちて、そのまま崖から転落する夢を見た。気になって城の占い師に占ってもらうと、それは正夢であるからして少なくとも1年は狩りに行くのを控えるように言われたのだ。そういう訳で残念だが貴殿との狩りは出来なくなった。申し訳ない」

「夢だとぉ!そんなものを信じるのか?」

 ロキの狼狽した様子を見てリューンが答えた。

「占い師の予言は良く当たり、この城の者達は皆信じています。かくいう私も信者の一人です。もし宜しかったらロキさまも占ってみますか?ご案内しますよ」

「いや、オレは…いい、が」

 エリットは間髪入れずに、

「オレも占い師を信じているのでね。悪いが、まだ死にたくないので狩りは遠慮させてもらう」

 「なんだ、と!?」

(夢、と来たか。まさかこんな手を使ってくるとは。正夢などと間違いなくウソだろう。こいつらの口ぶりからして占い師とやらもグルだな。やられた。こんな抜け道があるとはな)

 ロキはみるみる内に表情が硬くなった。そしてあからさまに不機嫌になり、

「分った。狩りはもうナシだ。オレも国に帰る。ただ、これで勝ったと思うなよ。1年後この城にまたやって来る。その時にまでその守護兵に弓を鍛えて貰うのだな」

 と吐き捨てるように言うと、荒々しく扉を開いて廊下へと消えて行った。

 エリオットとリューンは視線を合わせて、「あはは。うまくいった」と笑った。

 その次の日に2日前に城を出た父アダル王を追うようにロキは従者を連れてゴズウッド領へと向けて出立した。その顔は口惜しさで顔の筋肉が歪んでいるかのようにも見えた。

 ゴズウッドに帰り着いたロキは父親であるアダル王から、

「お前。こんな早く帰ってきて。まだあの城にいたいと言って無理やり残ったのはお前だろう」

 と、これには如何な勇猛で知られるロキ王子も何も弁明出来なかったという。


 


いつもこの物語を読んで頂いて有難う御座います。だんだん一話ごとのページ数が少なくなっています。でもこれくらいの長さの方がストレスが少なくていいですよね。では、また。宜しかったら次話も読んで下さい。

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