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[01-01] 成長

第一章開始です。これより本編となります。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★

・名前:レーティア

・種族:鉑輝竜(プラチナドラゴン):幼生:0齢

・生命力:36/36

・魔法力:67/67

・攻撃力:9

・防御力:8

・素早さ:6

・精神力:15

・スキル:光魔法レベル1、生活知識レベル1、狸寝入りレベル3

・天恵:異世界知識・記憶

★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 草木も眠る丑三つ時。


「……しーこ」


 この時間に確実にトイレに起きるジークを見越して、寝る前に密かにその足元に転がしておいた尻尾の先端が思いっきり踏まれて、その痛みで僕は目を覚ました。


「あらあら、ちっちゃいほうですねジーク様。皆を起こさないように静かに行きましょうね」


 魔術の『着火』で熾した火を蝋燭に灯して、近くに待機していた竜人族の巫女さんが、寝ぼけ(まなこ)のジークの手を取って(かわや)へと誘う。


 ――よしっ、成功だ。


 尻尾の痛みに涙を堪えて耐えながら、ふたりの気配が遠ざかるまで待ていた僕は、即座に起き上がって前もって用意していたダミーの毛布の塊りを引っ張り出してきて、それらしい形に整えてその上に掛け布団を被せた。

 これでぱっと見には僕が丸まって寝てるように見える。

 運が良ければ明日の日の出まで僕がいないことはバレないだろう。


 で、この間に少しでもこの場所から離れなければならない。

 でなければ大変なことになってしまう。僕の身にかつてない危険が迫っているんだ!


 タイムリミットを前に気合を入れ直した僕は、窓から差し込む月の光の下、表裏斜め反対ともの凄い寝相で寝ている他の仔竜たちを起こさないように、抜き足差し足で子供部屋を後にした。

 薄暗い廊下にそっと顔を出して人気がないのを確認した僕は、ジークと巫女さんのふたりが帰ってこないうちにと厠の反対側へ小走りに駆け抜ける。


 全力疾走で誰にも見つからずに無事に角を曲がったところで、僕は廊下の壁に身をもたせてほっと安堵の溜息をついた。


 ――よし、第二関門突破っ。


 この調子で次は目星をつけていた壁の穴から、城の外に出れば脱出ミッションは成功したも同然だ。


 あとは近くの森の中でも物置小屋でもいいから、とにかく身を隠せる場所を見つけなければ、このままでは明日の日の目を見ることも危ういだろう。


 いや、監督役の地巌竜(アースドラゴン)のおっちゃんや、聖地を守る守護竜(ガーディアンドラゴン)相手に、さすがに何日も逃亡生活ができるとは思っちゃいない――けど、せめて明日一日。一日だけは誰もいないところへ逃亡しないといけない。

 少なくとも他の仔竜のいないところへ行かなければ、僕が生贄(いけにえ)になるのは日を見るよりも明らかなんだ。


 僕は昼間、宣告された死刑判決に等しい成竜(おとな)たちの言葉を思い出して、その場で地団太踏んで不満をぶちまけた。


 冗談じゃない! なんで僕がほかの連中のために犠牲にならなきゃならないんだよ! 

 派手で目立つ鉑輝竜(プラチナドラゴン)に生まれたから!? んなもん僕のせいじゃない!!


 改めて生まれの不幸を呪いながら、僕は目当ての脱出坑を目指して足を進める。


 ぴたぴたぴたぴた。


 誰もいない廊下に僕の裸足の足音だけが響いていた。


 ま、ドラゴンだからね。靴は履かないんだよ。ついでに言うと幼生のうちはパンツ穿かない健康法で、すっぽんぽんが基本らしい。

 ……いやいいけどさ。見た目、短い産毛みたいな毛の生えた爬虫類だし、羞恥心なんて湧きようもないからね。


 ぴたぴたぴたぴた。…ぴた。


 それにしても、誰もいない夜の廊下って薄気味悪いったらありゃしない。

 そりゃ僕はお化けよりも稀少で珍しい種族だけど、生理的に心細いのは心細い。


 ――いやいや。弱気は禁物だ。死んだお化けよりも生きている人間やドラゴンのほうがよっぽど怖いよ。


 ぶんぶんと頭を振って弱気を振り払う。


 そもそも僕らは幼生から幼竜を経て、さらに脱皮して子竜になると、強制的に聖域から放逐され、野生の世界で生きていかないといけないって(おきて)があるんだ。なら、この家出もその独り立ちの予行練習だと思えばなんてことないさ。


 それになんでも、乳母兼教育係の巫女さんや魔法を指導してくれる導師竜(メンタードラゴン)の話によれば、ほんの少し前まではドラゴンって適当な山の上とかに卵を生みっ放しでいたらしい。

 ワイルドと言うか無責任と言うか、つくづく行き当たりばったりな種族だよね、ドラゴンって。


 でもまあ普通のドラゴンなら生まれたてでもそこそこ戦闘力もあるし、野生の動物や魔獣はドラゴンの匂いを嫌うので、生まれた直後のサバイバル生活でもわりとなんとかなったらしい。昔の仔竜は。

 逆に、どうにもならないような弱いのは淘汰されて当然という風潮がまかり通っていたとか。


 ちなみに生まれたてだった当時の僕のステータス。『攻撃力:5』だけど、これってだいたい人間の農家のおっちゃんがマスケット銃(銃が発明されてるんだねえ)を持った程度の攻撃力だとか。

 昔だったらゴミ扱いされそうだね。

 でも、まあ武装した成人男性並みの腕力だと思えばなかなかたいしたものかも知れない。


 ところが最近――と言ってもドラゴンの最近なので百年単位だけど――になって、知恵と武装を身に着けた人間が、あの手この手でドラゴンを狩るようになったらしい。

 最初のころは「人間ごときに倒されるなど嘆かわしい」と、安全地帯から高みの見物をしていた成竜(おとな)たちだったんだけど、人間だってバカじゃない……いや、バカだけど狡猾なのが人間なのはどこの世界でも変わらない。


 向かっていくる人間相手に舐めプレイしていたところ、気が付いたら幼竜や若竜がごっそり全滅していたとか。もともと横の繋がりがなかったドラゴン同士、危機感も覚えなかったらしい。気が付いたら取り返しの付かないことになっていた。


 これがだいたい500年前。


 さらに人間の魔術師や錬金術師、ドワーフの鍛冶師とかが研究して、狩られたドラゴンの角とか牙とか骨とかを素材に強力な武器や防具を作りだした。

 で、人体実験したんだか、神族が手を貸したんだか、悪魔に魂を売ったのか、あるいはどっかで強制レベル上げ(パワーレベリング)したんだか、異世界から召喚したんだかわからないけれど、人間の中から『勇者』とか『竜殺し』とか言われる突然変異がポコポコ現れたかと思うと、強力な武器・防具とも相まって、あれよあれよと言う間に成竜や老竜すら脅かされる事態になった。


 怖っ。人間怖っ! ある意味人間こそ正真正銘のバケモノだね。


 で、さすがにドラゴンたちも本気になって一致団結。今日から本気出す! で、当時の勇者や竜殺したちをどうにか全滅させたらしい。

 ここで人間だったら後顧の憂いを断つために、相手の種族全部を滅ぼそうと思うんだけど、個人の罪科を全体に持ち越そうなどと思わないのがドラゴンの器量の大きいところ。


 逆らう連中がいなくなればいいや。それよりも糞ジジイ以外の金煌竜(ゴールドドラゴン)も滅亡したし、ただでさえ数が少なくなったドラゴンの数を増やすのが急務だ! ――ってことで、昔ながらの放置プレイはじゃ危ないから、ある程度自立できるまで卵と仔竜を保護して育てようって方針が打ち立てられた。これが『聖地』と『竜宮城』の成り立ちってわけ。


 そして、この500年の間に五回、卵の孵化と二十九匹の巣立ちがあったらしい。


 卵の孵化がほぼ100年に一度しかないのは、もともとドラゴンの卵って天と地の魔力を集めて、数十年単位で孵化するからで、それをドラゴンたちはある程度数が集まったところでまとめて子育てするために、魔法で孵化のタイミングを調整しているからだ。

 どうりで同じ親から生まれたわけでもないのに、孵化のタイミングが揃っていたわけだよ。


 で、生まれた後も食事や魔力操作で、ある程度成長を横並びにさせていて、ちょうど明日、僕らは第一回目の成長を迎える……らしい。


 なーんか最近頭が痒いと思ったら、明日、頭から角(と言っても乳歯みたいなものらしいけど)が生えるようになるんだって。


 そうなると年齢も現在の0齢から1齢になる。


 この非力な身体から成長できるは素直に嬉しいんだけれど、ついでのように付け加えられた話の内容が、僕に差し迫った危機感を抱かせ、いまこうして夜中に脱出しなければいけない原因になったのだ。


 ぴたぴたぴたぴた。…ぴたぴた。


 とにかく急がなければならない。夜明け前まで、できるだけ遠くへ!


 ぴたぴたぴたぴた。…ぴたぴたぴた。


 気が焦っているのか、暗闇が不安感を煽るのか、反響する足音が二重に聞こえる。


 ぴたぴたぴたぴた。…ぴたぴたぴたぴた。


 うん。気のせいだ、気のせい。この世界に妖怪ぺ○ぺ○さんはいないはず。いたとしても最強生物ドラゴンのほうが強いはず。

 大丈夫。いたとしても妖怪びびってる、ヘイヘイヘイ!


 自分を鼓舞するために、その場で一度立ち止まって深呼吸をした。


 ぴたぴた――ぴた。…ぴたぴたぴた……ぴた。


 合わせて付いてきた足音が、ワンテンポ遅れて止まった。――って、絶対誰か付いてきてるよね!?


 ぞくり、と背筋に悪寒が走る。そしてそのまま僕は、背後を振り返らないで脱兎のごとくその場からダッシュした。


 いや、びびってるわけじゃない。びびってるわけじゃないよ。これは戦略的撤退というか、戦わないで勝つのが最善だとかなんだとか、どっかの兵法家の言葉を実践しているだけで――。


 ぴた、ぴた、ぴた、ぴたっ! ――ぴた、ぴた、ぴた、ぴた~っっ!!


 ぎゃあああああっ、付いてくる! ぺ○ぺ○さんが付いてくる!


 大きく開けた僕の口から叫び声の代わりに『光のブレス』が放射された。

 糞ジジイのブレスは、その気になればひと薙ぎで大地をスパッと切り裂くレーザーのような威力があるけど、僕の場合、明るい光で暗闇でも角燈(ランタン)いらず。本も読めます。というしょぼい光しか放てない。


 この暗闇では目立つから使いたくなかったんだけど、幸か不幸か頭ごと振り回したブレスの光が、まるでサーチライトのように廊下を照らして、目当ての壁の穴――この間の糞ジジイが起こした地震で崩れた、僕がどうにか通れる位の穴の位置を白日の元にさらした。


 ――ここだっ!


 周囲の状況なんてお構いなしに、その穴にスライディングで飛び込もうとした瞬間、

「ふぎゃあああああああああああああっ!」

 背後からのタックルで、僕はもんどりうってひっくり返ったのだった。

予想外に長くなってしまいました。

途中で切れば二日分の更新ができるな、と悩んだのですが区切りのよいところまでUPします。


あと魔法と魔術は違っていて、魔法を使えるのは真竜族と神族、一部の魔族に精霊族といったところです。人間には魔法は使えません。そのかわり裏技として魔術を編み出しました。

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