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[00-04] スキル

 今日も竜人族の巫女さんたちが、僕らの状態を『鑑定』して、かいがいしく世話を焼いてくれている。仔竜でも穿ける特製のおしめをつけてくれて、下のお世話も手馴れたものだ。


 ――ありがとう。いつもすまないねー。


 頭では漏らさないようにコントロールしているつもりなんだけど、この体がその意思に反して生理現象を起こしてしまう。赤ちゃんの理不尽さに黄昏ながら、嫌な顔もしないで綺麗にしてくれる巫女さんに一言お礼を言う。


「あーが、あーがー」


 う~~む。まだ声帯が未発達なせいか舌足らずな喋り方にしかならないな。


「あらあら、レア様お腹がすいたんでちゃうかー? 六角牛(ヘキサカウ)のお乳と、血の滴る内臓とどちらがいいでしゅかー?」


 なにか勘違いした巫女さんが、傍らに置いてあった木製のワゴンから、陶器製の哺乳瓶と鮮血に塗れた動物の内臓(モツ)が山盛りに盛られた皿を、左右片手に持って尋ねてきた。


 ビシッ、と即座に哺乳瓶のほうを指差す僕。

 さすがに生の内臓とかは無理無理かたつむり! いや、ドラゴンなんだからこーいうのも慣れないとだめなんだろうし、実際、ジークとかほかの仔たちは大半が生肉をもぐもぐ齧って満足しているけど、僕の場合は先天スキルである“天恵”の『異世界知識・記憶』が、寄生虫の怖さとか食中毒の危険性を激しく訴えかけてくるので無理っ!


 と言うことで、普通にミルクを飲んでいる僕なのでした。


 一度飲み始めると本能のままに一心不乱にかぽかぽミルクを飲み干す。そんな僕を竜人族の巫女さんが微笑ましげに眺めていた。

 う~~む、じっと見ていられると飲み辛いな……。


 ところで竜人族ってのはもともとドラゴンを神と崇める種族だったそうで、見た目は直立したトカゲと人間を足して2で割って、尻尾と角とたてがみを付けた感じ。

 男性で身長が2メートルちょい。女性でも1.7メートルを越える立派な体格に、鱗の生えた顔は結構迫力があって怖いけど、僕らのお世話をしてくれる巫女さんたちは各部族から選ばれた選りすぐりということで、細やかな気配りや魔法の腕前もかなりのもの――とは、彼女たちを統括している地巌竜(アースドラゴン)のおっちゃんの台詞。


 魔法とかよくわからないけれど、確かに普段彼女たちが使っている『鑑定』は便利そうだ。僕にも使えないだろうか?


 どうも巫女さんたちの雑談内容からして、スキルにはどんなに努力しても覚えられない代わりに生まれ持って会得している先天スキル“天恵”と、努力や血統的に後から覚えられる後天スキルがあるらしい。一般的に『スキル』って言ってるのは、この後天スキルのことで、巫女さんたちが使う『鑑定』もこっちのほうらしいので、僕でも多分覚えることはできるだろう。


 実際、寝たふりをしていたらいつの間にか『狸寝入りレベル1』という、誰得のスキルも覚えられたわけだし、覚えようと頑張れば案外簡単に覚えられるのかも知れない。


 なので頑張ってみることにした。

 と言ってもやり方とかわからないので、何も考えないのほほーんと平和そうな顔で臓物齧っているジークとその他、赤いのとか黒いのとかを注視する。


 じーっ………。


 う~~ん、ただじっと観察しているだけじゃなくてもっとこう、神経というか第六感を研ぎ澄ませなければ駄目かも。


 じーっ………。


 ……それにしても、よく平気で食べられるなァ。血とか変な汁でベトベトじゃん。


 じーっ………。


 別にそんな大慌てで食べなくても誰も取ったりしないのに。


 じーっ………。


 急ぐといえば、なんで近藤勇は最後、甲府に急いで入らなかったんだろう。お陰で色々と台無しじゃない。


「ぬにゃ? れー、れー?」


 ふと、気が付くとただ眼前の光景をぼーっと見ているだけで、全然別の事を考えている自分がいました。

 そんな僕の様子を不審に思ったのか、ジークが擦り寄ってきます。臓物片手に。


「くーくー」


 そして『喰え』とばかりに僕の顔面に肝臓らしい、食べかけの肉の塊りを押し付けます。


「にょあああっ!?」


 気持ちはありがたいけど遠慮する! と押しのけようとするんだけれど、『いいから喰え』とぐいぐい押し付けてくるジーク。腕力ではかなわないので逃げようとしたけれど、よく考えたら素早さではジークにトリプルスコアで負けているわけなんだよね。

 案の定、あっという間に回り込まれて、赤ちゃんサークルみたいに仕切られた囲いの壁際に追い詰められてしまった。


 それを見て、一緒に食べていた残り全員が新しい遊びだと思ったのか、同じように手に手に肉の塊りを持って、僕の周りへと押しかけてきた。


「くー! くー!」

「うまうまっ!」

「あーあー!」


「ぎょええええええええええっ!!」


 有無を言わさず飯テロを敢行する仔竜たち。

 もみくちゃにされながら、断末魔の悲鳴を上げる僕を眺めて、

「あらあら、レア様モテモテね。――これはもう分化の時にはお嫁さんになるの決定かしら?」

 乳母役の竜人族の巫女さんたちが微笑ましげに笑いながら、あまりよく聞こえなかったけれど、なぜかそこはかとなく将来の不安を掻き立てるような不穏な発言をしたような、そんな気がしたのでした。


 あと、途中から死んだフリしていたせいか、スキル『狸寝入り』がレベル2に上がりました。嬉しくもなんともねーっ!

あと1~2話でプロローグ終了です。

といっても本編1章は、ほとんど舞台も仔竜たちの見た目も変わらないんですけど。

そこそこ喋れるようになった1月後くらいから始まります。

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