[00-01] ラップ・スカート
エピローグです。
長かった夜が明けて、太陽が東の空から顔を見せ始めた頃――。
「うわ~~ん! レア、無事でよかったよ~~っ!!」
感極まったらしいジークが、半泣きで僕に抱き着いてきた。
ヘロヘロになって身動き取れない僕としては、正面から飛んできたコレを避けることもできない。
滅茶苦茶嫌だったけど、荒々しいジークの抱擁を受け入れるしかなかった。
(あー、鬱陶しい)
とも思うけど、このウザさも変わらない日常の一コマかと思えば、無事に生還できた実感がふつふつと湧き出してきて、ようやく肩の荷が下りた気持ちになれた。
「いやー、よかったよかった。まずはめでたしめでたしね」
ソフィアがふわふわ翔びながら、いつもの偉そうな態度で、いちおうは僕の無事を祝ってくれている。
「ゴフゴフ、ゴフンゴフン(うむ。諸君、恐るべき超豚の脅威は去ったぞ)」
赤鬣の豚鬼王も腕組みをして、しみじみと同意していた――って、ちょっと待て!
「なんで豚鬼王がしたり顔で仲間の輪に加わってんだよ!? あと、ジーク! どさくさ紛れに胸を揉むな! 吸うな!! 無理やり股間を押し付けるな~~っ!!」
「「「いーじゃん、細かいことは気にスンナ(ブウブウブブブ)」」」
「細かくねえーーーっっっ!!」
僕の絶叫が夜明けの空に木霊する。
▽ ▲ ▽ ▲
鏡の中で、ガラス細工のような繊細で儚げな美少女が大きく目を見開いていた。
年齢は11、12歳くらいで身長は140㎝くらい。
セミロングのストレートの髪は癖のない白金色で、瞳の色は金色。
細身の全身は起伏に乏しいが、逆にそれが妖精のような魅力を放っている。
着ている物は学校の制服のような凝ったデザインの白を基調としたブレザーに同色のミニのラップスカートを穿いて非常によく似合っているのだが……。
「なんじゃこれはーーっ!!!」
そんな自分の姿をまじまじと確認して、思わず僕は絶叫していた。
あの騒ぎから3日後。
さすがに気が付いた聖域の守護竜たちに保護されて、竜宮城に戻された僕とジーク。そしてなぜか付いてきたソフィアと豚鬼王だったけど、僕らはさんざん怒られて解放され、あのふたりは事情聴取ということで取り調べ中らしい。
で、その間に何回か鏡を見る機会はあったんだけど、いずれの時もショックで気を失っていたので、まじまじと自分の人化した姿を確認できたのは今回が初めてだったりする。
「なにって人化したレアの姿じゃないか? 綺麗だよ」
隣で様子を窺っていた、どこか野性的な風貌をした赤髪の美少年が、どことなくウキウキした口調で言い添える。
同じデザインの制服を着ているけど、こちらは赤を基調とした色で下はあたりまえだけどスラックスだった。
言うまでもなく、こちらも同日に幼竜へとなって人化できるようになった緋炎竜のオースだ。
「知ってるよ! だけどなんでこんなチンチクリンでやせっぽっちなんだよ!?」
あれから間をおかずに他の五匹とも角が生えて一次性徴を迎えたけど、その中でも僕が目立って小柄で貧相になってしまった。
あと、見た目は美少女だけど中性体ということで、細部は微妙に違う。胸とか一切膨らまずにまっ平らのままだったのは嬉しいけど――膨らんでたら首吊ってたよ!――、それを抜かせば裸になってもほとんど女子と変わらない。
「まあ、金煌竜の老師も比較的小柄ですからね。そういう種族特性なんじゃないですか?」
茶髪の貴公子然としたイケメン――茶嵐竜のクリフ――が、そう取り成す。
ちなみにこのふたりとジークはともに雄:雌の割合9:1で中性体になったせいか、どこからどうみても少年にしか見えない上に、身長も僕より頭一つ高い。くそっ。
「それはいいけど、なんで僕だけスカートなんだよ! なんで女装を強要されなきゃならないんーーっ!!」
「それはやっぱり、勝手に夜中に抜け出したレアが悪いんじゃないかな。それにちゃんと下にハーフパンツは穿いてるんだし問題ないんじゃないの?」
そこそこ長い緑の髪をボブ風にした、ひとりだけキュロット風の半ズボンを穿いている、美少女顔の美少年――碧海竜のファーが苦笑している。
同期の中では一番僕に近い感じで、雄:雌7:3で変化しているけど、こうして鏡の中の僕と比較して見ると微妙に違う。単に顔のパーツが整った中性的な美少年にしか見えない。
ちなみに、女性の割合が案外高いのは、「もしかしてレアが雄方向に変化した時のための保険」とのことで、案外、こいつが一番したたかかも知れない。
「そういう問題じゃない! だったら同罪のジークはなんで普通に男装なんだよ!?」
「俺の目の前でレアをナンパしてるんじゃねーよ!」
「ふん。お前のターンは終わったんだ。これからはレアは俺のものだ!」
いつものようにオースといがみ合っているジークを指さす。
いまさら言うまでもなく、ジークもきちんと男子用の制服を着ている。色は各自に合わせているので、濃紺だから案外一番違和感はない。
「「「「「「え? そんなもん見ても誰得じゃないか」」」」」」
途端、その場に集まっていた幼竜全員が、声を合わせて言い切った。
「納得いかなーーーいっ!!」
「くっくっくっ。おおかた形から入って行って、雌としての自覚を持たせようという深慮遠謀だろう」
黒髪に切れ長の目をして、なぜか伊達眼鏡をかけている冥玄竜のゲオが含み笑いを漏らす。
ちなみにゲオと紫雲竜のカイの雄:雌の割合は、どちらも8:2なんだけど、これもどう見ても美少年にしか見えない。
「……レアって、ニーソが似合いそうだね」
いつも通り泰然自若としていたカイだけど、きちんと会話には参加していたみたいで、ぼそりと誰に言うともなく呟いた。
「「「「「………」」」」」
その台詞を耳にした全員が、一瞬黙り込んで想像を巡らし、続いて食いつきそうな目つきで僕の生足へと視線を巡らす。
思わず僕は反射的に両手で足を押さえていた。
次の瞬間、
「うおおおおおっ! 勝負だ!」
「誰が一番レアに似合うニーソを手に入れるか!」
「負けない!」
宝を集めて雌に貢ぐドラゴンとしての本能が刺激されたのか、全員が咆哮を放って握り拳を突き上げた。
それからてんでバラバラに目当てのお宝を探しに走り出した連中の後姿を眺めながら、僕はがっくりとその場に崩れ落ちるのだった。
「……最悪だ」
▽ ▲ ▽ ▲
一連の騒ぎを密かに監視していた竜人族の密偵や、レアが部屋を出た時点で気が付いて魔法で監視していた守護竜たち。
「ご命令通り、監視だけにとどめ置きましたが、一歩間違えれば鉑輝竜と蒼雷竜の両名が失われていたわけですからね。何度助けに飛び出そうかと自制するのが大変でした」
実のところはこっそり火山の噴火やら何やらの際に、竜魔法で保護や治癒をしたり安全な場所へ誘導したりしていたのだが、そのことはおくびにも出さない。
「うむ。ご苦労。確かに結果的に自力で切り抜けられたとはいえ、綱渡りの状況だったな。こちらの見通しも甘かったようだ、すまん」
そのあたりの現場の判断については察しているのだろうが、あえて追求せずに潔く自分の非を認める導師竜たち。
そうなれば守護竜としても、これ以上、恨み節を吐くわけにもいかず矛を収めた。
「鉑輝竜を含めた幼竜については、以後も分け隔てなく慈しみ育てるように。――以上だ」
「「「「「はっ」」」」」
守護竜と竜人族の戦士・巫女たちが一斉に頭を下げて、各々の職場へと戻っていった。
かれらの気配が完全になくなったのを確認した導師竜のひとりが、念のために結界を敷いて、会議の間中半分居眠りをしていた金煌竜の老師へと視線をやる。
「いかがですか、老師? 鉑輝竜が見せた能力の片鱗。特に最後のサンダー・ブレスに関しては、本来あり得ぬ能力のはずです。いわばスキル外スキルといったところでしょうか。鑑定でも表示されませんし、我らとしても判断に迷うところですが?」
問われた老師は、欠伸をかみ殺しながら、ポツリと呟いた。
「あれはあの仔の本質じゃろうな……」
「と、言われると?」
「“鏡”じゃな――」
手元に合ったお茶をずずずーと飲みながら、一言言い添える老師。
基本、ドラゴンの瞳の色は金色です。
魔法で誤魔化す方法もありますが、現段階では7人とも使えません。
レアの防御力が高いのは、光術系・呪術系の攻撃が一切効かないからです。
そのかわり直接的な攻撃には弱いです。
それと、他作品の更新等のためプロローグ終了後
いったん更新を休ませていただきます。
 




