[01-30] 双雷
「とにかく、中でレアが暴れているならもう任せておいてもいいんじゃないの?」
ソフィアの投げやりな提案に、ジークと豚鬼王が同時に考え込む。
確かに物語と同じなら、中から腹ぶち割って出てくる展開の筈であるが……。
だけど考えてみるとかなりエグイわ、ほとんど恐怖の寄生生物だわね。と思うソフィアであった。
「ブフ……ブフンブフン(いや、それはどうかな)」
難しい顔で懸念を表明するのは豚鬼王である。
「なんでよ?」
「ゴフゴフ、ゴムム、ゴーフ、ブウブブブブブム(俺には『悪食』っていう天恵があって、これはその気になりゃ毒でも岩でも消化して喰えるスキルでな)」
「へーっ。便利そうね」
「ブモブモブフン。――ブフ(ま、単に喰えるだけで美味いもんでもないけどな。――それでだ)」
いまだ地面がうねる、のた回ると大暴れしている片牙を、じっと見据えながら続ける豚鬼王。
「ゴフゴフゴフゴフ、ゴーフゴフ。ブブブブ、ブウ(ちょうどあんな感じなんだ。俺が天恵を身に着けたのは。餓鬼の時にシビレデンキ鼠を丸呑みしてな)」
「……え゜!?」
その意味するところを理解して、顔色を青ざめさせるソフィア。
ジークのほうも、オーク語がわからないなりに『直感』でレアの危機を察して焦りの表情を見せた。
「どーいうこと!? レアが危ないの? 出てこられないの?!」
詰め寄られて目を泳がせるソフィア。
「だ 大丈夫よ。そのうち出てくるわよ……上から出るか下から出るかはわからないけどさ」
そうソフィアが正直に付け加えた途端、弾かれたようにジークは片牙へと向かって走り出した。
その手が青いプラズマを発して、ちりちりと空気を焼く。
「ちょ、ちょっと! 残りの魔法力で『蒼雷』を使えるのってあと1回だけなんでしょう!? それで倒せるの!?」
「ブモッモ、ゴフゴフ、ゴフン(無理だな。あの手ごたえからして、直撃させるにしても、せめてさっきの三倍の威力がなければ)」
冷静に彼我の戦力差を分析する豚鬼王。
だが、頭に血が上ったジークがそんなことまで考えられるわけもない。
「喰らえっ。『蒼雷』っ!!」
全身全霊の『蒼雷』を放つ――その瞬間、ジークの気合に呼応するかのように、片牙の腹の中から青い稲妻が線香花火のように、バチバチと音を立てて四方八方へと広がった。
「「「えっ(ブホッ)!?」」」
と、思う間もなくジークの『蒼雷』と内側から生じた『蒼雷』とが呼応し、一瞬、繋がったかと思うと凄まじい勢いで膨張し、
「ブモモモモモモモモモモモモモモーーーーーーッッッッ!?!?!?!」
爆音と閃光、衝撃波が片牙の断末魔さえも呑み込んで、弾けるように爆発した。
「「「………」」」
冬の雷のようにプラズマが地上から上空へと解き放たれ、三人とも魂を奪われたかのようにそれを呆然と見上げるだけだった。
と、じゃりと砂利を踏む足音が、もうもうと立ち込める煙の向こうから聞こえてきた。
慌てて警戒の構えをする三人。
やがて煙の向こうから、まるでコントのように黒焦げ・アフロヘアーになった片牙が、よろよろと覚束ない足取りでやってきた。
「きゃーっ、しぶといっ!」
「ブモッ!(くっ、生きてたか!)」
悲鳴を上げながらその場から退避するソフィアと、愛用の武器を構える豚鬼王。
どこか焦点の合っていない瞳をフラフラさせていたが、敵意に当てられて正気に戻ったのか、彼らのほうを一睨みして――
「ブウッ!!(むっ!!)」
そのまま白目を剥いて仰向けに倒れた。
「ブー……ブフゥ(ふーっ……脅かしやがる)」
「いや、まだよ! まだ動いているわ!」
ソフィアの警戒の言葉通り、片牙の胸の辺りがぴくぴくと動いている。
舌打ちした豚鬼王が、愛用の青龍偃月刀の切っ先を仰臥したままの片牙の心臓にむけて突き入れかけた。
が、その間に無理やり体を滑り込ませたジークが、
「レア!」
そう呼びかけながら片牙の鳩尾の辺りに蹴りをいれ、「げっ!」とカエルの反射的に開いた口の中に頭から上半身を入れると、両足を踏ん張って、ずるりとその中から真っ白い肉の塊のようなモノを引きずり出した。
「わっ、ばっちい!!」
「ブモブモ(悪食の俺でもあれは食いたくないな)」
「げほっ、げほっ……うるさい! 勝手なこと言いやがって!」
ソレ――プラチナの髪に金色の瞳をした、11~12歳くらいの全裸の美少女にしか見えない、人化したレアが、肩で息をしながら憤慨していた。
なお、当然ジークも全裸です。
 




