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[01-26] 超豚

「レアーーーッ!!」

「きゃあああああああああっ!」


 体を張って(レア)(当人目線)をかばったせいで、ちょっと着地をしくじって怪我をしていたジークと、その治癒していたソフィア。

 木々に遮られて直接視認はできなかったけれど、幸い三人ともそれほど離れた場所に落ちたわけではなかった。


 治癒に集中していたのため、レアの放った暴言や合図に答える余裕はなかったけれど、当然耳に入っていたので後で折檻しようと心に決めていたソフィアであったが、目の前で当の本竜(ほんにん)が片牙の豚鬼(オーク)に丸呑みされるという18禁の光景を目の当たりにして、我知らず頭のてっぺんから魂たぎる悲鳴をあげていた。


「ブオ!? ――ごくっ! オウ、驚イテ丸呑ミシチャイマシタ」


 味わって食べるつもりが、その拍子にレアを喉越し軽く呑み込んでしまった片牙(ジロン)が、咎める視線をジークとソフィアに向ける。


「うわああああああっ!! よくもレアをっ!」

「ゴフゴフゴゴフ!!(鉑輝竜(プラチナドラゴン)を返しやがれっ!!)」


 我を忘れて徒手空拳で真正面から立ち向かってくるジークを一刀両断しようと、余裕をもって大剣を構えていた片牙(ジロン)だが、思いがけない怒号が横合いからかかり、一瞬虚を突かれて棒立ちになった。


「蒼雷っ!!」

「ブモオオオオオッ!!(超必殺技・三十六蓮牙王ブランチ!!)」


 そこへ間髪入れず、正面からジークの雷をまとった拳が、颶風のように飛び出してきた豚鬼王(タロン)の青龍偃月刀が、片牙(ジロン)の全身へと叩き込まれた。


 モロに攻撃を喰らった片牙(ジロン)が、落雷と周囲の木々を薙ぎ払う剣圧の余波で、まるで全身にダイナマイトを巻き付け、自爆したようになる。


「ぎゃあああっ! ちょっとアンタら。腹の中のレアの安否とか考え――」


 丸呑みされたレアごと、遠慮会釈ない必殺技を喰らって爆発四散した(ように見える)片牙(ジロン)の様子に、この場で唯一の脳筋でないソフィアが悲鳴をあげる――が、叫び終わる前に、爆発の余波で再びくるくる弾き飛ばされてしまった。


「やったか!?」


 この場にレアがいれば、ジークの台詞にツッコミを入れただろう。「それフラグ」と。


 そしてそれを証明するかのように、やがて砂煙が収まってジークと豚鬼王(タロン)視界が確保されると、爆心地にあたるその場に無傷の片牙(ジロン)が微動だにせず仁王立ちしているのが見えた。


「ブモ!?(馬鹿な!?)」


 驚愕に目を剥く豚鬼王(タロン)に対して、涼しい顔で語りかける片牙(ジロン)


「ブホ、ブフブフ? ブークスクス!(こんなもんか、オークキングの全力は? ぬるい、ぬるすぎるぞ!)」


 愕然とする豚鬼王(タロン)せせら笑いながら、ふんっ! と片牙(ジロン)が全身に力を漲らせると、突如、全身から膨大な魔法力が膨れ上がり、

「うわっ!?」

「ゴフ!?(なんだ!?)」

 肉体に収まりきらない余剰魔法力がオーラのように全身を覆いつくし、バチバチと放電するような白金の輝きを放ち始めた。


「グ、グオオオオオオオオッ!!(くそ、こけおどしを!!)」


 一瞬、その迫力に呑まれた自分を恥じて鼓舞するつもりか、あるいは逆切れか、渾身の力を込めた青龍偃月刀を、渾身の力で横薙ぎに振るう。

 当たれば豚鬼卿(オークロード)どころか、知能のない亜竜程度なら一刀両断にする斬撃を前に、片牙(ジロン)はノーガードのままにやりと相好を崩した。


 ガツン! という鉄と鉄をぶつけたような音が響き渡る。


 ようやく復帰したソフィアが、ふらふらとその場に戻りながら想像したのは、豚鬼王(タロン)の青龍偃月刀と片牙(ジロン)の大剣の刃同士がぶつかって拮抗している姿だったが――。


「ブホ、ブホホ。ブークスクスス?(もう一度言う。こんなものが全力か?)」

「ブ、ボホボホb――(ば、馬鹿な。こんなこと――)」


 格下のはずの豚鬼卿(オークロード)にして弟分が、自分の青龍偃月刀の刃を指の爪一本で押さえ込んでいるのを目の当たりにして、豚鬼王(タロン)の全身に震えが走った。

 当人は意識していなかったが、それは生まれ始めて感じる恐怖による無意識の体の反応であった。


「ゴフゴフゴフゴフ(素晴らしい。全身に力が漲る。これが伝説の力か)」


 その姿勢のまま、もはや周囲の連中如き眼中にないとばかり、遠い目で独りごちる片牙(ジロン)。怒りか恐怖か、再度、豚鬼王(タロン)が突きを放ち、ジャンプ一番、ジークが踵落とし風の蹴りを浴びせる。


「ゴフーーーーッ!!(無駄だ。ムシケラが!!)」


 ジークへは左手のアッパー。豚鬼王(タロン)に対しては、ほとんど無造作な大剣の薙ぎ払いを繰り出し、どちらも一撃でごみ屑のように弾き飛ばした。


「ゴフ、ゴフフフフ。ブモッフ!(もはや俺はオークを越えた。超越者であり神である!)」


 溢れん輝きを放ちながら片牙(ジロン)は、感極まった面持ちでその場に大剣を地面に突き刺し、両手を広げて宣言をする。


「ゴフー! ゴゴゴゴ、ゴフンゴフン!!(そう、言うなればスーパー・オーク! いや、スーパー・ゴッド・アルティメット・ウルトラ・オークとでも言おう!!)」


 有頂天なその様子をこっそり物陰から見ていたソフィアが小さく呟く。


「長い上にくどくて意味不明だわ!」

最近の野菜人ではありません。


次回の更新は、ブタクサ姫の最新話更新後になります。

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