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[01-25] ジ・エンド

 積み重なった落ち葉と腐葉土が柔らかなクッションになっている地面に半分埋まった姿勢から、僕はどうにか体を抜かせて一息ついた。


「……奇跡だ。生きてる。五体も満足。見たところ大きな怪我もない」


 水蒸気爆発か火山の噴火によってかはわからないけど、爆発の衝撃でくるくると木の葉みたいに吹き飛ばされながら、ジークと一緒に外輪山を超えたところまでは覚えている。

 どうやら森に墜落する寸前に、目を回してジークとはぐれたらしい。


「おーい、ジークっ。ソフィーっ」


 何度か周囲に呼びかけて、目印代わりに『ライト・ブレス』を放ってみた。


「おーーい。エロ餓鬼ーっ! インチキ天使ーっ!!」


 しばらく待ったけど、僕の呼びかけに答える声も合図もない。 


 どうやら完全にはぐれたらしい。下手をするとふたりともお星様になって、僕ひとり生き延びたのかも知れないけれど、この場で確かめようがない。

 僕は改めて状況と今後どう行動すべきか、この場で整理してみた。


「阿呆な豚鬼(オーク)は自滅した。おまけに邪魔なジークもどっかにいった。――なんだ、パーフェクトな状況じゃないか!」


 吹き上がる火山の噴煙と溶岩の明かりに照らされ、焦げ付きそうな空を見上げながら、僕は自然に親指を立ててサムズアップしていた。

 ずっと奥歯に引っかかっていた小骨が取れたようなさわやかな気分である。


「途中ワチャクチャしたけど、終ってみれば計画通り。森の中でひとりになることができたじゃた。ばんざーい!」


 終わりよければすべてよし。人間万事塞翁が馬とはこのことか。

 その過程でなぜか森の泉とか天然温泉が丸ごと吹っ飛んで火山が噴火してるけど、別に僕がやろうと意図してやったわけじゃない。

 不幸な事故だ。予言とかで言われた『災厄』とかとも無関係さ。


 わずかに頭の隅に浮かんだ『自己欺瞞』という単語を振り払い、成長のために痛む体で無理やり万歳三唱をする。


「……さて。この騒ぎだとさすがに城から守護竜ガーディアン・ドラゴンが出張ってくるだろうから、その前にバックレないと。どこがいいかなぁ」


「ワタシノ腹ノ中ッテノハドウデスカ?」


 そんな聞き覚えのある片言のドラゴン語とともに、僕の首根っこが後ろから鷲掴みにされて、そのまま猫の子みたいに宙吊りにされた。


「にょわ!?」


 予想通り、そこにいたのは片牙の豚鬼卿(オーク・ロード)だった。

 全身ずぶ濡れで、ところどころ火傷をしているようだけど、見た感じ五体満足で大きな怪我もしていない。

 どんだけ悪運が強いんだろう、こいつ!?


「見失ッタカト思イマシタガ、大声ダシテ明カリマデ出シテクレテ助カリマシタ」


 し、しまったあ!! 墓穴を掘った。


「デハイタダキマス」


 片牙が、僕を一飲みしようと大口を開ける。


「わーーっ!! まったまったー! せめて最後に辞世の句を詠ませて! あ、ついでに冥土の土産も教えて!」


 だいたい悪党ってのは、最後の最後に油断をしてポカをするのが常道ってもんだろう。

 僕は手足をバタつかせて必死に時間稼ぎをしようと抵抗するけれど――


「ソレ、駄目フラグネ。サッサト喰ウニ限ルネ」


 にべもなく断られ、覚悟する間もなく僕は一飲みにされ、生臭くて生暖かい豚鬼(オーク)の口に飲まれる瞬間、ジークとソフィの叫び声が聞こえたような気がした。

※次回の更新は11月6日です。

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