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[01-21]  ホット・スプリング

 とにかく思いついたことを口に出そう。最初から建設的だとか、日出ずる国形式に結論ありきじゃなくて、とにかくなんでもいいので意見を持ち寄って何かこの苦境を脱する手がかりを見つけよう。

 というメリケン的な会議手法を僕が提案すると、ジークの肩に乗ったままのソフィが、イの一番に手を上げた。


「はい! アイツラの狙いはアンタ(レア)なんだから、アンタをこの場に放置して逃げるのが一番よ」

「「却下」」


 僕とジークの返答が被る。


「僕とレアが結婚するのにいらないから、この羽虫を豚さんに向かって放り投げる!」

「「却下っ!」」


 代わって手を上げたジークの、特に嫁とか結婚とか、この期に及んでブレない意見を即座に切って捨てるソフィと僕。


「つーか、ジークのブレス一発で一匹倒せるのは実証済みなんだからさ。死ぬ気でジークが食い止めればいいんじゃないかな?」

「おーっ、賛成。じゃあ後は任せるんで、私はこれで――」

「「さりげなくフェードアウトするな!」」


 ひとりだけこの場から翔んで逃げようとするソフィを、素早く片手で捕まえるジーク。

 ちょっと前までたどたどしい幼児語しか喋ってなかったのに、成長したらいきなり外見相応の思慮分別がつくようになったな、コイツ。


 てか、あぶねー危ね。ノリで提案したけどいま僕は体調悪いんだから、ジークを残すとなると一蓮托生になる可能性が高かったんだっけ。

 僕はせいぜい威儀を正して、差し迫った脅威を前に改まった口調で、ふたりの顔を交互に見ながら噛んで含めるように言い聞かせる。


「いいかい。いまの僕たちは運命共同体なんだ。誰かを犠牲にしたり、裏切ったりするような卑劣な考えは捨てなきゃならない」


「いや、私はもともとアンタラとは距離を置いた立場なんだけど」

「一緒の運命。病める時も健やかな時も一緒ってことだよね、レア!」


 このふたりのツッコミは無視する。


「思うに! 連中って臭いで僕らを追って来てると思うんだ」


 思い出しながら推理する僕。

 確か最初に、物陰に隠れていた僕の匂いに気づいて、鼻を盛んに嗅いでいたよね。


「うわーっ、不潔。あんたらそんなに臭うの? どんだけ風呂に入ってないのよ。サイテー! 『体臭は豚』よ」

「ちゃんと毎日巫女さんが湯あみしてくれてるよ! てか頭っから蜘蛛の巣に突っ込んで、蜘蛛まみれになった立場で、とやかく言えるの!?」

「なんですって!! この美しくも神秘的な天翅族の私に汚れとか穢れとかは無縁なのよ! 生臭い爬虫類と一緒にしないでよね!」

「爬虫類じゃない! ちゃんとした恒温動物だぞ!」


 思わず状況もわきまえずに、ジークを挟んで口論するソフィと僕。

 と、一際大きな破壊音が、すぐ背後から聞こえ、我に返って脱線転覆寸前だった話を軌道修正した。


「――じゃなくて、えーと、話が進まないので戻すけど、とにかくあいつらは臭いで追いかけてくるんだから、なにか誤魔化せるような強い臭いの場所に逃げ込めばいいと思うんだ」


「強い臭いィ……?」

 腰が引けた様子で、盛大に顔をしかめるソフィ。

「まあ、心当たりがなくはないけどさ」


 思わせぶりに口に出して、それが癖なのか指折り数えるソフィ。


「一発かまされただけで半径1里以内の生物が悶絶して、全身の毛穴から血が吹き出し、植物は枯れ、大地は腐るほどのオナラをする『アルティメットスカンク』の巣がこの先に――」

「「却下!!」」


「じゃあ、その腐ったような臭いで腐肉食の動物や魔物をおびき寄せて、ほとんど瞬殺で溶かして食べる植物型の魔物の群生地」

「「激しく却下!!」」


「む~~、ワガママだねえ」

 頬を膨らませるソフィだけど、なんでどれも死と隣り合わせの場所ばかりなんだよ!

「あとはいつも卵が腐ったような臭いがする熱いお湯が湧き出る場所くらいしか知らないよー」


 半分投げやりに答えるソフィだけど、

「それだよ、それ! 温泉でばっちりじゃないか! そこで身を隠そう!」


「温泉……? ああ、そういえばお姉様方がそんなことを言ってたわね。浸かると打ち身とか切り傷に効くとかで、たまに動物や魔物も入ってるのよね」


 どうやら普通に入れる温度の本格的な温泉らしい。これは期待ができる。


「なんでもシンゲン・タケダとかいう武将の隠し湯だったとか」


 思いがけない由来に、「どんだけ行動力あるんだよ、武田信玄!」とツッコムべきか、「どんだけ隠れ湯好きなんだよ! 隠れ過ぎだよ!」とツッコムべきか、思わず頭を抱えて考え込んでしまった。

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