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[01-17] フラッシュ 

 風船みたいに軽々と夜空に飛ばされた僕の頭上には丸い月が寒々とした光を放ち、眼下に黒々とした夜の森が広がっている。


 森の中で唯一拓けて明かりが灯っているのが竜の聖域たる竜宮城だろう。


 結構離れたつもりだったけど、こうしてみると案外目と鼻の先だ。てか、これだけドタバタしていたら、大概起きている夜行性のドラゴンとか竜人族の夜警とかに気付かれそうなもんだけど……。


 と思ったら、城の壁と結界を軽がると破壊して極太のビームが地平線の彼方まで、地面を舐めるように直進していった。


「誰だ、寝ぼけてブレス吐いた馬鹿は!?」

金煌竜(ゴールドドラゴン)の老師です!」

「またか! だから、寝るときは人化しろとあれほど」

「サチヨさん、飯はまだかいのー?」

「夜食に大巨獣(ベヒモス)丸ごと一頭喰っただろうが!!」

「サチヨさんって誰だ?!」


 続いて蜂の巣をつついたような騒ぎがここまで聞こえてきた。

 どうやら老師(ジジイ)が一発寝ぼけてかましたらしい。もうこの際、帰宅時の着地に失敗して月を粉砕しても構わないから、アレはこの惑星から追放したほうがいいんじゃないかな?


 自由落下の浮遊感に包まれながら、僕はそんな益体もないことを思った。


 ……いや、まあ、これが現実逃避だってのはわかってるんだけどさ。

 いくらなんでもこの高さから地面に叩きつけられたら死ぬし、その前に鼻息荒くした三匹の大豚(ポーク)が、ジェットストリームでぐんぐんと上昇しながら鼻息荒く僕へと手を延ばしてくる。これ、捕まったらその場で美味しく食べられるのは鉄板だ。


 もはや僕の命は風前の灯。漫画やドラマなら瞬きの間に人生の回想が入るところだけど、なーんも思いつかない。走馬灯仕事しろ!

 いや、漫画やラノベならご都合主義に眠っていた潜在能力が目覚めて、俺tueeeする展開だ。

 よし、許す! 覚醒しろ僕のパワー! 忌まわしき伝説の〈災厄〉の能力よ、いまこそ出番だ目を覚ませ。目を開けるんだ。開けろォ。早よ開けンか、ボケーッ!!


 必死にそう呼びかけてると、真下からソフィアの呆れたような声が聞こえてきた。


「厨二病の発作ね!!」

「んなわけあるか、阿呆ーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 多少、自覚があったことをズバリ指摘されて、僕は反射的に全力で否定する。


 と、その瞬間

「ブモーッ!!(とったどーっ!!)」

 傷豚の手が一歩早く、僕の尻尾に触れた。


「ボオオオオオオッ!!(させるか、オークキング回転三段キック!)」


 ほとんど同時に、赤鬣が空中で全宙を三回連続で繰り返し、さらに両足で三回連続蹴りを傷豚に繰りだすという、著しく物理法則を無視した技を披露する。


「ブーーーーーーーッ!?!」


 悲鳴だか怒号だかをあげて蹴り飛ばされる傷豚。入れ替わるように赤鬣が、「ブフフフ」という下品な忍び笑いを漏らしながら――野生動物が獲物を見つけた精悍な笑いではなくて、性犯罪者が美少女をストーキングする目ですわ、これ――僕を掴み取ろうとする。


「ゴフフォグ!(邪魔だ!)」


 そこへすかさず背後から追いついた片牙が、赤鬣の顔を踏んづけてその上を取った。


「ゴゥオオーーッ!?(俺を踏み台にしやがった!?)」


 そして、片牙の鼻先がほとんど僕に触れ合うくらいまで一気に詰め寄られた――刹那、

「くぱっ!!」

 これまで溜めに溜めていた魔法力を一気に開放して、僕は特大のライト・ブレスを全力で放った。


 と言っても僕のブレスに攻撃力はない。ただ明るいだけだけど、それでも全開全力で放ったライト・ブレスの威力は、間近にいた片牙と赤鬣の目をやったみたいで、

「「グアアアアアア!!(目が、目がぁ!)」」

 二匹同時に仰け反って目を押さえた。


 あとこの光、相手の目くらましと同時に、聖域のドラゴンたちに異常を知らせる烽火の意味もあるんだ。家出した手前、ばつが悪いけど命には代えられない。これで気が付いてくれればいいんだけど……。


 僕は祈る気持ちで聖域のほうを見ながら、必死に飛べない翼を広げて、少しでも滞空時間を稼ごうと最後の抵抗を試みる。


 その時、轟音と色とりどりの閃光が竜宮城から放たれた。


     ◆ ◇ ◆ ◇


 城内にある酒場で、夜行性のドラゴンや一部の竜人族が寝酒(ナイトキャップ)と言うには豪快に、樽のようなジョッキで酒をカパカパあおって盛り上がっていた。


「アルコールがたくさんあるこーる」

「ビールをあびーるほど飲む」

「梅ソーダはうめーそーだ」

「「「ぎゃはははははははっ」」」


 爆笑しながら、正体を無くして……いや、竜人化や人化を解いたドラゴンの正体をあらわにして、景気づけに手加減したブレスを吐くおっさんドラゴン連中。


 威力よりも見栄え重視で放たれた各自のブレスが、夥しい光の乱舞なってあたり一帯を照らし、勢い余った分が結界に当たって花火のような爆発音を奏でた。


 その轟音となによりもくだらないダジャレを前に、警備の守護竜ガーディアン・ドラゴンや竜人族の戦士たちは、耳を塞いで目を閉じて、密かに疲れたため息を漏らすのだった。


「サチヨさん、儂は、儂は前からあんたのことが……!」

「だから誰だよ、サチヨさんって?!」


 あと、ついでのように響く金煌竜(ゴールドドラゴン)の寝言と、ライトニング・ブレスが、無作為に森と聖域を破壊しまくっていた。

読んでくださる皆様ありがとうございます。

拙作「リビティウム皇国のブタクサ姫」の書籍作業で、連日更新が難しくなってきています。場合によっては1日くらい遅れる場合があります。その際には申し訳ございません。

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