[01-13] ギルティ
喰われる、喰われる、喰われる!
肉屋の店先に吊られた鶏肉みたいにぶら下げられたまま、だらだらと流れる脂汗を必死にコントロールして平静を装うよう頑張る僕。これ夜中じゃなかったら、絶対に挙動不審でバレてたよなぁ……。
とにかく、なんかよくわかんないけど、僕が鉑輝竜だとバレたら美味しくいただかれてしまう! 多分、物理的に! 性的な意味でだったらある意味もっと嫌だけどさ!!
絶対にバレないようにしなきゃ。僕は蜥蜴なのさ、少し焦げある蜥蜴さ(さっきの雷で焦げた)、と自分に言い聞かせる。
「ゴフ、ゴフ、ゴフゴフゴフ!(やっぱりな。話がうますぎると思ったんだ)」
「ゴオオオオ、ゴブブ(ハズレか、くそっ!)」
「ブモブモ、ブフッ!(ぬか喜びさせやがって)」
いきなりテンションが低くなった大豚たちが、しょぼーんと項垂れてため息を付いた。
よし、いける。このノリは悪くない。
「ブフブフブブー(しょうがねえ、景気づけにこの蜥蜴喰って寝るか)」
僕をストラップみたいにぶら下げている傷豚が、なにか面倒臭そうに自分の顔の前で逆さにした僕の顔を見ながら鼻を鳴らす。
おっ、このダウナーな雰囲気はきっとあれだね、「しょうがねえ、いらないから捨てるか」とか言っているんだろう。そうに違いない。キャッチ&リリースは基本だよね!
……と、自分に言い聞かせるけど、これ絶対にリリース気はないわ。豚さん豚さん、なんでそんなにお口が大きいの?
ぱくっと僕くらい丸齧りできそうなくらい大きく口を開けた傷豚の臭い口臭を前に、必死にもがくけど全然逃げられそうもなく、あっさりと踊り食いされそうになった――そこへ、
「レア、みっけーっ!」
興奮しているせいで魔力が駄々漏れになっているんだろう。全身からバチバチと静電気を放出している青いドラゴンの仔竜――蒼雷竜の幼生のジークが、泉の周囲を取り巻く木立の間から転がるように飛び出してきた。
僕を食べようとして傷豚が、それで驚いて食事を中断して、僕を元のように片手でぶら下げたままジークの方を見る。
てか、あの方向はさっきまで僕がいた辺りだよねぇ……!? で、僕がこいつらに捕まったのも、元はといえば不意に後ろから落雷のような衝撃を受けたからだよねぇ……!! そこからジークが帯電して出てきたってことは、つまり――。
結論、有罪!!
いっぺん死ね! ゴラッ!!
そう怒鳴りつけたところで、走り寄ってきたジークの尻尾をひょいと掴んで持ち上げたのは、片牙でたどたどしいドラゴン語を喋る豚だった。
「……ナカマノトカゲデスカ? パチパチシテマスネ?」
怪訝そうな目でジークと僕とを見比べる片牙。
「ちゃうよー、とかげじゃないよ、ドラゴンだよー」
目の高さにぶら下げられたジークが、蜥蜴呼ばわりでプライドを傷つけられたらしく、ちょっと膨れっ面で訂正をする。
「わーっ! わーっ、わーっ! しーっ! しーーーーっ!!」
慌てて口の前に人差し指を立てて制止しようとするけど、ジークは理解できないみたいで首を傾げている。
「ドラゴン!? ホントーデスカ?」
「うん。ほんもののドラゴンだよ。ボク、ブルー・ドラゴン。レアはプラチナ・ドラゴン!」
誇らしげにビシッ! と僕を指差すジーク。
と、そこへさらにフラフラと淡い光の塊――幼天使であるソフィアが飛んできた。
「アンタねえ、いきなり人を放り出して、なにイケメンに囲まれてるのよ! ほんと碌なことないわ、アンタといると。さすがは“災厄の鉑輝竜ってところね!」
やってきるなり、僕の鼻先で一方的にまくし立てるソフィア。
「………」
「………」
「………」
「………」
いきなりの急展開を前に、しばし三匹の大豚と僕の間に気まずい沈黙が落ちた。
どこからともなく変な妖精たちがやってきて、白けた雰囲気の中、「ちゃんちゃーん! チャカチャカ!」とカンカン踊りを踊って去って行く。
で、次の瞬間――。
「「「ゴフフフフフフフフゥ!!!(てめーっ、やっぱりプラチナ・ドラゴンじゃねーか!!!)」」」
「きゃーっ! バレたーーっ!!」
豚たちの凄まじい怒号と僕の悲鳴が、夜の森に木霊したのだった。
 




