[01-11] クリフハンガー
「へぶしっ!」
ふと、肌寒さを感じてジークは目を覚ました。寝ぼけ眼で周囲を確認する。
鬱蒼とした森の中、ひときわ大きな木に寄りかかるようにして寝ていたのだが、なんで自分がこんなところにいるのか、寝起きでぼーっとした頭では理解が及ばなかった。
「ん~~~?」
なにか、寝る前に大事なことがあったような気もするのだけれど、ひと寝入りしたせいで、そこらへんは乳幼児らしくすっかり忘却の彼方に消えている。
首を捻ったところで、足元に落ちている丈夫そうな蔓と、一枚の小さな銀色……いや、白金色に輝く鱗が目に入った。
「――!!」
途端に合点がいったジークは、人生(竜生)で初めてポン! と手を打った。
「レアレア。およめさ~~ん!」
落ちている鱗を拾い上げて頬擦りするジーク。
確か『ダルマさんが転んだ』と10回唱えたら、縛っていた蔓を外してくれるってレアが言っていた。
なんか途中から指を折った回数を覚えていないけど、蔓が外れてるってことはもう10回終わったってことだろう。
なら、すぐにレアを探しに行かなくちゃ!
思ったら即行動である。
グルグル首を巡らせてレアの気配を探るけれど、どーもこの周囲にはいないような気がする。なら追いかけるしかないな。
そう判断したジークは、残されたレアの鱗に鼻先を近づけて、くんくん匂いを嗅いだ。
レアのなんともいえない良い匂いがする。……あと、なんか変な匂いも混じっているけど、こっちは無視することにして、レアの匂いだけに集中する。
それから地面を嗅ぎ回ったジークは、とある一点――レアが一目散に逃げて行った方向をぴたりと見据えて、やる気満々の熱い鼻息を放った。
「こっち! レアーっ!!」
それからレアに倍する速度で、全開のダッシュをするのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ゴフ、ゴフフ。ブフフ、ブヒブヒブヒ、ブー?(で、タロン兄貴、どうやってプラチナドラゴンを見つけて喰うんで?)」
「ブーブーブブブ、ブオッ(そうですぜ。普通のドラゴンでも倒すのは至難の業だってのに)」
「ブフゥ。ゴゴゴゴゴゴゴフ、ブオブ、ゴフ(安心しろ。いくら伝説のプラチナドラゴンといってもまだ生まれたばかりらしい。なら、火蜥蜴とたいして変わらんだろう)」
「ゴフゴフゴフ。ゴゴゴフ、ブヒヒヒブヒ?(そう上手くいきやすかね。相手は災厄を呼ぶバケモノらしいですぜ?)」
「ブフッ! ブウブウブブブーッ! (バカ野郎っ。できるかじゃなくてやるんだよ!)」
おかしい。普通、月明かりの森の中で見られるのって、妖精が踊ってその跡にキノコが輪になって生えるとかのファンタジーな秘密じゃね? なんで泉の畔ででっかい豚がしきりに吠えながら、時たま相方を叩いてドツキ漫才をしている光景をみなきゃならないんだろう。
シュールだ。シュール過ぎる……。
夜の森って昼間とは様相を一変するって言うけど、変わり過ぎだろう。こんなもん予想もできないわ。
僕は『妖精の泉』とやらで繰り広げられている一連の光景から目を離した。
「ちょっと、どこに行く気よ!」
冷めた僕の目とは違って、腐った目でこのポークたちに注目していたソフィアが文句を言っているけど無視。
とりあえず、本能的に関わっちゃ駄目な相手の気がするので、見つからないうちにこの場から逃げることにした。
こっそりと抜き足差し足で――。
と、思った矢先、迷彩のために体に巻き付けていた木の枝が藪に引っかかって、ガサリと音を立ててしまった。
「「「ゴフッ!?(誰だ!?)」」」
途端、殺気立って各々武器を構える大豚たち。
怖っ! なんかもう、その剣呑な雰囲気と絶対に人を殺しているだろうお前!? って眼光で睨みつけられて、僕は藪の中で恐怖のあまり硬直した。
「……ゴフゥ?(ん? なんかドラゴン臭いな)」
怪訝な顔で鼻をくんくんする、一際大きな赤い鬣をした豚の仕草に一気に全身の血の気が引く。
「――にゃ、にゃ~ん」
咄嗟に誤魔化すために猫の鳴き真似をしたけど、ベタだ、ベタ過ぎる! 僕の馬鹿馬鹿っ! と、頭を抱えて自責した。
「「「………」」」
案の定、白けた表情でこっちを見る豚トリオ。
無言の時が数秒経過したかと思うと、
「「「……ブホ(なんだ、猫か)」」」
興味を失った顔で背中を向けた。
……やった誤魔化せた!
密かに声にならない喝采を叫ぶ僕。
一目見た瞬間、あんまり頭良さそうには見えなかったけど、やっぱり脳筋だったか。バーカ、バーカとこっそりと舌を出した――刹那。
「みっけ――!!」
どこかで聞いたような声とともに、突如、近くに雷が落ちたような轟音と放電が、なぜか下から上に巻き上がり、その音と衝撃で僕は宙に放り出されて、2~3回転しながら真下にあった泉の近くへ転がり落ちた。はずみで頭の上にいたソフィアがどこかへ吹っ飛ぶ。
「あたたた……」
僕の体重が軽くて小さいのと、足元の土が柔らかかったので怪我ひとつしないで落ちたけど、不意のことで受け身も取れなかったのと、目が回ったのでフラフラしながら起き上がる。
その僕の視線と、何事かと振り返った豚たちとの視線がバッチリ交差した。
「――あ」
呆然としていた豚たちの目の焦点が僕に合わさり、そして、
「「「ゴフウウウウウウッ!!(プ――プラチナ・ドラゴンだっ!!)」」」
豚たちの驚愕の叫びが夜のしじまを切り裂いた。
いま感想の返信が遅れております。申し訳ありません。




