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[01-10] 月下

お待たせしました。

三匹の豚ちゃんです。

 木々の間から水音がする。

 同時に笑いさざめく気配と嬌声が微かに聞こえてきた。


 ガサ藪を掻き分けて音のする方へ歩いて行くと、森の中にぽっかりと開けた場所があって、そこに小さな泉があった。


 清涼な水を満々と湛えた泉はどこまでも透き通っていて、周囲には白い花弁の百合に似た花が所狭しと生えていて花盛りだ。

 月光の下、清らかな泉と可憐な花々、水音……とくれば、精霊やエルフの乙女とかが水浴びをしている神秘的な光景が予想されるだろう。


 事実、全裸で水に浸かるピンク色の肌の上を水滴が流れ落ち、月光を反射して艶やかな輝きを放っていた。


「ブフブフブヒヒーッ(ジロン兄貴、相変わらずいい肉体(からだ)してますね)」

「ブフフフフッ、ゴフ(ブロン、お前も随分と鍛えてるじゃねえか)」

「ゴフゴフゴフフッ。ゴフン!(お前ら、まだまだ筋肉が足りねえな。もっと肉を喰え肉を。あと喰うだけじゃなくてトレーニングも考えろよ!)」


 ……そう思っていた時期が僕にもありました。


「なんでこんなところで豚が水浴びしてるんだろう……?」


 なんかやたらでっかい野豚だかイボイノシシだかが、我が物顔で泉に浸かってなにやらブーブー騒いでいる。

 豚の言葉なんてわからないけど、なぜだろう、なにか誰得(ダレトク)のサービスシーンが展開されているような気がする。


 いや、豚って案外清潔好きな動物だって聞いたから、水浴びしててもおかしくはないんだけどさ。

 なんというか、ファンタジー世界でお馴染の幻想的な光景を期待して覗いたら、『ウホッ! いい豚』だもん。金返せと言いたくなる。


 思わず頭の上に鎮座しているこの場所に案内してきた元凶――天翅族(てんしぞく)のソフィアにとがめるような視線を送ってみたんだけれど。


「す、すごい! なんて立派な豚鬼(オーク)なの!? あの通った鼻筋、立派な牙、王者の風格を漂わせるクールでありながら超ワイルドな信じられないほどのハンサムばっかりじゃない! それが三人も!! まさに水も滴るいい男たちね。――ぐへへへへへっ、たまりませんな~」


 かぶりつきで目を皿のようにしてこの光景に見入っている。

 わからん。この世界の美的感覚はまったくわからん!


「って、豚肉(ポーク)?」

 見も蓋もないネーミングの魔物だなぁと思いながら聞き返したけど、ソフィアの耳目はもう大豚たちに釘付けだった。


 まあいいか。この際、豚肉(ポーク)で。


「ゴフゴフ? ゴフフゴフ!(しっかり洗ったか? 血の臭いなんざさせてたらドラゴンに警戒されるからな)」

「ゴーフ! ブヒヒ、ブフゥ!(もちろんでさ。耳の後ろから尻尾の先までばっちりですぜ)」


 それにしてもでかい豚だなー。身長なんて立ち上がったら確実に2.5mくらいあるんじゃないかな?

 崖ってほどじゃないけど、人ひとりくらいくらいの高さの藪からこっそり見下ろしているんだけど、水平になった目線が豚の胸元あたりになっている。

 つーか、二本足で立ちあがって、器用に両手で体を洗ったり、時々筋肉を漲らせて変なポーズをとっている時点でただ者……いや、ただの豚とは思えないけど、もしかして森の主かなんかだろうか?


 首を傾げる僕が眺めていると、水から上がった三匹の大豚が岸辺に置いてあった服を着始めた。

 服と言っても肩当とか棘付きの革鎧と、世紀末にヒャッハー言ってるモヒカン刈り集団みたいな格好だ。おまけにやたら物騒な武器も構えている。


「この辺の豚は物騒だな……」


 てか、このレベルの豚が世界標準なら、将来的に独り立ちをして自活しなきゃならなくなったとしても、しばらくは狩りで肉は食べられそうにないな。

 豚でさえこれなら牛なら10メートルくらいあって、口からホルスタインビームとか出してもおかしくはない。


 ――将来は菜食主義者に転向するか。それか普通に人化を覚えて仕事をして、その稼ぎで人間の街で肉を買って食べたほうが安全っぽいな。


 ドラゴンとしてはえらく小市民的な暮らしだけれど、命あっての物種だ。そう密かに人生設計をする僕だった。

ちなみに三匹は人間基準でいえば、どこぞの一子相伝の暗殺拳の三兄弟(三男は除く)をイメージしていただければわかりやすいかと。

そんな三人が全裸できゃっきゃうふふしている感じですね。

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