[01-09] オアシス
ようやく途中挿話が終わりました。
これから一度更新した泉へと向かいます。
木立の間からふよふよ……と言うよりも、へろへろと疲れた飛び方でソフィアが戻ってきた。
で、開口一番――、
「縛られたまま寝てたわよ。あの青いドラゴンの子」
そう面倒臭そうに結論だけ言って、僕の頭の上に下りると、そこが指定席とばかりに胡坐をかいて、偉そうにふんぞり返って腕組みをするソフィア。
ウザいけど、まだ体力が回復し切れていないんだろうと思って、大いなる博愛の精神で持って許容する。
「あ~~、カウントの途中で眠気に負けたか。まあ、この時間に乳幼児が起きているのが、そもそもの間違いだからね」
もしかして泣いてるんじゃないかと心配して、ソフィアに様子を見に行ってもらったけど杞憂だったらしい。ほっとしたというか気が抜けたというか……。
「そーね。暇だったのか足元の地面に尻尾で描いたネズミの絵とかあったわね。結構上手かったわよ」
大物だなあ。てか、どこかで聞いたような話だけど、ひょっとするとジークって将来、ひとかどのドラゴンになるかも知れないな。
「寝てるの起さなかったよね?」
「当たり前でしょう。てゆーか、あの子、ちょっと抜けてそうだったから、下手に顔を合わせたら問答無用で食べられそうで嫌なのよね」
眉をしかめるソフィアだけど、それを杞憂だとは笑い飛ばせなかった。
それどころか十分にあり得ると僕も納得できる話だ。
・・・・・・。
「むし~。おやつ~♪」
「違うっ! 私は偉大なる天翅――」
「もぐもぐ。――ごっくん」
・・・・・・。
……絶対にこうなる。アホの子VSアホの子で、取り返しがつかない事態になるだろう。
混ぜるな危険だ。明日のおやつのプリンを賭けてもいい!
「とりあえず、“光刃”で縛ってある蔦は切ってきたから、目が覚めたら勝手に戻るんじゃない? 仔竜とはいえドラゴンを襲う野獣がいるとも思えないし、アンタに頼まれた通り虫除けにアンタの鱗を一枚置いてきたしね」
「大雑把だな~」
「縛って放置してきたアンタが言うな!」
頭の上で怒鳴り声を上げた後、また蜘蛛とかにたかられないようにと、勝手にガメた僕の鱗の一枚を扇子みたいにして顔を扇ぎながら、
「あー、病み上がりに一仕事してきたから汗と糸で粘々して気持ち悪いわー」
と、いかにも一生懸命働いたと言わんばかりの態度で、当てつけがましくこぼす。
別に僕から頼んだわけじゃないんだけどなあ。
命を救ってもらった借りを返さないと、魔術的な均衡が悪いとか、等価交換の原則に反するとかなんだかんだと言って、勝手に「何か願いをいいなさい!」と上から目線で言われたから、しぶしぶお願いしただけで。
「……そーだね。僕も喉が渇いたし、この辺に小川とか泉とかあればいいんだけどね」
そう何の気なしに呟くと、ソフィアはピタリと扇ぐ手を止めて、なにやら考え込んだ。
「それか果汁の豊富な果物とか。――暗くて無理か」
半分、ソフィアの相槌を期待してひとりごちたんだけど、なにやら僕の頭の腕で腕組みして、うんうん呻吟している。
「なに? 生理現象なら僕の頭の上じゃなくてそっちの藪の中でして欲しいなー」
「違うわよ! てか、女の子のくせにデリカシーがないわね、アンタ!!」
「誰が女だっ! 僕は男だーーっっ!!」
僕の魂の叫びに、ハトが豆鉄砲を食ったような顔で、何度も瞬きをするソフィア。
「え……男……? って……あれ? え、だって……え、嘘、その美少女顔で……?」
お前までそれかい!? つーか、どこで見分け付いてるんだ、このドラゴンフェイスの!! 僕なんていまだに素の状態のドラゴンの雌雄の違いすらつかないぞ?!
「うわ~~~~~~~~っ。これじゃあ女の立場ってもんが……。てか男ってなんなんの?」
ひとしきり驚いてから、一転して遠い目で黄昏れたソフィアだけれど、
「お~~い、帰ってこい」
頭を振って呼びかけると、はっと我に返った。
「――こほんっ。えーと、それで話は戻るんだけど、実はこの近くに『妖精の泉』っていう綺麗な水場があるのよ」
「へーっ。飲めるのその水?」
「もちろん。結構深いんだけど水が澄んでいるから、底まですぐに手が届くみたいに思えるくらい綺麗な水よ。それにこういう月夜の晩なら、泉の周り小妖精が踊って歌ってお祭り騒ぎをしていたり、美人の水妖精やエルフが月光浴を兼ねた水浴びしているかもね。もちろん全裸で」
「よし行こう。すぐ行こう。いま行こう」
「即決!? うわ~っ、やっぱ男だわこの子」
若干ドン引きした様子で(『若干』と『ドン引き』が意味的に矛盾があるようだけれど、要するにドン引きしている)仰け反るソフィア。
「別に裸のおねーちゃんが目当てじゃないしー。喉が渇いたから水目当てなだけだしー」
誤解しないように念を押す。
「喉渇いてるなら、確か逆方向に瑞々しいアプの実が生っていたはずだけど」
ソフィアが指さす方向とは逆方向に、僕はさっさと踵を返した。
「ぬほほほっ。いや~、好きっすな、旦那~」
「水が飲みたいんだよ。水だってば」
わざとらしい下種な口調で揶揄するソフィアに、重ねて言い聞かせる僕。
下心はない。綺麗な水と、幻想的なファンタジー世界の光景を堪能したいだけだ。
さあ、行くぞ。待っててね、水浴びするおねーちゃん!
ちなみに治癒魔術はレアの光魔法レベル1に内包されているので、トータルのステータスはさほど変わっていません。




