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[01-06] かくれんぼ

 ドラゴンだけあって多少は夜目が利くけど、それでも真っ暗な森の中、まるで散歩でもしているような気楽な足取りで、ジークが歩きながら僕に尋ねる。


「ねーねー、レア、どこまでいくの?」


ジーク(きみ)がいないところまでだよ!」


 取り付く島もなくきっぱり答えるんだけど、ジークは「ん~~~?」と首を捻りながら、前になったり後ろになったりして、そのまま付いてくる。


 で、一言――。

「よくわかんなーい」


「そーだねえ。僕もこの状況がなにがなんだかさっぱりわからないよ!」


 どーしてこうなった!?


 元を正せばドラゴンのけったいな習性……というか、僕には呪いにしか思えない性別の分化に関して、

『明日になって角が生えたら、まず雄雌どちらかに偏った中性体になり、やがて数年後に明確に雄雌に分化するぞ』

 との導師竜(メンタードラゴン)の宣告にショックを受けたのが事の発端だ。


 なにしろ群れで暮らしていると、角が生える際の自己判断に任せられる性の分化が、周りの連中の期待と欲望に引きづられて、勝手に上書き保存されてしまう……と来たもんだ。


 そして僕以外、聖地にいる仔竜も、成竜も、竜人族も、なぜか全部が全部『レアは雌!』と最初から決め付けているんだ。完全アウェーなんてもんじゃない。


 だから僕は決心をした。

 運命は自分で切り開くんだ! ああ、誰が知ろう百尺下の水の心というわけで、僕は隙を見て子供部屋から誰もいない森へと逃げ込んだ。

 で、この森の中で誰にも見つからずに、こっそりとひとりで角が生える時期を待つつもりだった。男になるのを念じながら。


 いつ角が生えるのかは個体差があるから明確にはわからないって話だったけれど、早ければ夜明け頃から順次――って話なので、すでに日付が変わって数時間経過したいま、ここで下手をしたら角が生える可能性すらある。


 だのに僕の周りには邪魔者がうろちょろしている。コレを排除しないことには、無事に大望を成就させることができやしない。

 だから僕は決心したんだ。たとえ血塗られた道であろうとも、邪魔者を排除することを……。


「――こほん。ねえ、ジーク。ただ歩いているだけじゃつまらないだろう。せっかくなんで、ここらへんで“かくれんぼう”をしないか?」

「やだーっ」


 僕の提案を即答で拒否するジーク。

 この餓鬼ぁ……。乳幼児なんざ、遊びに誘ったらハイハイなにも考えずに飛びつきゃいいものを、なんでピンポイントで拒否するんだ。


「僕はジークと一緒に遊びたいな~。だから“かくれんぼう”をやろう」

「やだっ」

「――ちっ」


 適当に理由をつけて置いてきぼりにするつもりだったんだけど、このあたりも『直感』スキルで躱わされているような気がする。

 この野生の勘をどうにかしないと僕に夜明けはない。


「じゃ、じゃあ、ジークが100数えて僕を見つけられたら、ご褒美をあげるよ」

「およめさーん!!」


 案の定、そこに行き着くのか……。


「あー、うーん、見つけられたら、考えてもいいよ」

 玉虫色の返事で誤魔化す。


「やったーっ! ぼくが見つけたらおよめさんだ! ウソついたらダメだよ、レア」

「はっはっはっ。嘘なんてつかないよ」


 小躍りするジークだけど、僕は明言してないので、嘘はついてない。


「じゃあ、そこの大きな木のところで背中を向けて、100数えてね」

「100って?」

「あー……えーと、じゃあ、『だるまさんが転んだ』って両手の指の数だけ唱えてから追いかけること」


 試しに「ダルマさんが転んだ」と言って指を一本倒して見せた。


「だるましゃんがころんだ?」

「そうそう。インチキしないように、ちゃんと後ろを向いて、こっち見ちゃ駄目だよ」

「うん。わかった」


 あっさり頷いたジークが、背中の翼を見せて大木に寄りかかった。そこを素早く手にした木の蔦で木の幹ごとグルグル巻きにする。


「なにしてるの、レア?」

「嘘ついて10回唱えないうちに来ないように縛ってるのさ。きちんと10回言ったら解いてあげるよ」

「ふーん? わかったー」


 直感以外はアホでよかった。

 ほっとしながら、きっちり固結びに結んだ僕は、ジークが『ダルマさん』を唱えるのを聞きながら、一目散にその場を後にした。


「ダルマさんがころんだ~」


 目指すは竜宮城の反対側、なるべくひと気のないところで、今晩一晩隠れられる、木の洞とか木の上でもいい。


「――ダルマさんがころした~」


 木々の間から聞こえてくるジークの声が遠くなる。てか、いきなり猟奇的に間違ってるぞ!

 ツッコミを入れたいのを必死に堪えながら、僕は森のはずれのほうへと突き進んで行ったのだった。

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