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[01-05] オーク・キング

微妙に閑話っぽいです。

 ストゥルトゥス大陸(人大陸)とペッカートル大陸(魔大陸)との間にはレモラ半島があり、両端で大陸同士が繋がったここをお互いに橋頭堡にしようと、日々、人族と魔族を筆頭とする亜人族とが睨みを利かせ、数百年に渡って互いに取ったり取られたりを繰り返していた。


 なお、アルファベットの『T』字型をしたレモラ半島の先端はさらに細長く続いて、レェレミータ大陸(竜大陸)にも達しているのだが、こちらに対しては特に行き来はない。

 ドラゴンはそもそも地上の覇権などには興味はなく、また人族も魔族も短い横棒の部分でお互いにいがみ合うのに忙しく、半島の中間地点より先へはほとんど足を踏み入れることはないのだ。


 いわば空白地帯になっているここには、人に代わって多くの魔獣と亜人とも言い難い――人族から見れば一律に魔物ではあるが――種族が混在して暮らしている。暮らしているというか、弱肉強食の掟に従って、喰うか喰われるかの関係で微妙な均衡を保っていた。いや、保っていたと過去形で言うべきだろう。


「ゴフ、ゴフッ!(兄貴、見えてきました)」

「ゴフゴフ!(おう、あれがドラゴンの森か)」

「ゴフフフ、ゴフ!!(臭うぞ臭うぞ。ドラゴンどもの臭いだ)」


 夜の闇の中、両手両足を持って二足歩行をした魔物が三匹、そこだけ青々と緑豊富な木々を見上げて鼻息を荒くしていた。


「ゴフゴフゴフゴフ、ブウ!(ジロン! ブロン! こっからが本番だ、気合を入れろ!)」

「ゴフーゴフッ!(おうっ、わかってるぜタロン兄者!)」

「ブフブフブーッ!(プラチナドラゴンの生き(きも)は俺たち兄弟のもんだ!)」


 盛り上がっている三匹の鳴き声か臭いを嗅いだものか、ひっそりと物陰から近づいていた地獄犬(オルトロス)が、手前にいた一匹に狙いを定めて襲い掛かった。


「――ゴフっ!!」


 慌てた様子もなく、手にした巨大な戦斧で振り向きざまそれを両断する獣面人身の魔物。

 月明かりの下、刃物のきらめきに浮かび上がったのは、豚のような猪のような怪物の顔であった。


 オークという魔物がいる。人族からは豚鬼(オーク)と呼ばれる豚に似た醜い容姿の魔物である。人族の定めた魔物危険度(SSS・SS・S・A~Jランク)に換算して、単体ではGランク。ただし群れとなるとE~Fランクに該当する中位低級の魔物だが、頻繁に人里近くに現れては女子供を襲うことでも知られているので、冒険者ギルドでは見つけ次第殲滅する優先討伐対象となっている。


 だが、ここにいる三匹は明らかに通常の豚鬼(オーク)のレベルを逸脱していた。


 体の大きさも並みの豚鬼(オーク)の倍近くあり、その面構えにも知性に近いものが感じられる。まして単体でEランクに相当する地獄犬(オルトロス)をものともしない膂力となると、規格外もいいとことである。


「ゴフッ。ゴフッ(夜食にちょうどいい)」

 一撃で地獄犬(オルトロス)を斬って捨てた、頬に傷のある豚鬼(オーク)が嬉しそうに鼻を鳴らす。


「ゴフフ、ゴフゴフゴフ(この辺は豊かだな。配下の連中もここまで来られればな……)」

 隣にいた手に抜き身の大剣を握り、左の牙が折れている同じような体格の豚鬼(オーク)が、どこかしみじみとした口調で背後を振り返ってそう続ける。


「ゴーフっ。ゴフゴフ、ゴフフフフフッ!(よさねえか。あいつ等は俺たちの血となり肉となり脂肪となって一緒にいるんだ)」

 一際大きな赤い(たてがみ)をした豚鬼(オーク)が、手にした槍とも大剣ともつかない武器の石突を、地面に叩きつけて一喝した。


 もしも『鑑定』の使える人族がいれば、彼らの正体を知って顔色を変えただろう。なにしろここに勢揃いしているのは、その気になれば小さな国の首都なら一夜で滅ぼすと言われているBランク上位の『オーク・キング』一匹と、それに匹敵する『オーク・ロード』二匹なのだから。

 

 もともとはレモラ半島全域に広く薄く分布していた豚鬼(オーク)たち。雑食の豚鬼(オーク)は小・中型魔獣を狩る一方、自然に生える植物を主食としていた。かと思えばより上位の魔物の餌になっていたのだが、小鬼(ゴブリン)ほどではないにせよ繁殖力の強い豚鬼(オーク)が根絶やしになることはなかった。

 だが、その食物連鎖の鎖が崩壊したのは三月ほど前。


 天から降って湧いた轟音と怪光に続いて、大地が震えた。慄く一族を叱咤激励した彼ら、半島の豚鬼(オーク)全体を統率していた三匹を筆頭とする上位豚鬼(オーク)種であったが、本当の恐怖はそれからだった。


 降り注ぐ砂礫によって棲家の森は枯れ、天は閉ざされ、川は濁った。たちまち食べ物に事欠く有様となり、近隣の食べられる動植物を食い尽くしたところで、半島最強種とも言える豺狼(パーサークウルフ)が、集団となって豚鬼(オーク)たちを襲った。


 奴らも飢えていたのだろう。個々に散らばっていた豚鬼(オーク)たちの集落――多くが簡素な藁の家か板張りの小屋である――が一息で蹂躙され、たちまち半島に住む豚鬼(オーク)の総数が半数近くまで減ってしまった。


 それから撤退に次ぐ撤退でますます数を減らし、遂にはこの三匹だけになったが、これはここに来るまでに共食いをした結果である。そのお陰か、もともとオーク・ジェネラルだった三匹が大幅なレベルアップを果たしたのだが、ここから起死回生を図るのはさすがに無謀だろう。


 敵の豺狼(パーサークウルフ)は個々のランクでもC。集団になるとB、さらに飢えている現状はパーサーカー状態となって、もう一ランク上がっている。この三匹がどう足掻いても数の暴力で押し切られるのは自明の理である。


「ゴフゴフゴーフッ! ブヒブヒブヒヒーッ!!(だが、伝説のプラチナドラゴンの肝を喰えば、俺たちは不老不死だ。もはや豺狼(パーサークウルフ)如き物の数ではない!)」

「ゴフー。ゴゴゴゴゴゴフ!(おう、タロン兄者。俺たち三兄弟で天下を取ろうぜ!)」

「ゴフ、ゴフフ。ゴーゴゴフ、ブウブウブウブウ!(我ら三兄弟、生まれた日も同じだが、死ぬ時も一緒だ!)」


 血塗れの地獄犬(オルトロス)の肉を千切っては喰いしながら、改めてお互いの絆を誓い合う三匹の豚鬼(オーク)たち。

 心をひとつにして思うことはひとつ。


(((プラチナドラゴンの肝を喰うのは俺だけだ。邪魔になるならこいつらも喰ってやろう)))


 という、腹黒いものであった。


     ◆ ◇ ◆ ◇


 いかん! このままだとなし崩しに時間切れになって、僕の意思とは無関係に嫁にされてしまうっ。


「♪~♪」


 鼻歌を歌いながら、いつの間にか僕の先頭に立って歩いているジーク。その無防備な背中と細い首を眺めながら、追い詰められた僕は道端で拾った丈夫そうな木の蔦を手に、決断を迫られていた。


 ――どうする、ヤるか?


 こんな時間に森の中で目撃者はいない。ヤるならいましかない。

 ごくりと唾を飲み込む。

オークキングたちが結界を越えられたのは、道案内をするコボルトがいて、地下の鍾乳洞を抜けてきたからです。用済みのコボルトは喰われました。

次回、「肝は天気が良かったので裏の物干しに干してきました」に続く!

嘘です(´・ω・`)


【補足】

レアの『天恵』異世界知識・記憶について。

転生とかではないです。あくまで特定の異世界の知識を先天的に持っているだけです。ただ知識だけあっても引き出せないので、付随して記憶という形でそれっぽい人格も持っていますが、特定の誰かの人格ではありません。人工知能というか、個にして全、全にして個の人格というか、匿名掲示板の『名無しさん』に近いものです。だからどちらかというと男性に近いわけです。


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