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[01-03] 魔法

感想の方でオースティンの略称として「オース」と呼ばれてたので、今回からそちらに変えてみました。

 ドラゴンの使う魔法は別名『竜魔法』と言って、ドラゴンという種族に特化した魔法――と、人間は分類しているとか。

 ま、確かに僕らの使う“魔法”は、鳥が空を飛べるように、モグラが地面に潜れるように、鯨が海を泳げるように、ドラゴンという特性あってこその持って生まれた基礎能力の一種になる。


 だからある程度は生まれた時から僕らは無自覚に魔法を使うことが出来る。僕の場合は『光魔法レベル1』で、ジークの場合は『雷魔法レベル1』と『風魔法レベル1』がそうだ。

 ……うん、まあ、僕の場合は暗いところを便利に照らせる程度の使い方しかできないけどさ。


 そもそもが真竜(ドラゴン)もそうだけど、魔法を使える種族――精霊族や高位魔族、神族なんか――は、世界の始まりとともに自然を調整する役割を担うために生まれたと言われている。つまり存在することで世界と自然に干渉できるような能力をもっている。その能力を総称して“魔法”と言っているわけ。


 で、それを羨んだ人間は長い時間をかけて試行錯誤をして模倣した。

 さっきの例で言うなら鯨を真似て泳ぎを覚え、モグラに習ってスコップで穴を掘ったりするようになった。とはいえ、あくまでできるのは魔法の劣化版であり、ひどく歪で限定的なものだった。だから、“魔法”ではなくて技術的な“魔術”なんだとか。


 あ、ちなみにドラゴンとか精霊族が『人間(ニンゲン)』という場合には、それは人族の他に妖精族や亜人族、低位魔族なんかも含めている。人族は自分を万物の霊長だと驕っているけど、先に挙げた魔法を使える種族から見れば、一律に同じようなものらしい。

 チワワもセントバーナードも『同じ犬じゃね?』という認識でしかない。


 とは言え、いくら真似たといってももともと持っている魔法力の地力が違う。ドラゴンを100万だとすれば、人間はいいところ100で、勇者とかでも万を超えるのは稀だとか。だもんだから、ドラゴンや魔族は人間の使う魔術を軽視する向きがあるけど、どっこいその圧倒的なハンデを乗り越えるのが人間の怖いところだ。


 魔法では考えられないような裏技や、意表を突くような使い方をするので油断が出来ないし、事実それで多くのドラゴンが倒された。だから決して侮るなと、導師竜(メンタードラゴン)が口を酸っぱくして繰り返すのもさもありなんだ。


 ま、それはそれとして、そんなわけでドラゴンなら幼生のうちから本能的に使い方を知っているのが、この口から吐く“ドラゴン・ブレス”。

 魔法の基礎の基礎を習った時に教えられた。


「いいか。下っ腹に力を込めて、体の中に光の塊を集めるつもりでイメージしろ。そして、その塊を思いっきり口から吐き出せ!」


 と、導師竜(メンタードラゴン)に言われたまま、僕たち仔竜はウンウン呻って、一斉にブレスを放った。

 結果――。


 蒼雷竜(ブルードラゴン)のジークは『サンダー・ブレス』を。

 緋炎竜(レッドドラゴン)のオースは『ファイアー・ブレス』を。

 茶嵐竜(ブラウンドラゴン)のクリフは『トルネード・ブレス』を。

 冥玄竜(ブラックドラゴン)のゲオルクは『ダーク・ブレス』を。

 碧海竜(グリーンドラゴン)のファーは『アクア・ブレス』を。

 紫雲竜(バイオレットドラゴン)のカイは『ミスト・ブレス』を。


 それぞれ一回に撃てるのは一発か二発だけど放てるようになった。


 で、僕の場合は『ライト・ブレス』ってことで、指導役の導師竜(メンタードラゴン)も困惑していた。

 金煌竜(ゴールドドラゴン)あたりだったら、レーザーみたいな『ライトニング・ブレス』。銀麗竜(シルバードラゴン)でも、無色のエネルギーを収束させた『フォース・ブレス』が出るのが普通らしい。


「まああれじゃな。『光を集めて、それを口から出せ』と言われて素直に従ったんじゃそう。普通なら、自分の特性に合わせて無意識に変化させるんじゃが、素直と言うか純真と言うか、なんというか……」


 婉曲に『馬鹿』って言いたいんだろうな。

 コメントを求められた金煌竜(ゴールドドラゴン)の老師の発言を聞いて、僕はそう思ってふて腐れた。


 で、僕の目の前で、真っ当なブレスであるジークの『サンダー・ブレス』と、オースの『ファイアー・ブレス』が空中で激突――しかけて、突然その目前に現れた魔法陣に遮られ、一瞬、挙動が止められたかと思うと、ボールが跳ね返るように弾き返された。


「ひぎゃあああああああっ!?」

「あちちちちちちちちィ!!」


 自分が放ったブレスでお互いに黒焦げになるジークとオース。

 幸いどちらも雷や炎に耐性がある上、弾き返されたときにある程度威力が減衰していたみたいで、ふたりとも多少焦げてひっくり返っているくらいで、命には別状はない程度の被害みたいに見える。


「まったく、しかたないなぁ」

「しんだ?」


 目を回しているふたりを呆れたように眺めるクリフと、相変わらず黒い発言を垂れ流すゲオルク。


 一連の遣り取りの間、無言に徹していた導師竜(メンタードラゴン)は、ちらりと後方に控える竜人族の巫女さんのひとりに視線を流してから、改めて僕たちに向き直った。


「いまのが人間の使う儀式魔術の典型だな。ま、成竜相手には通じんが、お前たちヒヨコが相手だとご覧のありさまなのは見ての通りだ。ブレスが使えるようになった程度で、ゆめゆめ油断せぬようにな」


 平然と何事もなかったかのように続ける。

 成竜(おとな)にとってはこの程度、デコピン一発程度の認識なんだろう。


 それはともかく、慣れた手つきでジークとオースに治癒魔術をかけている巫女さんたちを眺めながら、魔法はともかく魔術だったら僕でも覚えられるかなー、とぼんやり思った。

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