第三十四話
「トーラちゃん、こっちの検品頼むよ。ドライバーさんに伝票もらって。」
「はーい。」
建物の裏手にある外に向かって大きく屋根の張り出した空間に保護官役の主任のおじさんと透羅の声が響きわたる。
大型トラック5台はゆうに停まれる広さのある駐車スペースに1台のトラックが停まり、若いドライバーさんと2人の店員さん達が協力して、段ボールを降ろしている。
夕方に向けての補給なのか、結構な量の商品が搬入口に積み重なっていく。
オレと狩野先生は、建物から少し離れた納入車専用の出入口からその様子を見ていた。
遠目にも全員が忙しそうにしているのがわかる。
「確認終わりました。搬入お願いします。」
左手に持ったボードと台車に積まれた商品を見比べていた透羅が大きな声で叫ぶと、「あいよ。」と待機していた店員が台車ごと店内に商品を運んで行く。どうやら運ばれてきた商品と伝票の段ボールの箱数があっているかを確認するのが透羅の役目らしい。次々に積まれていく商品を素早くチェックしていく。
「いやあ、大したもんだ。聞いてはいたがここまでとは・・・。」
狩野先生が透羅の鮮やかな仕事ぶりに感心した声を上げる。
「ホント。忙しそうだけど、思ったより楽しそうにやってるね。」
「そうだな、良かったよ。初日は、緊張で疲れ果てて夕飯も食べずに寝てしまったとお母さんが言っていたから、少し心配していたんだけどな。でも、一つの商品を売場に出すために、たくさんの人の想いや力が関わっていることを知ったから、迷惑をかけた分、出来るだけ役にたって償いたいとも言っていたそうだ。」
「透羅の母ちゃんの怒りも落ち着いたのかな?」
「ああ、早乙女のお父さんの会社が無くなってから少しして、お母さんの職場も結婚退職とかで人が辞めて大変だったらしい。疲れていて、夫にも娘にも気を使うことができなくなってしまっていたとおっしゃっていたよ。お父さんの新しい仕事も見つかったし、もう、大丈夫だろう。」
「そういえば、なんか吹っ切れたみたいな感じしてんな・・・アイツ。」
「そうだな。太一が保護してくれたおかげだよ。お前の頑張りが早乙女の危機を救ったんだ。」
「あらためてそう言われると、大げさに聞こえるなあ。でも、おかげでくされ縁の幼馴染ために何か出来たってのは悪くないね。」
オレが言うと、狩野先生はいつになく真剣な表情で言った。
「私達が太一にあげられるのはそんなちっぽけな満足感しかない。任務の性質上、面と向かってお礼を言われることも、表立って感謝されることもない。だからこそ自分がやっていることが間違ってないって信じてほしい。お前の頑張りがなければ、すれ違ったままで終わってしまっていた親子の思いや家族の絆があると知って欲しい。」
狩野先生は、少し寂しそうな表情をしている。うちの学校に来る前は、警察官をやっていたと言うから昔、なにかあったのかもしれない。でも、今は詳しく聞くときじゃないと思った。必要があれば話してくれるだろうし、なければそれでいい。先生に昔何があったかよりも、今現在の先生をオレが信じることができるってことが大事だからだ。
「・・・色々迷うことも多いけど、誰かの役に立てたと思う時、児童防犯自治体やっててよかったなと思えるんだ。親父がなんでいつも困っている人を助けてたのか・・・今は何となくわかるんだよね。」
オレが言うと狩野先生は笑顔で答えた。
「太一のお父さんはきっと知っていたんだと思う。誰かを出し抜くために全力を尽くすよりも、誰かを助けるために全力を尽くすことの方が何倍も難しいしカッコいいんだってことさ。」
「そろそろ行くか。東映マートに行く間に、鷺沼に話す内容を決めよう。」
「そうだった。うまく話す自信ないなあ。」
「大丈夫。私がきっちり教えてやるから。」
「それも不安要素の一つなんだよなあ。」
「疑うなかれ。全ては信じることから始まるんだ。」
オレと狩野先生は、透羅が元気良く叫んでいるのを尻目に車へと向かった




