第三十二話
「やはり、家庭内でのすれ違いが問題でしたか・・・。その後、早乙女さんの様子はどうですか?」
透羅を保護した4日後の火曜日。定例ミーテイングで校長先生は聞いた。
「昨日がNOAでの研修の初日でしたが、保護官の方の反応はとても良かったですよ。覚えも早いし、わからないことはすぐ聞いてくる。そこらの学生バイトよりよっぽど使えるとおしゃってました。1週間でいなくなるのが残念だとも。」
「そういやあ、昔からなんでも器用にこなせるヤツだったな。」
狩野先生の答えにオレは何気なく感想をもらした。
「とにかく2手3手先を考えられるから動きに無駄がないそうだ。目の前のことしか考えない太一とは対照的だな。」
「オレは透羅と違って正直者なの。アイツはバスケの時だって毎回毎回チマチマ小細工してきやがって・・・。」
「それも立派な作戦だろう。単なる負け惜しみじゃないのか?」
「いや、違うよ。オレは相手と常に真っ向勝負で挑んでいるわけ。敵に対しても敬意を払ってるんだよ。」
「まあまあ、そうムキにならずに。太一君のその男気は一緒に活動している我々が一番よく知っていますよ。」
オレは校長先生になだめられて、なんとなく納得いかないまま腕組みをした。
「しかし、驚いたのは、今回の一連の事件が計画的に行われていたということですね。」
校長先生が率直な感想をもらす。
「ええ、まったく。自分の犯行を父親に確認させるために、鷺沼に協力してもらって練習していたというんですからね。GPSの地図で相手がくるタイミングを正確に計るなんて、やろうと思ってもナカナカ出来るものじゃないですよ。」
狩野先生は、心底関心してるらしく、校長先生の感想に深く同意している。
「そうですね、商品をバックに入れてからの警備員の動きまで研究するとは、ほめられたことではないですが大したものです。パートナーだった鷺沼さんの様子はどうですか。」
校長先生からの問いかけに、狩野先生はチラリとオレの顔を見た。
「早乙女が休んでいることをずいぶんと気にしている様子です。担任の先生も何度も理由を尋ねられたとおっしゃっていました。今回の件に深く関わっていた分、自分のせいで何かあったのかも考えているのかもしれません。まあ、そこは太一に協力してもらってフォローしていくつもりです。」
「えっ、オレなの?」
まったく予想をしていないところに自分の名前が上がったので、思わずびっくりして声を上げる。
「お前以外に適任がいない。早乙女も表向きはインフルエンザで一週間休むことになっている。でも、事情を知っている鷺沼は疑っているわけだ。もしかしたら自分が協力しなくなったから警察に捕まってしまったのかも。あるいは離婚が原因で学校に来られなくなったのかも。そんなモヤモヤした気持ちも、幼馴染で家も近いお前がただの風邪だと言えばスッと解消するはずだ。先生達が言うのとは説得力が違う。」
狩野先生がさも当たり前のように言うので、オレは思わず大声で反論してしまう。
「いや、いや、いや、口ベタだって言ってるじゃん。無理だよ。余計なことまでしゃべっちゃうよ。きっと。こないだだってボロが出ないよう必死だったんだから。」
狩野先生はこの抵抗を予想していたのか、涼しげな顔で首を横に振り、オレの肩に手を置いた。
「もっと自信を持て、太一。お前が鷺沼から話を聞きだしてくれたからこそ、今回の事件は解決したんだ。それに私もいる。今回もきっちりアドバイスしてやる。このあとの車で作戦を練ろう。大丈夫。うまくいく。」
狩野先生の自信に満ちたアドバイスが一番の不安要素だったけど、ヘソを曲げられると面倒なので言わないでおいた。
「では、校長先生。これから、太一と東映マートに定期巡回に行ってきます。途中でNOAによって、遠めに早乙女の様子は確認してきます。」
「わかりました。太一くんお願いします。見つからないように慎重にね。」
校長先生は、さっきのオレと狩野先生のやり取りが面白かったらしく、まだ顔がニヤついている。
悔しかったので少し嫌味を言ってみる。
「そんなヘマしないですよ。校長先生と違って。そのスチール棚の中に隠してある例のブロックの城、早く持って帰ってくださいね。」
オレから指摘を受けた途端に、校長先生は、笑顔を歪ませた。
「・・・やはり、隙間から見えてしまっていましたか。サイズ的にどうしても扉が閉まらなくてね。あと、少しで完成なんです。明日、明後日にはしかるべく業者に頼んでも持って行ってもらうんで今日のところは多めにみてください。」
「絶対ですよ。次は手加減しませんから。」
校長先生に念を押してオレと狩野先生は校長室を後にした。




