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第二十九話

まさか・・・やるのか?


考えるより先にベストからサングラスを出してつける。反射的に透羅の現在地からの逃走経路を頭の中でイメージする。

一番近いΘ(シータ)出口まで透羅の足なら走って20秒くらい。もし、一番遠いα出口なら・・・経路によるけど5分くらいってトコか・・・。

透羅は通路の方を見たまま止まっている。

店員さんが透羅に近づいてくる。

普段とは違う様子の透羅に近づく店員さんも少しとまどっているようだ。

透羅と店員さんの距離が約1メートルまで縮まる。


「キャッチ!」


イヤホンに狩野先生の声が流れるのとほぼ同時に、透羅が通路に向けて走りだしたのを確認する。

バックと着てきた服は試着室に置いたまま、試着室からレジカウンターの横を通り抜け、いくつかの棚を過ぎ、まっすぐに通路に飛び出した透羅はそのままの勢いで右に曲がる。

Θ出入口の方向だ。

透羅の姿を見失わないようにオレもすぐに通路に飛び出す。感づかれないよう前に回り込むために、ある程度通路を走った時点で再び婦人服売場に入って棚の間を抜けていく。棚の切れ間から時折見える透羅の姿が、子供服売場前のT字路にさしかかる。

右に進めばΘ出入口、左に進めばエスカレーター2の方向だ。


「キャッチ、Θ出入口に父親を確認。このままだと数秒後ターゲットとハチ合わせるぞ。」


イヤホンから聞こえる狩野先生の声に。


父親って誰だ?


と一瞬だけ混乱したけど、すぐに思い出した。

透羅の親父さんだ。


タイミングを計っているとは言ったけど、ここまでピッタリ合わせられるもんなのか?


そう思った瞬間、T字路を透羅が右に曲がるのが見える。


ちくしょう、落ち着け落ち着け


心の中で復唱する。

もし、透羅がΘ出入口を通過した後で、親父さんにつかまったらその時点で犯行が成立してしまう。誰も見てなければ話は別だが、今回は、婦人服売り場の店員さんや、無線ですでに警備員さん達にも伝わっている。

出る前に止められれば父親に見せにきたなり急いでいたなり、様々に言い逃れはできるが、一歩でもドアの外に出てしまえばもう手遅れだ。

Θ出入口へと進む透羅のスピードが少し落ちる。

すでに、透羅の目の前には親父さんが驚いた顔で立っている。


Θ出入口まではあと約3メートル


どうする?

今、捕まえに出るべきか?


オレの心臓が、まるでアラームが鳴るみたいに騒がしく動く。


大体アイツは、いっつも一人で抱え込んで一人で解決しようとしやがるんだ。サッカーの時だってバスケの時だって、最後の決定的な瞬間に仲間に頼れねえ。そんで、負けたら自分の責任だとしょいこんで、落ち込むんだからタチが悪い。

一度、負けたのが悔しくて皆に隠れて泣いるのを見たこともあった。そん時は、声をかけたら逆効果だと思って、そっとしておいたけど・・・。今回も思いつめてヤケクソになったんだろう。


離婚が嫌なら嫌だって駄々こねてみればいいじゃねえか。


泣きてえならおおっぴらに泣きゃあイイじゃねえか。


そんなに大人しくする必要あんのかよ。


こんな形で反抗するしかなかったのか。


なんで誰にもにも相談しねえんだよ。


いつだって言いたい放題言うくせに、肝心のことは何にも言わねんだからな。


そんなになるまで我慢する必要ねえじゃねえか。


いっつも一緒に遊んでた友達が一人で悩んで苦しんでるのに、何にも出来ずに、知らないうち犯罪者になってたらよ・・・。


オレだって、クラスのやつらだって淋しくってやり切れねえだろうが。

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