第二話
今でさえ、周りの男子が騒ぐほど美少女(認めたくはないが)の透羅だけど、数年前までは泥だらけになりながら、オレと一緒にバスケやらサッカーやらで遊んでいたので、いつも男子と間違えられていた。
たまにしか透羅と会う機会のなかったオレのじいちゃんなんか、つい最近まで透羅のことを男だと勘違いしていそうだ。女性ファッションに目覚めた透羅を見て、逆にニューハーフになってしまったと思ったらしい。
そんな透羅に人の見た目がどうのといわれるのは、非常に納得いかないのだけど、これ以上、口ゲンカを続けたとしてもまったく勝てる見込みもないのでやめておくことにした。
「とにかく、ダメなもんは駄目だ!これは職員室で預かってもらう。」
「イヤッ!!返して!」
オレが手に握っているドアミニを、透羅が取り返そうとして右手を伸ばしてくる。
渡すまいとして、バスケットボールの要領で右足を軸にして、左手を後ろに引いて身体をななめにした。
その動きを見透かされたのか、透羅は右手が伸びきる前に途中で引っ込め、同時に反対の左手を大きく伸ばし、一気にオレが避けた方向に回り込む。
「あぶねっ!」
慌てドアミニを持つ左手を上に挙げて、紙一重で透羅の攻撃をかわす。
後ろに倒れないようにバランスをとるために、上にあげた腕をそのまま前に振り下ろす。右足に力をいれてなんとか踏みとどまる。
「もう、諦めて素直に渡しなさいよ。あんたのパターンなんかお見通しなんだから。」
透羅がサイドステップで目の前に立ちふさがる。左手の指を中に浮かせてピアノの鍵盤をたたくようにバラバラと動かしている。透羅が相手のタイミングを計るときの癖だ。
本人曰く、「敵のリズムを盗んでいるのよ。」とのことだった。確かにこの動作が出た時のコイツは本当に手強い。
「ちくしょう、やりにくいな。」
オレは思わず叫ぶ。
透羅とは、小さな頃からほぼ毎日遊んでいたので、お互いの手の内はほぼ知りつくしている。バスケやサッカーをしていて、こうして1対1で向き合うのも通算すれば、100や200では効かない。お互いに相手が何をすれば嫌がり、何をすれば勝てると思っているかが手を取るように理解できる。
そして、対峙するたびに「コイツにだけは負けられない・・・」と強く思う。
かといっても、透羅はスポーツをやらなくなって、かれこれ1年以上経つので、本来ならオレの方が有利なんだが今回は条件が悪い。
まず、この左手に握りしめているドアミニ。
一応、保護ケースで覆われてはいるが、勢いよく落としてしまえばもちろん壊れる。そう思うと身体の動きも少し固くなる。
あと、場所だ。
もし、ここがグラウンドや体育館だったら、フェイントをかけて一気に抜き去ることができるのだけど、校舎の廊下を走ることは禁じられている。風紀委員としてはそれを破るわけにはいかない。
何とか距離をあけようとするが、透羅の攻撃はやむ気配はない。
そのうちに、何事かと足を止めて、オレ達のせめぎ合いに立ち止まる生徒も増えてきた。
時間が長引けば長引くほど、状況はオレに不利になっていく。
「なんとかしないと・・・。」
と思っていると、野次馬の輪の外から、聞き慣れた声がした。
「廊下でこんなに固まるんじゃない!人が通れなくなるだろう。」




