第二十話
狩野先生の口調から時間の余裕はないことがわかるので、疑問は口にせずにチェイサーのボタンを押して了解の合図だけは送っておく。
言われたとおりにその場で待っていると、数秒後、20~30代くらいの男の人がレジ通路を走り抜けていくのが棚の隙間から見える。
コギレイな格好したその男の人は、正面に伸びるエスカレ-ターからの通路を右に曲がり、そのまま透羅と同じようにα出入口に向かってかけていく。
オレは、棚に隠れて距離をとりながら男の人の後を追っていく。
(どっかで見たことあったかな・・・。)
男の人の後ろ姿に何か見覚えを感じていると、狩野先生からの通信が入った。
「その男性がおそらくこの間話していた教授だ。」
「教授って、テディランドで透羅たちのことを聞いてたっていうあのストーカー?」
視線の先を見ると確かに透羅を急いで追っているようにも見える。
「ストーカーかどうかはわからんが、その教授だ。・・・ターゲットが店外にでるぞ。」
α出入口の方を見ると、遠目に透羅が自動ドアにさしかかったところが見える。
「透羅!」
その瞬間、教授は右手を斜め前に伸ばし声をあげた。
意図してというよりは、思わず声が出てしまったという感じだ。
周りにいた数人は、振り返って教授を見ていたがちょうど自動ドアが締まるタイミングだったので透羅には聞こえなかったようだ。
声に気づかずにモールの外に出て行ってしまった。
教授は、叫んだ姿勢のまま固まったように動かない。
α出入口付近にある化粧品の棚の間を回り込み、物陰から教授の顔を覗き込む。
その瞬間、モヤモヤとからまっていた記憶の糸が、しっかりと1本に繋がった。
最後に会ったのはもう、2年前くらいかもしれない。
透羅とオレが遊んで泥だらけで帰ってくる度に、いつもそんな顔で出向かえていた。
焦りとあきらめが入り混じった困っている表情。
「元気があるのはいいことだが、もう少し女の子らしくできないかな。」
いつも透羅に向かって言う小言は、最後は溜息が混じって途切れ気味だったっけ。
もう、ぜんぜん会ってなかったけど、雰囲気はあの頃のままだ。
教授と呼ばれていた人物は透羅の親父さんだった。




