第十七話
時刻は、16時半。
まだ人は少ないが、それでも近隣の学校の中高生や、夕飯の買い物に来たであろう子連れの母親の姿がチラホラ見える。オレは、2Fの駅側出入口Θ(シータ)から出入り客が把握できる範囲で、周りから怪しまれない程度に店内を巡回をしていた。
今回は、ターゲットが顔見知りのため出来るだけ先に相手の動きを把握しておくためだ。
ましてや相手は2人いる。一方を追いかけている間に、もう一方に見つかってしまって警戒されてしまうようなことは避けたい。実際に、こないだは危なかったしな。もし踏みとどまるのが遅くて透羅にハチ合わせていたら、ものすごく怪しまれたと思う。
今回は入ってきた瞬間に相手を尾行できるように入口付近で網を張っている。
本当は、前回2人が出て行った駐輪場近くの1Fのα(アルファ)出入口に網を張りたいところだが、α出入口は1Fの食料品売り場に通じているため人の出入りが多い。
人混みに隠れて相手を確認することはできるメリットはあるけど、逆に他の買物客に怪しまれてターゲットに発見されてしまうデメリットもある。
なので、そちらのα(アルファ)とβ(ベータ)・γ(ガンマ)の出入口に関しては狩野先生にモニターで確認にしてもらうのと同時に主任を始めとする3人の警備員さんにも協力して見張ってもらっている。とはいえ、警備員さん達も自分の持ち場があるのであまり頼りきってもいられない。
16時55分
Θ出入口から死角になる柱によりかかり、入ってくるお客さんを確認していたオレのイヤホンから耳慣れない声が響いた。
「1階 α、来た。」
警備主任さんの声だ。
普段は混乱しないように、オレと狩野先生の使っている無線と警備員さん達の使っている回線のチャンネルは分けているが、今回はスピードを重視してターゲットが発見されるまでの間、一時的に同じ回線を使わせてもらっている。
「今、前を通り過ぎていった。髪の長い女の子だけだ。通路をまっすぐにエスカレーター方向に進んでいる。」
「了解。」
透羅だけか。面倒だな。
心の中で舌打ちをする。
ターゲットが二人以上の場合、一方をマークしているうちに、もう一方のターゲットに発見されてしまう可能性があるため、別々に行動されるといつもの倍の警戒が必要になるからだ。
連絡があった間も入口から目を離すことはなかったが、鷺沼の姿は見えない。他の場所にいる警備員さんからの連絡もない。
ということは、時間帯をずらして入ってくるのか?
エスカレーターはNOA店内中央に備え付けられている。そこは吹き抜け構造になっていて場所によっては、上りのエスカレーターを確認しながら2Fの入口は無理でも入口近くの通路を確認することは可能だ。移動するべきか・・・。その迷いを見透かしたかのように狩野先生からの通信が入る。
「落ち着いてるか?キャッチ。鷺沼の姿は今のところ見当たらない。早乙女がそろそろ2の上りエスカレーターに乗る。まずは、そちらの動きに集中してマークしてくれ。」
「了解。落ち着いたよ。コーチ。」
柱を離れて上りのエスカレーター2の出口を確認できる場所まで移動する。
「鷺沼に関しては、それぞれの出入口はこちらのモニターで確認する。警備員さん達にも見かけたら連絡をもらえるように言ってはある。だが、いつも以上に周りへの警戒は忘れないでくれ。あと、混乱を避けるため通常通りの専用回線に戻す。」
「了解。」
エスカレーター1の上りの出口正面付近には、紳士服売場がある。斜め5メートルほど離れた地点にあるマネキンの影に身を屈め、隠れて様子を伺っているとエスカレーターから出てくる透羅が見える。手には、この間没収されそうになったタブレット型パソコン「ドアミニ」が握られている。歩きながらも何かを確認しているようだ。こちらからみて左に曲がっていく。
「ターゲット確認。」
透羅に気づかれないように紳士服売場の棚やワゴンの棚の陰に隠れながら移動する。左腕にはめたチェイサーで自分の位置を一度確認する。このまま真っすぐ進めば、2階からの下りエスカレーター1を越えてΘ出入口に行きつく。
吹き抜けの外周を囲むように伸びている通路と十字に交差する。左手に行けばテディランド。右手に行けば女性もののアクセサリーの売り場に出る。鷺沼がカチューシャをバッグに入れた場所だ。オレは先回りして十字路が見渡せる場所に出る。出来るだけ周りから怪しまれないように洋服を選ぶふりをしながら、通路の様子を伺う。
数秒して透羅が十字路に入ってくる。
(右か?左か?)
どちらに曲がってもすぐに対応できるように意識を集中させる。
しかし、透羅は、予想外にも曲がることなくまっすぐ国道側のΔ出入口方向に歩いて行く。移動しながら慎重に様子を伺っていると十字路を少し過ぎた場所でキョロキョロと周りを見渡している。鷺沼を探しているのだろうか。しばらく見ていると突然何かに気づいたらしく、ビクッと体を震わせて慌ただしく、もと来た十字路の方に戻ってくる。
「コーチ、Δ出入口に鷺沼がいないか確認して。」
「了解。」
透羅は戻ってきた十字路をアクセサリー売場の方向へと曲がっていく。アクセサリー売場への通路の途中には、靴・バックなどの売場がある。歩きながらも時折、斜め左後ろを振り返りバックの棚の間から入口つながる通路の方を確認している。
その視線の先にあるものが何なのかは、今のオレの位置からでは確認ができない。
「モニターには見当たらないな。」
イヤホンに狩野先生からの返事が入る。
「了解。でも誰か探してるみたいなんだ。」
「ターゲットのその様子はこちらでも確認できるんだが・・・。」
そうこうしてる内に透羅は通路の奥へと進んでいく。
このままだと見失ってしまう。
「オーケー。念の為に反対側から回り込むよ。フォローお願い。」
「了解。」
透羅の監視を狩野先生にお願いして、急いで反対側のエスカレーター2の方に移動する。




