第十一話
次の日の放課後、まずは、ターゲットである鷺沼の人柄をつかむべく、オレは透羅に話を聞いてみることにする。
家が近所なので小学校2~3年の頃は、一緒に帰ってそのまま待ち合わせて遊びに行くこともあったが、4年生になる頃には、自然にお互い別の友達と帰るようになってはいた。透羅が一人になるのを見計らって、声をかけられるように帰り道を尾行する。ストーカーみたいで嫌だが周りにいる奴らにチャカされてもめんどうだ。
透羅が最後の友達と別れると、オレは偶然を装って話しかけた。
「よお、奇遇だな。」
突然現れたオレに、透羅は一瞬だけ驚いた顔をしていたが、次の瞬間にはいつもの皮肉な表情になっていた。
「なんだ、太一か・・・びっくりさせないでよ。奇遇だなんていうから画期的なアンチエイジング技術が開発されて、小学生の見た目を持つおじいさんが声をかけて来たのかと思ったわ。」
相変わらず口の減らないヤツだ。
「悪かったな、年寄りくさい口調で。日本語の生き字引みたいなじいさまと毎日、会話してっとこうなるんだよ。お前こそ、いまのうちから正しい日本語にふれといた方がいいぜ。」
「大きなお世話よ。言葉は時代とともに変わってくるんだからニュアンスさえ相手に伝わればいいのよ。おじいさんから戦後と同じ教育を受けてる太一にはわからないでしょうけど。」
「将来的にお前が困らないようにアドバイスしてやったんだよ。ニューハーフバーに勤めるようになったら正しい日本語でお客さんに接しないと失礼だからな。」
透羅は、わざとらしく大きく溜息をついた。
「はあー、昔の話をいつまでも引きづるなんて女々しいわね。こんな国民的美少女を捕まえてニューハーフ扱いするなんて、アンタ、将来後悔するわよ。で?なんか用なの?アンタ、何の用もなく人に話しかけるタイプじゃないでしょ。 家までの帰り道にしか話は聞けないわよ。今日はダンスのレッスンの日なの。」
どうやら挨拶は終わったようだ。いつからかコイツとは、挨拶変わりにお互いの憎まれ口を言い合う仲になっていた。口べたなオレでも、コイツには遠慮なく言いたいことが言えるのが毎回不思議だった。ともあれお互いに相手をよく知っている分、話が早いのはありがたい。
「お前のクラスのさあ・・・鷺沼ってどんなヤツなの?」
オレのセリフを聞いたとたん、透羅は道端に這っている毛虫でも見たような顔した。
「アンタ・・・真帆ちゃん狙ってんの?ホント男子って単純よね。それまで全然見向きもしなかったくせに頑張ってカワイくなった途端にコレだもの。先月だけでも3人の男子に真帆ちゃんの個人情報を聞かれたわ。趣味やら好きな物やら・・・。まあ、そのたびに自分で聞きなさいよって突っぱねたけど。 だから、そう言った話なら本人に直接お願い。 しっかし、気温が高くなると人は恋に落ちやすくなるって聞いたことがあるけど、アンタみたいな草食を通り越した植物系の男子にすら影響を与えるなんて地球の温暖化ってあなどれないわね。」
無駄に深刻な表情の透羅に、次はオレが大きく溜息をつく番だった。
「はあー、そんなんじゃねえよ。こないだお前が狩野先生にドアミニ取り上げられた時に言ってたろ。これは、自分と友達を繋ぐ大事なコミュニケーションツールなんだって。 そこまで言われたらどんな奴か気になるのが普通じゃねえか。後になって、それが鷺沼って名前の女子だって狩野先生に教えてもらったんでね。だから、聞いただけだよ。」
透羅はまだ疑わしそうにしている。
「どうだかねぇ。まっイイワ。真帆ちゃんは、とっても素直で可愛いい子よ。 ちょっと人見知りなところはあるけど、仲良くなると結構よくしゃべったりするかな。何回かお家に遊びに行ったことあるけど、一人っ子だからすごく大事にされている感じだった。
真帆ちゃん、あんまり友達を家に連れてきたことないらしくて、真帆ちゃんのママに真帆と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくお願いしますって何度も言われたし。その時、おやつに出してもらったパイがものすっごくおいしくてね。後で調べたら銀座の有名なパテシエールのお店のだったの。超高級品。家も広くてキレイだったし。実はけっこうお金持ちなのかもね。」
その時食べたパイの味を思い出しているのか、透羅はうっとりした表情をしている。
「ふーん、そんなに金持ちだったら、服も結構いいもんなんじゃねえか? インターネットを使って勉強するまでもなく・・・それとも、鷺沼の母ちゃんに服のセンスがないとか・・・。」
オレがそう言うと、透羅はアメリカ人のように両手を左右に広げて首をふった。
「たとえそうだったとしても、アンタみたいに年中同じ格好してる人間に言われたくはないでしょうね。言っておくけど真帆ちゃんのママすっごく美人なのよ。センスもいいし。 ただ、ちょっと浮いちゃうのよね。真帆ちゃんもママの趣味でお嬢様系のファッションブランド着てたんだけど、発表会とかならともかく普段着だと近寄りがたい感じがしゃうのよね。本人には全然そんなつもりはないんだけど。少し安くてもラフな感じの服のほうが皆、話やすいのよ。実際、そうだったし。」
「大事にされてんだな・・・でも、逆に本人は窮屈かもな・・・過保護ってヤツじゃないのか?」
俺からの質問に透羅が小首をかしげながら答える
「別に過保護とまでは思わないけど・・・。真帆ちゃんのママ、そんなに口うるさい方じゃないみたいだし割と普通なんじゃないかな。一人っ子だから常に心配はしてるんだろうけど。」
家庭内での精神的なストレスや親への反発が原因ってわけではないのか・・・。
別に心にストレスがあるから万引きをするわけじゃあないけど、そういったキッカケで万引きをするようになって常習犯になっちまうってのはよく聞く話だ。
「欲しいものとかは何でも買ってもらえそうだな。」
何気なくオレがつぶやくと、透羅が眉間にシワを寄ながらいった。
「・・・アンタ、真帆ちゃん家の財産狙ってんの?」
「そんなんじゃねえよ。」
欲しいものが比較的手に入りやすい環境なら万引きをする目的はスリルとか刺激とかを求めてなんだろうか。それならば、入口付近で盗った商品を別の棚に戻したことも合点がいく。それとも、学校に馴染めないことでのストレスが原因なのかな。
まあ、どのみち、心の問題は傍から見てもわからないからな。
やっぱり本人に会って直接話を聞いてみるしかないかな・・・。




