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プロローグ

プロローグ



(ターゲットを追うこの瞬間にいつも考える

走って・・・

走って・・・

走り続けた先に・・・

一体何があるんだろう?)


夕暮れ時のショッピングモールには、夕飯の献立に頭を悩ませる小さな子供を連れたお母さん達で賑わっている。

その合間を駆け抜けていく。

ヘアワックスで、斜め後ろに立たせた髪、全身黒ずくめの姿、そして眼にはミラー使用のサングラスを着用している。

すれ違った少し年配の販売員が顔をしかめている。

「我が子には、こんな真似はさすまい・・・」と思っているのかもしれない。

ショッピングモール内のお客さんは、誰一人としてにオレに気をとめる人はいない。

認識していないといったほうが、たぶん正しい。

視界の端に姿を捉えられる前に、別の場所へと移動している。

時には、壁の陰に。

時には、ワゴンの隙間から。

草木の間を縫って獲物を狙うの肉食獣のように、物陰から着々とターゲットへと近づいていく。


(今、こうして必死に走ってみたとしても、後になって振り返ってみたら、結局、全部無駄だったな・・・と思うのかもしれない。)


少し移動のスピードを落とし、出入口の自動ドアにつながっている大きな通路から、向かって左にある雑貨売り場へと入っていく。

通路に並行して棚が作られているため、棚の隙間を通して通路の様子を確認でき、出入口に向かう客の視線から隠れる事ができる。

弾んだ息を整えていると、右耳につけた無線イヤホンから、聞きなれた若い男の声が流れた。

「キャッチ!左後方からターゲット接近中。距離10メートル。 以前、商品は持って移動中。」

通路をぐるりと見回し、左手につけた携帯型モバイル端末に目を落とす。画面には、店内地図がインプットされている。

屋内GPSにより、リアルタイムで自分がどこにいるかを青い球系で表示されている。

「そろそろか・・・」

もう一度通路に目を向けると人混みに紛れてターゲットがこちらに歩いてくるのが見える。必死に押し隠してはいるが、見る者がみれば、緊張しているのは一目瞭然だった。

「ターゲット確認。 さすが、狩野先生、いつもながら見事なご指導で・・・」

モバイル端末にむかって軽口をたたくと、すかさず、イラだった声がイヤホンから飛び込んでくる。

「任務中は、コードネームを使えと言ってるだろう! 誰が聞いているかわからないから・・・国語の成績さげるぞ!」

「了解、コーチ。」

相手からの答えに自然に口元がニヤける。ターゲット確保前のこんなやり取りも毎度のことだ。話をチャカす理由は2つ。

1つは、緊張をほぐすため。もう1つは、自分が特別な存在などではなく、これから確保しようとしているターゲットと同じただの小学生だということ再認識するためだ。


(でも、まあ、親父も言ってたしな・・・。)


棚に隠れるように身を屈め、四つん這いになる一歩手前の姿勢を保ちつつ移動する。

棚の隙間からターゲットの少年の顔を見ると、出口が見えてホッしたのか少し緊張がほぐれた表情になっている。

(「人間にゃあ、出来ることと、出来ねえことの2つしかねんだからよ・・・四の五考える前に、今、出来ることを必死になってやりゃあいいんだよ。」ってね)


「ドアまで、あと約3メートル。」

イヤホンにコーチの声が響く。

あのドアを越えさせたらいけない。

ドアの外には、警備員さんが待ちかまえている。

ターゲットが商品を持って外へ出た時点で保護され、その罪を問われる。

そういう取り決めになっている。「万引き」という犯罪が成立する前に、ターゲットを止めなきゃならない。

決着は、一瞬で着ける。

ターゲットがあの自動ドアをくぐる前に、自分の罪を認めさせる。

最後にもう一度だけ、頭の中でターゲットを確保する瞬間をイメージして深く息を吐く。

「あと約2メートル。」

呼吸をターゲットに合わせ、タイミングを計る。

フゥー、フゥー・・・、

フゥッッッ。

「約1メート・・・」

イヤホンから聞こえる狩野先生の声を聞き終える間もなく、身を潜めていた商品棚から

自動ドアに向けて走り出す。

サバンナでライオンが草木の陰から飛び出してシマウマに襲いかかるように、一瞬にしてターゲットとの距離を縮めると、背負っているナップサックのファスナーに両手をかけて一気に左右に開いた。

この中に、万引きした商品を入れたのは、さっき確認している。

開いたナップサックの中に右手をねじり込み、すぐさま引き抜く。

オレの手には、大人気アニメのキャラクターをディフォルメした10センチほどの人形が握られている。

そのまま、左手でターゲットの右手首をつかみ、その身体を軸にして社交ダンスのワルツのように半円を描いて前方に踊り出る。

両足を踏ん張り、左手に力を入れて、ナップサックを引っ張られた衝撃で後ろに倒れそうになっているターゲットの身体を手前に引き寄せる。

それと同時に、オレは、自分の右手に握っている人形をターゲットの目の前につきつけた。

「児童防犯自治体だ。君の身柄を拘束する」

ターゲットの少年は数秒の間、眼の前の事態を把握できずにポカンとしていけど、当然脱力して糸の切れた人形のように膝から床に落ちた。

そして、半分笑っているのか、あるいは半分泣いているのか解らない表情ののまま、誰に言うわけでもなく呟いた。

「ははっ・・・ キッドナッパーズって・・・ 本当にいるんだ・・・。」


この後、少年は、両親に連絡され、モール側の社員、そして狩野先生と面談をする。

もし、万引犯としてつかまっていたら、警察の取り調べをうけ、家庭裁判所での裁判になっていたこと。最悪の場合、窃盗の罪に問われ、多額の賠償金を請求されるか少年院に送られていたことを説明されるだろう。

その時、この少年が何を感じるかは、そいつ以外の誰にもわからない。自分がした行動への深い後悔かもしれないし、あるいは、周りを囲む大人達への剥き出しの敵意かもしれない。そのどちらにせよ少年は、2~3日の自宅謹慎の後、このショッピングモールで働くことになる。

期間は、それまでに万引きした商品の総額や当人の反省度にもよるけど、1週間から10日程度、最長でも2週間になっている。

形式上、弁済のためとは言うことにはなっているけど、所詮は子供の労働力なので、ショッピングモール側としたら、受入時の手間やら対応に割かれる時間なんかを考えるととてもじゃないが採算は合わないらしい。

つまるところは、労役ってよりも職業体験だ。

自ら額に汗して働くことで、本来、商品を手にいれるための賃金を得る苦労を知り、また、そこに携わる様々な人の想いに触れることで更生を促す目的がある。

更生するヤツもいれば、同じことをまた繰り返すヤツもいる。

この児童防犯自治体に入ってから、そんなことは何度もあった。.

泣きながら「もうしない。許して。」って言っていたヤツが、また、数か月後に同じ罪を犯す。

一時は、自分自身のやっていることに意味があるのか悩んだり、迷ったりしたけど、今は大分吹っ切れている。

今、出来ることを全力でやれば、ある程度は仕方がないと受け入れることができる。

もちろん、失敗した時の悔しさや悲しさが消えるわけじゃないけど。

だからこそ、「あの時、こうしていれば・・・」なんて後悔しないために、その瞬間に持てる力の限りを尽くすことに決めたんだ。


今、オレに出来ることは、1人でも多くの少年、少女の「万引き」を未然に防ぐことだけだ。

救えるか、救えないかとか

人のためになるか、ならないかとかは

また、別の話だ。

何の役にも立たないかもって思うと、なんかちょっと寂しいけど。


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