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アストリア城にて

エレナ「ん~これで大丈夫か?なにかおかしいところはないか?」

レイ「大丈夫だ。耳はしっかり隠れてるし服も不自然な所はない」








挿絵(By みてみん)


ソフィア「エレナって普段の服もエキゾチックで素敵だけど今の魔術師のローブもおしとやかな感じでいいよね~。元がいいのは羨ましいなぁ」

エレナ「そ、そうなのか」


アクア山から降りてアストリア大平原を突き進む。

もう大平原は半ばまで来たか。地平線まで続くいつも通りの青空だ。




ソフィア「あ、魔物がこっちに向かってきてるよ」

エレナ「まったく懲りないやつらだな」


そう言うとエレナは人差し指を立てた。

と同時に、襲いかかってきた魔物数体の全身を覆う炎が出現した。魔物達はもがいて何も出来ないようだ。



エレナ「さて行くぞ」

レイ「あ、ああ」


さっきからこの調子だ。襲いかかってきた魔物は全てエレナの炎系魔術で一掃されている。

魔術子が尽きる兆しがない。まったく、エレナの魔術力は底が知れないな。

おかげで俺とソフィアは戦闘に参加させてもらえずただ歩いているだけだ。(ソフィアはそもそも戦う気があるのか不明だが)





アストリア王国を包み込む外壁が大きく見え始めた。


レイ「(相変わらず堅固な壁だ。アストリアを攻め落とすにはこの壁に穴を開けるのが必須なのだが壁全体に強化魔術が施されているから破壊は無理か。飛行部隊が壁を越えて攻撃しても個別撃破されるから効率が悪い。セオリーとしては壁がない南側の海からの攻略だが既に対策済みだろう。南側全体を攻撃する魔術砲の起動準備はできてるはず。それが発動されたら海上部隊は一瞬で消え去る。相手の思う壺だな。ここは壁の下を潜るトンネルを作ってそこから大軍を通過させる作戦か。しかし見渡す限りの大平原だ。トンネルを掘る作業は簡単に見つかって集中攻撃を受ける。ならば上空からの攻撃で敵の注意を引き付けている間にトンネルを掘り進め・・・)」


いつもの空想に更ける。




ようやく壁門の前までたどり着いた。まだ日は真上まで昇っていない。

見張りの兵士は二人のようだ。


兵士A「レイモンド様、ソフィア様。よくぞお戻りになられました。・・・後ろの方は?」

レイ「ああ。アストリア平原で彷徨っていたのを保護した。命に別状はないが療養が必要だ。宿舎で休んでもらおうと思う」

兵士A「かしこ参りました。さあこちらへ」



レイ「(足止めは食らわなかったな。さすがに俺以外の人間にもエレナは人間に見えるのか)」


俺たちは壁門を潜り街に入った。相変わらずの繁盛ぶりだがこれがどこか虚空に感じる。


レイ「大丈夫かエレナ。人間ばかりの空間なんか慣れてないだろ」

エレナ「ああ、私は大丈夫だ」


確かに余裕そうに見える。見掛けが人間だから大丈夫なのか?




街を抜け、城門にたどり着いた。


兵士B「レイモンド様、その方も城内に入れるのですか?」

レイ「王様に、書状の相手が来たと伝えてくれ。そうすれば分かる」

兵士B「はい。かしこ参りました」


数分後に確認の兵士が来て城内に入ることができた。


レイ「なかなか豪華な城だろ」

エレナ「あ、ああ。そうだな」


アストリアに来てエレナの様子が妙におかしい気がするが。

いや、おかしいとは逆で妙に自然体だ。俺が逆の立場だったら落ち着かないのだろうが。

・・・・・・いや、そうでもないかもしれない。




俺たちは王の間に案内された。


レイ「エレナも元魔王だ。国王の前では跪かなければならない。プライドが許さなかったらここで待機してても構わないぞ」

エレナ「いや、レイがやるというのなら私もやろう」

レイ「そ、そうか」


俺たちは王の間に入った。






近衛兵A「レイが戻ってきたみたいだぞ」

近衛兵B「魔術はからっきしなのに、よく毎回毎回生きて帰ってこれるなぁ」

近衛兵C「剣の腕前が凄いからだろう。頭の回転も早いからダンジョンとか無難に対応できるんだろ」

近衛兵B「つくづく勇者に適格だなぁ。国王陛下が直々に指名されるのもうなづける」

近衛兵D「いや、勇者の任命は元老院の承認が必要だ。みんなが勇者に推したってわけだ」

近衛兵B「あいつぶっきらぼうのくせに妙なカリスマがあるからなぁ。国王陛下のお気に入りなのも仕方ないか」

近衛兵C「そういえば陛下は御子息がいらっしゃらないんだよな。もしかしたらレイが次期国王かも」

近衛兵A「いやそれはさすがに・・・・・・すごいあり得る」

近衛兵B「確かに・・・あの風格は王族そのものだ。どっかで帝王学でも習ったか?」

近衛兵D「ちょうどレイも両親がいないから養子にして国王継承権を与えればいいんだな。今のうちにレイに媚を売っとくか」

近衛兵B「やめとけやめとけ斬りつけられるぞ」






俺たちは国王の御前に立ち、礼拝のポーズをとる。


レイ「勇者レイモンド=リウドルフィング。只今帰還致しました」

シャガールⅣ世「よくぞ無事に帰還した勇者レイモンドよ」





挿絵(By みてみん)


レイ「・・・・・・」

シャガールⅣ世「・・・・・・聞きたいことが山ほどあってたまらないという面持ちだな。あとで私の執務室に来るとよい」

レイ「ははっ」

シャガールⅣ世「うむ、大義であった。下がるとよい」





俺たちは王の間を後にし、居間室に入った。

しばらく居間室で待機したあと、兵士が部屋に入ってきた。


兵士C「お待たせしました。陛下の御準備が整いましたので執務室に向かうよう仰せられました。なお、レイ様一人でとのこと」


レイ「?・・・俺一人か」

ソフィア「いいじゃん行ってきなよ」

エレナ「ああ、行ってこい」

レイ「・・・・・そうか。分かった」


居間室を後にし、執務室の前に来た。


レイ「レイモンド=リウドルフィング。ただいま参上仕りました」

シャガールⅣ世「うむ、入ってよいぞ」



執務室の中に入る。

流石に国王だけあって机や椅子、本棚から照明に至るまで細やかな細工が施されており豪華絢爛だ。


シャガールⅣ世「まぁそこに座りたまえ」


俺は対要人用の長椅子に腰を掛ける。

国王はその対面側の長椅子に腰をかけ、両手を膝に一度叩いた。


シャガールⅣ世「二人だけだ。ざっくばらんに話そうじゃないか。まずは何から聞きたい?」

レイ「あの書状を書いた意図を教えてください」

シャガールⅣ世「うむ。いきなり本質から入るな。しかしそれが全てではある」


国王は立ち上がり、窓の近くに行き外を眺め始めた。


シャガールⅣ世「君に、世界の真理を探してほしくてな」

レイ「・・・・・・」

シャガールⅣ世「この世界には謎が多すぎる。魔族はどこから現れるのか。魔術はどのようなメカニズムで発動することができるのか。人間、そして魔族の存在価値とは何なのか。世界の真理を突き止めてほしくてあの書状を書いたのだ」

レイ「?・・・・・・答えになっていません」

シャガールⅣ世「確かにそうだ。しかしどうしてもそれが答えなんだ」


国王は窓からこちら側に振り返った。


シャガールⅣ世「君は若い頃の私に似ている。だから私が果たせなかった事を成し遂げてほしい」

レイ「?・・・・」

シャガールⅣ世「君はアストリア王国が、いや人間の世界が窮屈で堪らないのだろう」

レイ「!・・・・」


シャガールⅣ世「私には分かる。私も若い頃は世界の果てを目指す野望を持っていた。しかし私は王族の生まれだ。その野望を諦めざるを得なかった。しかし君は違う。君は何物にも縛られない人間だ」

レイ「・・・・・・」

シャガールⅣ世「あの書状はきっかけにすぎない。あれは君を世界へ導く為の布石なんだ。そして君はそれを受け入れてくれた」

レイ「!・・・」

シャガールⅣ世「大丈夫。エレナは器量よし裁量よし。君の心を常に癒してくれる最高の相手だろう」

レイ「・・・・やはり、エレナを知っていたんですか」


面識がない相手にあんな書状を出すわけがない。しかも魔族の頭だ。

国王とエレナはどのような関係なのかが気になった所の一つだ。


シャガールⅣ世「彼女がまだ赤ん坊だったときに私が引き取った。それ以来このアストリア城で彼女は育った。しかし一年前に突然彼女は理由も言わずにアストリアを去っていった」

レイ「・・・・・・」

シャガールⅣ世「心の優しい彼女のことだ。国王が魔族を育ててる事が世に広まったら私の立場が悪くなるのを危惧したのだろうか。私はそんなもの気にするはずないのに」


城内で魔族を匿っているという噂は聞いたことがあるがそれがエレナだったとは。

あの人間臭い性格はここでの生活が故なのだろうか。


シャガールⅣ世「エレナは私の娘のようなものだ。娘には最高の婿を思ってな。そしてこの世界は依然として魔族が掌握している。魔王になれば世界を探りやすいだろう」

レイ「・・・・・・」

シャガールⅣ世「しかし君だけで行くと色々と混乱すると思ってな。ソフィア=フランコニアも同伴させた」


レイ「?・・・・・・ソフィアが着いてきたのは王の命令だったのですか」

シャガールⅣ世「命令という程でもない。どちらかというとお願いに近いな。君が何か迷いそうになったら肩を押してやってくれと頼んだ。それができるのは君と仲の良い彼女だけだ」

レイ「・・・・・・はぁ」

シャガールⅣ世「この様子だと彼女は君の手下になったのかな?彼女もこの人間の世界には窮屈そうだったから当然と言えば当然か」

レイ「・・・・・・」

シャガールⅣ世「しかし困ったな。彼女は名家リウドルフィングの子女だ。魔族の仲間になったというのはまずい。勇者の供として長期遠征、とか上手い命令書を作っておかねば」



ソフィアが脱壁許可書を持たずに外へ出れたのは国王の手引きか。

それにしてもここまでの俺は国王の手の上で踊っていたというわけだな。でも不思議と悪い感じはしない。

・・・・・・ソフィアの奴が書状の内容をあらかじめ知っていたとしたらソフィアの手の上でも踊っていたということになるのだが考えるのはやめよう。



俺は長椅子から立ち上がった。


レイ「・・・・あなたの期待に応えられるのかは分かりません。しかし私は既に覚悟を決めています。私が選んだ道をただ突き進むのみです」

シャガールⅣ世「ははは。それでよい。・・・しかし魔王となったからには次は戦場で相まみえることになるかもしれないな。私が言うのもなんだがアストリアは手強いぞ?」


確かにアストリアを攻略するのは至難の技だ。地理的条件は非常に魅力的なので取る価値は十分ある。ハイリスクハイリターンだな。


レイ「そうならない事を祈ります。聞きたかったことは全て聞けました。私はこれで」

シャガールⅣ世「うむ、君が進むべき道に幸あらんことを」



長椅子から立ち上がり、この勇敢な愛すべき初老の人間に深く一礼をして執務室を去った。

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