表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

魔王城の空

『この男を婿とすべし

             シャガールⅣ世』




何度見返してもそう書かれている。


???「婿ってこたぁ新しい頭として迎い入れろってことですかい?」


・・・・・・もう何がなんだかわからない。この山に来てから何もかもがおかしい。



エレナは突然玉座から立ち上がった。


エレナ「お前らよく聞け。私はこの書状、受け入れようと思うんだがお前らはどう思う?」


???「へぇ。あっしは構わないっすがね」

???「いいっすね~いいっすね~姐さんもとうとう人妻っかぁ~。ますます美貌に磨きが掛かりそうで」

???「お主が新しい我が主になるのか。よろしく頼むぞ」



レイ「(・・・・なんなんだこいつらは一体)」

ソフィア「ほぇ~。レイって魔王になるんだ。大出世だね~」


ソフィアのいつもの暢気なノリに俺の焦りはさらに高まる。


レイ「ちょっと待て!俺は人間だぞ?魔族の仲間になんかなれるわけないだろ」

エレナ「何を言っている。この中でお前が一番魔族っぽいじゃないか」

レイ「!!・・・・」




俺の、これまでの生き様を全て見透かされたような発言だ。




俺の生まれは町外れの小さな村だったようだ。

しかし記憶もおぼつかない頃に魔族に襲撃されて壊滅した。


俺は数少ない生き残りの一人だったようでアストリアの孤児院へ引き取られた。両親は魔族に殺されたと聞く。

普通なら魔族に恨みを持つはずだが俺は不思議とそのような感情はなかった。


13の時ぐらいか。院長の推薦で魔術学校に入ったが、どうも周りの人間とは馴染めなかった。

考え方が無味乾燥過ぎるそうだ。仲間に溶け込めないことを俺は別に気にはしなかったが。

ある日ふと自分の事を振り替えることがあった。



魔族っぽい。



そうだ、俺のやることなすこと何から何まで魔族と同じだ。

俺は魔族の行動原理通りに動いているんだと気がついた。


その日以降魔族というものに対する嫌悪感が増していったような気がするがそれ以上に、より魔族っぽい人間になっていったと思う。

そして人間的なものを無意識に蔑み見下すようになっていった。


魔族を嫌悪している魔族のような男が魔王になる?

まったく、運命ってのはなんとも皮肉なものか。しかしこれも必然なのだろうか。


・・・・・でも何か心の中で引っ掛かる。何かが。



レイ「・・・・・考える」


そう言って俺は魔王の間から出ていく。





???「・・・何を悩んでるんすかねあの男。もうあの男の中で決まってるように見えるんすが」

エレナ「それが人間ってものだろう。私たちのようにスッパリ割りきれないものがあるのさ」





魔王城屋上の見張り台の階段に腰を下ろす。

辺りはすっかり真っ暗だ。夜風がいつもより心地よく感じる。


レイ「・・・・?」


こちらに近づいてくる気配を感じる。


ソフィア「レイ」

レイ「・・・ソフィアか」


ソフィアはそのまま俺の隣に腰を下ろした。






挿絵(By みてみん)



ソフィア「うわぁ~綺麗~。山頂から見るアストリアってこんな綺麗なんだ~」

レイ「ああ、俺もこんな景色は初めてだ。壁の上で光っているんだな。見張り隊の灯火か」

ソフィア「ん~でもあの壁がなかったら街中とかもっと綺麗に見えるよね」

レイ「・・・俺たちを守ってくれる壁だぞ。感謝ぐらいしたらどうだ?」


いつもの他愛ない会話だが俺の心の中では妙にぎこちない気がした。




レイ「・・・お前はアストリアに戻ってもいいんだぞ」

ソフィア「ううん、レイがこうなったんだもん。私も魔族になる」


・・・予想はしてたが。


レイ「おいおい、まだ俺は魔族になるって決めたわけでは」

ソフィア「ううん、それでも私は魔族になるよ。だって私も魔族っぽいし」

レイ「・・・言っている事が無茶苦茶だぞお前」


魔族っぽいか。言われてみれば確かにそうだ。

こいつも魔術学校にいたときは一人でいることが多かったな。こいつの性格なら友達が沢山いてもおかしくないのだが。


レイ「・・・・まったくお前はいつも俺の後追いばっかりだな」

ソフィア「ちがうよ!私がやりたいこといっつも先にやっちゃうんだよ」

レイ「・・・・今回のこともか?」

ソフィア「うん!私もいつかは魔族の仲間になるって予感はしてたんだもん。でも・・」

レイ「・・?」


ソフィア「でも魔族になるってことはいつかは人間と戦って倒さなきゃいけないんだよね。私にできるかなぁ」

レイ「・・・・・・」



・・・・・・生まれて初めてこいつに尊敬の念を抱いた瞬間かもしれない。

魔族になるということはつまりそういうことだ。


人間を殺すことも辞さなければならない。

俺の心の中でそこだけが引っ掛かっていた。

でもこいつは既に腹を括っているようだ。



レイ「・・・そうならないようにするさ」


俺は立ち上がり、その場を立ち去ろうとした。


ソフィア「・・・・・レイ」

レイ「ん、なんだ?」


俺は後ろを振り返った。


ソフィア「大丈夫!エレナならレイを幸せにしてくれるから安心して!」

レイ「ん~なんだそりゃ?まぁいいか」


そう言って振り替えなおし、建物の中に向かった。

・・・振り帰る前のソフィアの表情が少し寂しそうに見えたのが印象に残った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ