魔王城
壁には文章が書かれている。
字体が崩れていない所からそう昔に書かれた訳ではなさそうだ。
ソフィア「何が書かれているんだろ」
俺とソフィアは壁に書かれた文字を読み始めた。
『世界の真理にまた一歩近づいた。
これなら世界の全てが究明される日もそう遠くはないだろう。
どうしてこの世界には魔族が溢れかえっているのか。
魔族はどこから現れるのか。
私は一つの仮説立てた。魔族が発生するメカニズムは魔術と同じであるのだ。
すなわち魔族はこの世界とは異なる全く別の空間から現れるのだ。
それを裏付ける現象を今この場で目撃した。
何も隠れ場所のないこの洞窟で魔族が突如姿を現した。
これすなわち魔導ホールの出現に他ならない。
魔族の謎と魔術の謎。
二つの謎が一つにリンクした。
さらには魔術の追求こそこの世界の真実を解明できる道であることを示していることに他ならない。
早急にこの事実を論文にしたためなければならない
アウグトゥス=レオニアウス』
レイ「・・・・・」
ソフィア「論文にしたためるだって。学者さんなのかなこの人」
レイ「さあな。少なくともこんなところに落書きするとはかなりの暇人であることに間違いない」
世界の真理の追及か。気持ちは分からなくもない。
この世界はわからないことが多すぎる。それを捜し求めるため遥か旅に出るというのも興味はある。
だが今の俺には関係のないことだ。
レイ「もういいか?洞窟を出るぞ。本来の使命を果たしに行かなければ」
ソフィア「うんわかった。ごめんね付き合わせちゃって」
洞窟を出ると日が落ちかかっていた。
山道の入り口はすぐそこにあり、ゆっくり登り始める。
ソフィア「すんごいのどかな山だよね~」
レイ「ああ、邪気を感じない。ここが魔族達の根城とはとても思えないな。」
ソフィア「う~ん。それにしてもその書状、何が書かれてるんだろう」
レイ「・・・さあ、わからん」
書かれている内容はだいたい想像できる。
アストリア王国に従え。忠誠を誓え。
そういった事が書かれているのだろう。
俺は王様から直々に勇者に選ばれた。
勇者というと聞こえはいいが要は鉄砲玉だ。
単独か少数パーティで敵の懐に潜り込み、その結果ほとんどの奴等は悲惨な末路をたどる。
この書状の内容も到底受け入れられるワケがない。
で、逆上した魔族に首を跳ねられて送りつけられるか、命が続く限り闘って魔族の国の戦力を削るか。
これが俺たちに課せられた真のミッションだ。
使者を不当に扱ったという大義名分が得られ堂々と魔族の国を侵攻することが出来る。
魔族相手なのだから人間的な筋を通す必要もないだろう。問答無用に壊滅させればいいものを。
まったくうんざりだ。どうしてそんな回りくどいやり方をしなければならない。
馬鹿馬鹿しい。人間というのは実に馬鹿馬鹿しい。
アクア山の中腹あたりまで来たか。
道の先に門のようなものがあり、その前に魔族の見張りがいた。
顔面は角の巨大な牛で、がたいの良い男性の姿をしている。
体長2メートルぐらいはあるか。大きな薙刀を握っているようだ。
俺とソフィアはその魔族に近づいた。
???「ん?何用だ、お前ら」
レイ「アストリア国王からの書状をこの国の魔王殿に渡しに参った。魔王殿に御拝見願いたい」
言葉を発することはできるようだなこの魔族。しかし素直にここを通すとは思えない。戦闘になるか・・・。
???「あ~そうかい。ついてきな」
そう言って魔族は振り返り山道を歩き出した。
レイ「(!?・・・すんなり通った?そんな馬鹿な)」
魔族の意外な反応に唖然とする。
俺とソフィアはその魔物の背中にただ付いていった。
???「こんな山の中にわざわざご苦労なこった」
ソフィア「うん、道案内ありがとう。でも門を守ってなくてもいいの?」
???「もうこんな時間だ。お前ら以外のやつなんか来ないだろう」
ソフィア「あ~そういえばすっかり薄暗い。もうこんな時間かぁ」
ソフィアと魔物が会話している・・・。全く異様な光景だ。
山頂あたりに差し掛かった。そこには砦のような建物がある。
???「あの中にお前らのいう魔王がいるぞ」
魔王城というにはあまりにもこじんまりした建物だ。
見張りの魔物につれられて建物の中に入る。
入ると天井が吹き抜けている大広間になっていた。その中には間族は一体もいない。
門番の魔族に連れられて通路の奥にある大きな扉の前まで来た。
???「お頭~アストリアからの使者が来てますぜぇ~」
???「おう、中へ入れ」
レイ「(ん?・・・聞いたことのある声だな)」
扉の先は魔王の間のようだ。
玉座まで敷かれる長いジュータンの右側には巨大な猫のような魔族が、左側には全身鎧の魔族がいる。
そして玉座には
ソフィア「あ!エレナだ」
エレナ「なんだ使者ってのはお前らなのか」
ソフィア「へ~この国の魔王ってエレナのことだったんだ」
エレナ「はは、魔王だなんて大それたものじゃないがな」
この国の住人だとは思っていたがまさか魔王だったとは・・・。
しかし魔族ってのは強い者が上に立つ社会だ。エレナの戦闘力なら魔族の頭を張っていても不思議ではない。
???「ほぉ、頭ってこの使者達と知り合いだったんすか」
エレナ「ああ、昼に山の麓で助けられてな。・・・・・で、おまえらなんの用だ?」
レイ「アストリア国王からの書状をお前に渡しに来た」
エレナ「ほぉ~。どれ、見せてみろ」
懐にしまってある書状を取り出しエレナに渡した。
エレナは封を開けて中身を読む。
レイ「(・・・さて、どう出るエレナ)」
エレナ「・・・・ふふふ・・ははははは。そう来たか!」
突然エレナが笑い出した。
レイ「ん?どうしたんだ一体?」
エレナ「お前、この手紙に何が書かれているのか分かっているのか?」
エレナは手紙を渡してきた。
『この男を婿とすべし
シャガールⅣ世』